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139.信頼。
しおりを挟む昨日はあの後、わりと早めにベッドに入って、ぐっすり、眠った。
……瑛士さんの、隣で。というか、腕の中で。
オレは、なんだかすっかり瑛士さんの抱き枕と化している気がする。そしてオレも、瑛士さんの腕の中はすごく安心するので、あっという間に眠ってしまうし、朝まで目覚めないことが多い。
朝、瑛士さんの腕のなかで目覚めると、腕枕されてたりすることも多くて、なんとなく、腕痛くないかなあとか、広々寝たいとか無いのかなあとか、いろいろ思うのだけど。
――でも瑛士さん、目覚めるとすぐ、ふんわり笑ってくれるから。そういうのは口にしないで終わる。
一緒に朝ごはんを食べて、別れて出てきて、午前中は授業で終わった。
昼。
――世界で一番嫌な連絡だけど、しないと。
さっきから食べながらずっと考えていたけれど、電話で急に、実はΩだったと言うのはすごく嫌だから、メールで説明を先にすることに決めた。そしたらきっと電話がくるから、される質問に答えようと思うんだけど……Ωを隠してた理由は聞かれるだろうから、そこはあらかじめうまく書いておきたいんだけど……さっきから、悩んでるのはそこ。
本当のところは、Ωだったらきっと医学部に行かせてもらえなかったと思うし。Ωにそんな学問なんていらないとか、医者なんて無理って、あの人は絶対言うだろうし。
それに、一番嫌なのは、どこぞのαとお見合いとかさせられそうで、絶対にΩだと伝えたくなかったんだ。
……と、正直に言える訳もない。
瑛士さんが、わざわざオレの父に会うと言ってくれたのは、ありがたいとは思う。
でもな……。
多分、あの人には、瑛士さんの誠意とかは、通じない気がするんだ。
ただ今回、どうにかなるかもと思うのは、瑛士さんがランクの高いαだから、もしかしたら、父は瑛士さんには失礼なことは言わないでくれるかもしれない――というのが、今回の救いポイント。
いつもはオレ、階級なんて、と思ってるくせに。
正直、今だけは、瑛士さんのランクが高くて助かったと思ってしまっている。瑛士さんが相手なら、いまさら他のαに引き合わせるとかもないだろうから。
「はぁ……」
まったく書き進まないスマホのメール画面を眺めていたのだけれど、思わず声が漏れて、そのまま突っ伏してしまった。すると直後に後ろから「どうした?」と声が掛かった。一瞬で誰か分かり、思わず助けを求める気分で振り返ると、竜は眉を顰めた。
「竜~……」
「――何だよ、どうした」
一応そう聞いてはくれてるけど、とっても嫌そうな顔をしながら、竜はオレの目の前の席に座った。
「うん……あのさ、瑛士さんがさ。……オレの父に会ってくれるんだって」
「――ああ、結婚の報告とか?」
「そう。……それで……連絡しなきゃいけなくて」
「なるほどな……Ωだったことも、いよいよばらすわけか」
それでその顔か、と苦笑しながら、竜はご飯を食べ始めた。
こういうの、説明しなくてもすぐ分かってくれるの、さすがだし、ほんと楽だなぁ、と思いながら、頷く。
「どう書けば、一番ツッコまれず済むのか、ずっと考えてるんだよね」
「……ツッコまれないっつーのは、無理じゃねえか? すぐ電話かかってきそう」
「ほとんど電話とかしたことないんだけど……とにかく、昨日からずっと考えてるけど、もう、文章が全然浮かばないんだよ……」
はああ、とため息を吐くオレに、竜は苦笑いを浮かべる。
「事務的に書けばいいんじゃねえの」
「事務的……たとえば?」
「たとえば……」
竜は、そうだな、と考えながら。
「ご無沙汰してます。突然ですが、ご報告があります、とか? ご無沙汰なんだろ?」
「うん。とってもご無沙汰……」
「あとは――実はΩでした。あまりにΩ要素が低くヒートも短くて支障が無いので医者を目指していましたが、ある人と出会って、婚約することになりました。みたいな? あとは適当に忙しいから結婚は先だけど、とか書けば?」
「おお……! すごーい」
「すごいか? 事実しか言ってねーけど。つか、逆に何を書こうとしてたんだよ」
呆れたように言ってから、竜は肩を竦めさせた。
「お前、ほんと苦手なんだな、親父さん。そんなのも打てなくなるとか、普通ないだろ」
「……たしかに」
竜は笑いながら言う。
確かに、もう何を書いても駄目な気がしてたからなぁ、と思いながら、ため息をついて頷くと、竜が続けて言った。
「まあそんで、瑛士さんの立場を書いて、あとは挨拶に行くから、空いてる日を何候補か教えてください。で、いいんじゃねえの」
「そうする、ありがとう……! あ、ていうか、今のもう一回言って」
「はあ?」
「あ、待って、ゆっくり言って。打ってく」
お前なぁ……と呆れながらも、言ってくれる竜の言葉のまま、スマホに打ち込む。入力し終わって読み返してると。
「ちょっとは自分の言葉になおせよ」
「うん。分かってる……」
頷いてるオレに、竜は、ちょっと笑った。
「まあ、凛太が向かい合おうとしてるっつーのは、少しマシな感じするよな」
「――そう、かな?」
「そうだと思うけど?」
「ん……瑛士さんが、一緒に居るから大丈夫って言ってくれたから。オレも……自分でも、少し頑張って、話してこようとは思ってる」
竜は、オレをちら、と見て、面白そうにニヤリと笑う。
「瑛士さんがいれば大丈夫ってか――会ってそんなに経ってないのに、えらく信用してるよな」
「そだね。自分でもびっくりだけど……あ、でも、オレ、竜のことも、結構、最初のころから信頼してたよ」
「はいはい」
「ほんとだよ?」
く、と笑う竜は、ちょっと肩をすくめてから、またご飯を食べ始めた。
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