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雨は女の涙
第百八十話 いい上司
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流石元特殊部隊隊員、ただぶつかったようでいて絶妙のタイミングと抜群のアクセルワークで合谷達のワゴンは綺麗にひっくり返って止まった。俺なら結果は見てのお楽しみでぶつけるのに精一杯でこんな芸当は出来ない。だがこれなら爆発の心配はなく、中の人間もシートベルトしていたら死ぬことはないだろう。
間髪入れずに獅子神が飛び出してきて、ひっくり返ったワゴンに取り付きドアを開けようとする。
流石プロ安心できる。ここは影狩と獅子神に任せておけば問題は無いだろう。
問題は別方向からやってくる。
こうなってみると焦らされたのは俺となるのか、後一歩遅ければ高みの見物漁夫の利が狙えたというのに。
愚痴っても仕方が無い、このままでは獅子神達に横槍が入る。
部下が最高のパフォーマンスで仕事しているときに、近寄るトラブル。まだ対処できるだろうと部下を信じて任せるべきか、パフォーマンスを落とさせたくないと影ながらサポートするべきか。
どちらが素晴らしい上司なのか評価の分かれるところ。まあ部下にどう思われようが、そこはビジネスと割り切れる。
大事なのはどちらの方が大きく火が付くか。
三つ巴の乱戦は場を大いに乱してくれる。そこから綻びが見えてくるかも知れない。
だがやはり俺という人間は賭を嫌う。
出来れば使いたくなかったが仕方ない。
俺は二枚目のカードを切って、大友を掠ってフォンを確実に追い詰める方を選んだ。
事故現場に猫のように塀の上あるいは屋根の上を軽々と走り、ほぼ一直線で現場に疾走していく白い影。
そういえば今日はどこか雲が月を薄く隠している。
月が隠れるこの夜を絶好の日と捉えたのは合谷達だけでなかったようだ。何らかの方法で合谷達の行動を伺いつつ帰路で待ち構えていたが、いきなり獲物をかっ攫う乱入者の登場に慌てて動き出したのであろう。
意図しない方が釣れてしまったわけか。
丁度家並みが途切れ、音もなく道路に着地し再び疾走しようとするその前にすっと人影が立ちはだかり、白い影の足が止まる。
「悪いですが、ここから先には行かせません」
「誰?」
簡単には抜けないと判断したのか、白いレオタードに身を包み脂肪がうっすらと霜降る筋肉が浮かぶ体を晒す雨女が基本に忠実なアンバーで構えながら尋ねる。
巫山戯ていると言うより、彼女の体術の根幹はバレエなのだろう。
「皇 由衣奈。貴方に恨みはありませんが、恩義を返す為剣を振るわせて頂きます」
剣袋の紐を解き皇は黒く輝く木刀を引き抜き、八相に構える。
黒く輝く木刀は、俺が強化カーボンで作り上げた剣で正しくは木刀ではない。墨刀とでも言った方が正しいのかも知れない。切れ味こそ無いが、鉄より軽く金剛石より堅い。俺が使っても木刀と大して変わらないが持つ者が持てば剣のように振り回せ破壊力は鉄槌という凶器に化ける。
鍛え抜かれた無駄の無い構えから生まれる月光のような気迫、惚れ惚れするほど美しいが馬鹿正直に名乗るのは辞めて欲しかった。正義のヒーローも裏家業も秘匿性が第一、後で嫌と言うほど教え込もう。
「済んだ綺麗な目。おねーさんは何であんなクズ共の味方をするの?」
雨女は不思議そうに尋ねる。
清廉潔白と佞悪醜穢。対極にて連みそうもない者達が連んでいれば不思議にも思おう。
「命を助けられた恩義があります。仇には仇を恩義にはこの身を持って返します」
「相手が女を泣かすようなクズでも」
雨女は皇が騙されている可能性を考慮し確認をする。
「恩義は恩義、為した事が為した人の中身で変わることはありません」
皇はきっぱりと言い返す。
凜として格好いいが、それだと俺がクズみたいじゃ無いか。そこは一言否定するのが恩人に対する礼儀じゃないのか?
