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第7話 恋の先輩
しおりを挟む「とにかくね、私は先輩に幸せになってもらいたいんです」
「うん、まあ……ありがとね」
「それでダブルデートとかして遊びたいんですよー!」
「……うんうん、なんか前から言ってるよね。ごめんね、実現できなくて」
そんな話をしているところに、ランチが運ばれてきた。
「美味しそう。いただきます」
手を合わせると、愛梨さんが笑った。
「そういう、笑顔で手を合わせてる先輩、めっちゃ可愛くて、私、惚れたんですよね~」
「……惚れたの?」
「はい! あ、だから私もするようになりました。いただきます」
同じように手を合わせた後、愛梨さんは、一口目のサラダを頬張ってから。
「これ、やると、男の人が可愛いって言ってくれるんですよね、なんかちゃんとしてるねーみたいな。まあでも私のは先輩のまねっこですけど。でも先輩は、別にそういうんじゃなくてちゃんとやってるじゃないですか。なんかほんと、可愛いんですよねぇ、先輩」
「う、うん。ありがと」
たまに、「先輩が好き」と並べ立ててくれるので、自己肯定感はこの子と居る、ちょっとだけ上がる。
……ちょっとだけっていうのは、なんか冗談にも聞こえるから。まあ、少しだけ聞いとこうかなっていう……まあでも、褒めてくれるのは嬉しい。
「それで? 先輩、四連休はなにするんですか?」
「――中学の同窓会が初めてあるの。だから行こうかなって思って」
「へえ、同窓会ですかぁ……」
ふうん、と頷きながら、もぐもぐ食べて。飲み込むと同時に、ふふ、と笑う。
「まさか初恋の人に会えるからって、うきうきしてるとか? あーでも、中学だから……もう十年くらい前ですもんね。そんなわけ――」
そこまで言いかけて、愛梨さんがふっと笑うのをやめた。
私の顔を見て、何かを察したみたいに。
「――」
そんなわけない、て言おうとしたんだよね、きっと。
そう、そんなわけ……普通ならないよね。
愛梨さんは、んー、と考えながら話していて、ふと私に視線を戻してきた。
「……先輩、今日、仕事終わって何かあります?」
「え? どうして?」
「その返事は、暇ですね? 飲みに行きませんか? ゆっくり。多分、お昼じゃ聞けないから」
ふふふ~と笑う愛梨さん。
「聞くって……」
「先輩の、長い初恋について」
手で口元を隠しながら、こそこそ言ってるけど。
どうせ端っこだから誰にも聞かれないし。二十五にもなる人の初恋なんて誰も興味ないし……。
と思いながらも。
目の前にいる子は、めちゃくちゃ興味津々だなぁと思って。
「そんな話、ほんとに聞きたい……?」
「はい!」
明るい声に、ちょっと苦笑して、すこし俯いた。
聞きたいと言われて、どこか、嬉しいような自分がいるのが、なんだか悔しい。
「そういう長い気持ちって、人に話した方が楽になるかもですよ?」
「――」
「もしかして先輩が、全然誰とも付き合わないのって、それのせい……? もしそうなら、ほんと、聞いたほうがよければ、真剣に聞きますよ……?」
後輩だけれど、なんだか、とても、恋の先輩みたいに見えてくる。
ちょっと困って、どうしようかな、と考える。
でもふ、と思った。
いい機会かもしれない。
自分から今さら、こんな遠い初恋の話なんか、することはない。
奇特にも、聞きたいって言ってくれてるし。
愛梨さんなら、私の学生時代の友達、誰にもつながってないし。そこはかなり重要だし。
あと、仕事柄もあって、わりと口が堅いのも知ってるし。
あとこの子、すごくモテるし、恋愛相談みたいなの、よくされてるみたいだし。
……分かる気がする。
「えと……」
「はい?」
「――奢るね?」
そう言ったら、愛梨さんは、ふっと私を見つめて、にっこり笑った。
「いえ、素敵なお話だったら、私が奢りますねっ」
「ええ……いや。素敵では、ないから……」
「ええーだって、十年以上まえですよね、出会いは。絶対素敵な気がする」
わくわくしている愛梨さんに、「約二十五年かも」といったら、ますます期待されそうで。
いや。どっちだろ。引かれるかな?
とりあえず、そのことは、今は黙ってることにした。
――個室、予約しよう……。
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