9 / 142
9.「君」
しおりを挟む料理が運ばれてきて、テーブルに並べられた。本当なら一品ずつ運ばれてくる料理なんだろうけど、さっき北條さんが頼んでくれたから、一気に。
目の前に並べられた料理に、何だかすごくわくわくしてしまう。
「なんか、綺麗ですね、料理」
「綺麗かな?」
「色合いが。めちゃくちゃ、綺麗です。赤とか黄色とか緑とか……」
「まあこういう料理は見た目も重視されるからそうかもね」
言いながら、北條さんは、クス、と笑った。
「君はどんな料理が好きなの」
「和食が好きなので――しかも、お店みたいにはできないので、まあ、基本は茶色が多いですね」
「なるほど……確かに和食はカラフルではないかもね」
「ふふ。ですね。――頂きます」
何やらたくさん並べられているフォークたち。どれから使うんだっけ。外側から使うとかだっけ?
「使いやすいサイズのフォークで食べていいよ。オレしか居ないし。オレもそうするから」
「あ、はい」
すかさず声を掛けてくれるとこも。なんかいいなと思ってしまう。
ぱく、とひと口。
「……あ、おいしい」
なんか口の中に広がる風味にびっくり。
「わー、めちゃくちゃおいしいですね、サーモンと……アボカドですか」
「そうだね。レモンとオリーブオイルで味付けしてある」
「このみじん切りのは?」
「ケッパーとディルかな」
「ん??」
「ケッパー」
「けっぱー??」
「と、ディル」
「でぃる……?」
「つぼみの酢漬けと、ハーブだよ」
クスクス笑って、北條さんが説明してくれる。
「これすっごくおいしいです。……作れるかなあ。ケッパーとディル、ですね?」
「うん」
クスクス楽しそう。
「料理するの?」
「まあ。ほぼ和食専門ですけど。――母があんまり体調よくない人だったので、オレは一通り食べれるものは作れますけど。まあこんなのは一切作ったことない……というか、作ろうって思ったこともないです」
「まあ確かに、家では作らないよね。オレも和食は好きだよ。朝ごはんは、いつも和食。ばあちゃんが和食好きな人だったからさ」
「作るんですか?」
「普段は作ってもらってるか、買ってくるか。作れないことはないけど……まあ、他にやること、たくさんあるから」
「そうなんですね」
頷きながら、二口め。
「……わー。おいしい。こういうのも作ってみようかな――あ、でも材料費かかりそうですね。なんか高そう」
クスクス笑いながら言ったら、北條さんは、面白そうに笑った。
「好きなように料理してくれていいよ。それくらいは、ちゃんと報酬として出すから」
「――んー、まあ。ほどほどで……。たまの贅沢とかは良いと思うんですけど。もうオレ、お金あんまり使わないで暮らすのが染みついてるというか……?」
「……じゃあまあ、ほどほどに、ね」
なんだかクスクス笑われて、頷かれるのだけれど、やっぱり、この人は嫌な感じは全然しないので、笑われてても、気にならない。
「なんか……オレの周りには居ないタイプの人だなぁ、凛太くん」
「そうですか? ……ていうか、北條さんこそ、あんまりいないですよ?」
オレみたいなのは、いるんじゃないかなあ?? そんな特殊じゃないと思うけど。
北條さんは、特殊すぎな感じ。
「あ。そうだ、それ」
「?」
「オレのこと、下の名前で読んでもらえる? 瑛士だよ」
「あ、そうですね、じゃあ。瑛士さんで、いいですか?」
「うん。君は、凛太くんでいい?」
「――でも、瑛士さん、結構年上なので……呼び捨てな方が自然かも……?」
そう言ったら、ふむ、と考えて、「凛太」と、オレの名前を口にする。
「ん。いいね、凛太って、響き、可愛いな。くんをつけない方が可愛いかも」
「可愛いですか?」
ちょっと良く分からないけど。
「じゃあ、君のことは、凛太、って呼ぶね」
「はい」
――この人。
「君」って言うんだよなあ。
お前って言うαが多かった気がする。
別に友達にお前って言われるのは、全然気にならないんだけど、仲良くもない偉そうな人に「お前」って呼ばれるのは嫌いだった気がする。
君、か。
なんかその呼び方をしてくれる、その一点だけでも。
――瑛士さんは、とっても、好ましい気がする。
1,951
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの
BL
『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる