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77.ペンギンの恋愛
しおりを挟む順路の看板に従って角を曲がると、外に出た。眩しいなと細めた目に飛び込んできたのは。
「あっ! ペンギンですね!」
ちょっと早足になってしまう。
だってなんか、めっちゃ可愛い。
「凛太、ペンギン好きなんだ?」
後ろから追いついてきた瑛士さんにそう聞かれた。はい、と答えると「オレ、久しぶりに見たなぁ」と微笑む。
「水の中はめちゃくちゃ速いのに、歩いてるとこ、ほんと可愛いですよね」
「そうだね。ああ、なんかあれ、凛太に似てる」
「えっどれですか?」
瑛士さんが指さす方向を追うと、そこに居たのは赤ちゃんペンギン。
全然似てないですよ、と言いながらも、可愛すぎてほっこりしてしまう。
「柔らかそう。抱っこしたいなあ……」
「ほら、抱っこしたい感じも、似てるし」
「……良く分かんないです、瑛士さん」
「そう?」
二人で顔を見合わせて、ふふ、と笑ってると、隣に居た雅彦さんが笑った。
「雰囲気、確かに似てる。可愛い感じだね」
雅彦さんまでふざけてる……と思ったら、瑛士さんがオレの肩に触れて、すぽ、と軽く抱き締めてきた。
「じいちゃんは可愛いとか言わないでいいから」
「――――」
……ただでさえ目立ってるので、こういうのは、やめてほしい……。
苦笑しながら、すす、と離れると、瑛士さんの手がオレの頭をぽんぽんと叩く。
雅彦さんは呆れたように苦笑してるけど、それ以上は何も言わなかった。
「まだペンギン見てるなら、トイレに行ってくる」
こそ、と囁く瑛士さんに「あ、はい」と頷いて、その後ろ姿を見送る。
――……瑛士さんとすれ違った人達が、瑛士さんを振り返る。
いつもだけど。まあ見ちゃうのも分かるけど。
そして今日は、雅彦さんも目立ってて、皆が見てくる。なんかオーラというのかなぁ。
なんかふたりとも、このまま雑誌とかに出てそうだもんね。
正直、二人で話してて目立ってるところに寄っていくの、ちょっと気後れする。
「娘も――瑛士の母親も、ペンギンが好きだったよ」
そんなセリフに、ふ、と雅彦さんを見つめる。優しい表情をしていた。
そうなんですね。可愛いですよね、と頷くと、「それもあるんだけど」とクスクス笑った。
「凛太くん、ペンギンの恋愛の豆知識、知ってる?」
「え。知らないです。何ですか?」
そう聞いていたら、後ろから、瑛士さんがオレに覆いかぶさるみたいに抱き付いてきた。乗っかられてるみたいな。身長差が歴然過ぎる……。思わず見上げると、「ただいま」と微笑んで、オレの隣に立った。
「おかえりなさい」
「知らないって、何の話?」
瑛士さんが聞くので、「ペンギンの恋愛豆知識知ってますか?」と答えると、瑛士さんは「何それ?」と楽しそうに笑った。すると、雅彦さんが続ける。
「独身時代は自由恋愛主義で、三角関係とかもあるらしいよ」
「えっ! そうなんですか??」
そ、そうなんだ。あんな可愛いのに、三角関係……。
不思議な気持ちで見つめていると、雅彦さんが「でもね」と続けた。
「番になったら、一生添い遂げる夫婦が多いんだって。娘は、それが好きだったみたいで」
「そう、なんですか」
ペンギンが一生添い遂げるとか知らなかった。
皆似てるし。区別つくのか……って当たり前か。そっか。と、自分に可笑しくなっていると。
ちょうど、さっきの赤ちゃんペンギンが、二匹のペンギンの間にすっぽりはまっていた。
……あれは、夫婦だったりするのかなあ? 見た目では親子かは分かんないけど。
仲良しの親子みたいに見える。……可愛いな。
「凛太くんも、一生添い遂げられる人と、一緒になれたらいいね」
そんな雅彦さんの言葉に、返事できずに固まった。
「――――……」
えーと……普通の言葉、かな。
今の段階では、瑛士さんはオレと結婚するって言ってるから……瑛士さんのことを言ってるのか、それとも。
瑛士さんとオレのことは、もう分かっちゃってて、まさかの、他の人のこと、言ってるとか……??
そんなはずない、と思うのだけれど、なんか――雅彦さんて。
いろいろ悟られていそうで、ドキドキしてしまう。
「凛太」
瑛士さんが、ぽふ、とオレの頭に手を乗せて、撫でてくる。ふと、瑛士さんを見上げる。
微笑んでいるのだろうと思って見上げた顔。
――あれ?
なんだか、不思議な表情をしていた。
じっと見つめられて、逸らせないでいると、そこでようやく、瑛士さんは、ふ、と微笑んだ。
「オレもそう思う。凛太には、幸せになってほしいから」
そんな風に言われて、瑛士さんをじっと見つめてしまう。
このセリフは、雅彦さん、どう思うんだろう。
――――本当に、そういう仲だったら、幸せにする、て言うとこなのかな。
オレの、気にしすぎ、かな。
思いながら、とりあえず「ありがとうございます」とだけ。二人の顔を順番に見ながら、辛うじて口にした。
それ以上は、二人とも、何も言わなかった。
そのまましばらくペンギンを愛でてから進むと、広場があって、海が見えた。柵の手すりによりかかって、少し身を乗り出す。
「すごい綺麗ですね。眩しいです」
青い空と、綺麗な海。太陽が反射して、キラキラ光ってる。少し目を細めながら、遠くに視線を向けていると。
「あとで、水族館を出たら、海岸に降りる?」
瑛士さんが言うので、「はい」と頷いて、そのまま少しの間、三人で、海を眺めていた。
「この先のレストランで、昼食にしようか。お腹空いたよね?」
雅彦さんがそう言って笑いかけてくれる。
「すごく、空きました」
「楽しそうに動いてるからね」
「え、そうですか?」
クスクス笑う雅彦さんに、そんな子供みたいだったかな、と苦笑を浮かべた時。
「じいちゃん――オレ、大事な話がある」
瑛士さんが静かにそう言うと――――……雅彦さんは、ふうん? とクスクス笑うだけで、特に何も聞かず。
「とりあえず先に食べようか」
落ち着いた声で、そう言った。
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