「ご免」
皇がこれ以上は問答無用とばかりにアスファルトがへこむほどの踏み込みと同時に闇に紛れる墨刀が雨女の首筋を目掛けて唸りを上げる。
「おねーさん純粋なのね」
上体を反らせて剣を躱すと同時に跳ね上がった蹴りが皇の手首を狙うが、そこは皇も死線を越え一皮剥けた女、咄嗟に墨刀の柄で受け止める。
「今の一撃躊躇いがないですね。無手の上にか弱い少女相手に心が痛まないの?」
「以前の私でしたらそうしていたでしょう。ですが今の私は違います。
貴方達相手にそれは慢心、主の命じるがまま私は持てる力を全て出し切るのみです」
受けた柄を軸にして剣を回して蹴りをいなすと同時に突きを放つが雨女は紙一重で躱して伸び上がる手刀を皇の喉元に突き込む。突き込まれた手刀を皇も紙一重で躱すがままに肩当てを喰らわせ雨女の体勢を崩した。
追撃のチャンスと皇が墨剣を一旦引くに合わせて、雨女は崩されるがままにタコのようにへにゃっと地に這い転がり、一旦後ろに大きく間合いを取ってしまった。
不用意な追撃は出来ないと皇も脇構えに仕切り直す。
美しい、まるで二人でデュエットでもしているようだった。それくらい息が合い無駄のない動きの連続だった。
よしっ。雨女は恐ろしいが体術だけなら皇も負けていない。そして雨女の魔は皇には通用しない。
期待以上だ、これで雨女は暫くは抑えられる。
俺は獅子神の方に意識を戻すのであった。
間髪入れずに獅子神が飛び出してきて、ひっくり返ったワゴンに取り付きドアを開けようとする。
流石プロ安心できる。ここは影狩と獅子神に任せておけば問題は無いだろう。
問題は別方向からやってくる。
こうなってみると焦らされたのは俺となるのか、後一歩遅ければ高みの見物漁夫の利が狙えたというのに。
愚痴っても仕方が無い、このままでは獅子神達に横槍が入る。
部下が最高のパフォーマンスで仕事しているときに、近寄るトラブル。まだ対処できるだろうと部下を信じて任せるべきか、パフォーマンスを落とさせたくないと影ながらサポートするべきか。
どちらが素晴らしい上司なのか評価の分かれるところ。まあ部下にどう思われようが、そこはビジネスと割り切れる。
大事なのはどちらの方が大きく火が付くか。
三つ巴の乱戦は場を大いに乱してくれる。そこから綻びが見えてくるかも知れない。
だがやはり俺という人間は賭を嫌う。
出来れば使いたくなかったが仕方ない。
俺は二枚目のカードを切って、大友を掠ってフォンを確実に追い詰める方を選んだ。
事故現場に猫のように塀の上あるいは屋根の上を軽々と走り、ほぼ一直線で現場に疾走していく白い影。
そういえば今日はどこか雲が月を薄く隠している。
月が隠れるこの夜を絶好の日と捉えたのは合谷達だけでなかったようだ。何らかの方法で合谷達の行動を伺いつつ帰路で待ち構えていたが、いきなり獲物をかっ攫う乱入者の登場に慌てて動き出したのであろう。
意図しない方が釣れてしまったわけか。
丁度家並みが途切れ、音もなく道路に着地し再び疾走しようとするその前にすっと人影が立ちはだかり、白い影の足が止まる。
「悪いですが、ここから先には行かせません」
「誰?」
簡単には抜けないと判断したのか、白いレオタードに身を包み脂肪がうっすらと霜降る筋肉が浮かぶ体を晒す雨女が基本に忠実なアンバーで構えながら尋ねる。
巫山戯ていると言うより、彼女の体術の根幹はバレエなのだろう。
「皇 由衣奈。貴方に恨みはありませんが、恩義を返す為剣を振るわせて頂きます」
剣袋の紐を解き皇は黒く輝く木刀を引き抜き、八相に構える。
黒く輝く木刀は、俺が強化カーボンで作り上げた剣で正しくは木刀ではない。墨刀とでも言った方が正しいのかも知れない。切れ味こそ無いが、鉄より軽く金剛石より堅い。俺が使っても木刀と大して変わらないが持つ者が持てば剣のように振り回せ破壊力は鉄槌という凶器に化ける。
鍛え抜かれた無駄の無い構えから生まれる月光のような気迫、惚れ惚れするほど美しいが馬鹿正直に名乗るのは辞めて欲しかった。正義のヒーローも裏家業も秘匿性が第一、後で嫌と言うほど教え込もう。
「済んだ綺麗な目。おねーさんは何であんなクズ共の味方をするの?」
雨女は不思議そうに尋ねる。
清廉潔白と佞悪醜穢。対極にて連みそうもない者達が連んでいれば不思議にも思おう。
「命を助けられた恩義があります。仇には仇を恩義にはこの身を持って返します」
「相手が女を泣かすようなクズでも」
雨女は皇が騙されている可能性を考慮し確認をする。
「恩義は恩義、為した事が為した人の中身で変わることはありません」
皇はきっぱりと言い返す。
凜として格好いいが、それだと俺がクズみたいじゃ無いか。そこは一言否定するのが恩人に対する礼儀じゃないのか?
「ご免」
皇がこれ以上は問答無用とばかりにアスファルトがへこむほどの踏み込みと同時に闇に紛れる墨刀が雨女の首筋を目掛けて唸りを上げる。
「おねーさん純粋なのね」
上体を反らせて剣を躱すと同時に跳ね上がった蹴りが皇の手首を狙うが、そこは皇も死線を越え一皮剥けた女、咄嗟に墨刀の柄で受け止める。
「今の一撃躊躇いがないですね。無手の上にか弱い少女相手に心が痛まないの?」
「以前の私でしたらそうしていたでしょう。ですが今の私は違います。
貴方達相手にそれは慢心、主の命じるがまま私は持てる力を全て出し切るのみです」
受けた柄を軸にして剣を回して蹴りをいなすと同時に突きを放つが雨女は紙一重で躱して伸び上がる手刀を皇の喉元に突き込む。突き込まれた手刀を皇も紙一重で躱すがままに肩当てを喰らわせ雨女の体勢を崩した。
追撃のチャンスと皇が墨剣を一旦引くに合わせて、雨女は崩されるがままにタコのようにへにゃっと地に這い転がり、一旦後ろに大きく間合いを取ってしまった。
不用意な追撃は出来ないと皇も脇構えに仕切り直す。
美しい、まるで二人でデュエットでもしているようだった。それくらい息が合い無駄のない動きの連続だった。
よしっ。雨女は恐ろしいが体術だけなら皇も負けていない。そして雨女の魔は皇には通用しない。
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俺は獅子神の方に意識を戻すのであった。
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