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雨は女の涙
第百七十九話 砂の城
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何ら遠慮することなく自分の駐車スペースとばかりに賃貸マンションの空いている駐車場にワゴン車がスッと入り込む。この場所が空いていることは事前調査済み、1~2時間駐めたところで誰も文句は言わない。
ドアが開けられ運転手を残し帽子を被った合谷達が降りて来る。合谷は大きめのゴルフバック、辺秀と柄作はリュックを背負っている。
打ち合わせは十分されているのか合谷達は降りると無言でマンションのエントランスに向かって行く。人目に付く危険を出来るだけ避けようとする手慣れた様子に感心する。
なるほど。碌でもないことを家業にしているが、この道に関してはプロなのかも知れない。
オートロックなんか無いマンションのエントランスに易々と入り込むと、乗り合わすと顔を覚えられる危険があるエレベーターでなく、普段利用されることのない階段を使って獲物が居る三階に向かって行く。彼等は結構高いスニーカーを装備し衝撃を吸収してくれるのか、男三人が並んで歩いているが足音をほとんどしない。
悪意ある捕食者達が静かに目的の部屋の前に到着する。
表札はないが、ここに女スナイパー「大友 楼座」が住んでいる。彼女の父は普通の会社員、母はパート勤めと闇の世界とは一切縁が無い。彼女自身も高校を卒業するまでは、県大会で弓道で上位に入った以外は一般人の範疇を超えない少女だった。それがどうなれば女子大に通う為上京して僅か二年ほどでスナイパーに成り代わる。背乗りを疑ったがそうでは無く彼女は正真正銘の楼座らしい。今女スナイパーに成り代わった原因を犬鉄さんが追求していて、それこそがフォンに繫がる糸になる。まっとうな正攻法、こんな邪道を行っている俺が恥ずかしくなるような正道だ。
俺の博打に近い作戦など犬鉄さんの線が途切れない限り中断すべきなのかも知れない。
なのに工藤は俺にストップを掛けない、工藤ほどの切れ者なら当たればいいが外れたときのリスクも分かっているだろうに。年の近い犬鉄と工藤、警部と警部補、何かしらの確執か? 負けたくないという意地か?
まあ何にしろ上が中止と言わないのなら下はやるまで。
尤も上が中止と言っても俺はもう引き返せない。
このままじゃ、俺は女性を一人レイプ魔達に差し出しただけに終わる。こんな邪道も目的の為なら許されるが、目的が無くなるのなら、ただの悪となる。
相手も悪なので言い訳は出来るだろうが、今更引けない引けば面子が潰れる。
下らないと笑う奴もいるだろう。
だが、面子が潰され俯けば
予算を削られ
権限を削られ
手足をもがれて
気付けば何も出来なくなっている。
この俺がこんなに醜く権力に誇示するようになるとはお笑いだが、権力を失い役に立たない俺など誰が見向きする?
愛?友情?馬鹿らしい。人間など互いに利あってこそ繋がる。
時雨から始まった人間関係など砂の城を権力というコールタールで固めているだけ。権力を失えばあっという間に風に消える。
そんな醜く儚い城でも俺は失いたくないと思ってしまっている。
失ったところで元の独り穏やかな生活に戻れというのに。
特権という神には、成果という供物が常に要求される。
独立捜査官をやっている犬鉄さんも、そのことは身に染みて分かっているんだろうな。 僅か一日でここまで女スナイパーの情報を警察の力無しで集めた能力に驚愕し、その成果誰も無碍に出来ない。凄い人だ是非味方にしておきたい。
少し考え込んだ間に合谷達は周りに人がいないことを確認すると俺が用意してやったコピーキーを使いドアを開け、金切り鋏みでチェーンを切断して部屋に突入していく。
驚異的なスナイプ能力を持っているとはいえ女には変わりが無い。合谷達男三人の寝込みを襲った襲撃に対抗できるものなのだろうか?
はてさてどっちに転ぶかな。この勝負の顛末をフォンも俺同様どこからか監視しているはず。まさか自分が追い込みを掛けた奴らが自分の子飼いの部下を襲撃するとは夢にも思っていなかっただろう。
この展開にフォンは一体どういう手を打ってくるか?
焦った一手を打ったときこそ綻びの始まりと知るがいい。
しかし、そもそもの話フォンは一体どこからこの状況を見ている? それを突き止めようと俺は離れた場所に潜み合谷達の周りを調べているのだが、監視カメラ盗聴器見張りなどの痕跡を何も見付けられないでいる。
まさかだが、これだけの事、人として警官としてやってはいけない一線を越えた罠を仕掛けたというのにフォンが手を引いてしまったということはないだろうな。
その想像に背筋が震える。
いや最悪を考え過ぎか、最悪を想定するのは大事だが拘泥すれば泥沼に沈んでしまう。
俺は気を入れ直し周りの観察に戻る。
やがて決着が付いたのか、行きと違い重そうにゴルフバックを担いだ合谷達がドアから出てきた。返り討ちに遭う可能性も考えていたが、合谷達もやはりそこそこやるようだな。
合谷達は素早く撤収していき車に乗り込んでいく。
ここまでで雨女の介入も無く、当然フォンの介入もない。
多少でも兆しがあれば合谷達を仕事場まで泳がせようとも思っていたが・・・。
ここは流れが来るのを待つ局面なのか?
それとも流れを呼び込むべく動く局面なのか?
・
・
・
俺が先に焦れたと思うと業腹だが、先手を取ったと思えば気分がいい。
俺はスマフォを取り出すと命じる。
『プランDを発動しろ』
『いいのか慎重なお前らしくない』
『穴に籠もった熊を引っ張り出すには火を放り込むのが一番だ』
『いいねえ~それでこそ若大将だ』
合谷達が乗り込んだワゴン車が発進する。
安全運転、交通ルールを厳守している。だがルールを守ってもルールを破った者によって安全は脅かされる。普段自分達がしていることの因果応報とも言える。
主道を走っていた合谷達ワゴンに脇道から飛び出してきたワゴン車が激突した。
ドアが開けられ運転手を残し帽子を被った合谷達が降りて来る。合谷は大きめのゴルフバック、辺秀と柄作はリュックを背負っている。
打ち合わせは十分されているのか合谷達は降りると無言でマンションのエントランスに向かって行く。人目に付く危険を出来るだけ避けようとする手慣れた様子に感心する。
なるほど。碌でもないことを家業にしているが、この道に関してはプロなのかも知れない。
オートロックなんか無いマンションのエントランスに易々と入り込むと、乗り合わすと顔を覚えられる危険があるエレベーターでなく、普段利用されることのない階段を使って獲物が居る三階に向かって行く。彼等は結構高いスニーカーを装備し衝撃を吸収してくれるのか、男三人が並んで歩いているが足音をほとんどしない。
悪意ある捕食者達が静かに目的の部屋の前に到着する。
表札はないが、ここに女スナイパー「大友 楼座」が住んでいる。彼女の父は普通の会社員、母はパート勤めと闇の世界とは一切縁が無い。彼女自身も高校を卒業するまでは、県大会で弓道で上位に入った以外は一般人の範疇を超えない少女だった。それがどうなれば女子大に通う為上京して僅か二年ほどでスナイパーに成り代わる。背乗りを疑ったがそうでは無く彼女は正真正銘の楼座らしい。今女スナイパーに成り代わった原因を犬鉄さんが追求していて、それこそがフォンに繫がる糸になる。まっとうな正攻法、こんな邪道を行っている俺が恥ずかしくなるような正道だ。
俺の博打に近い作戦など犬鉄さんの線が途切れない限り中断すべきなのかも知れない。
なのに工藤は俺にストップを掛けない、工藤ほどの切れ者なら当たればいいが外れたときのリスクも分かっているだろうに。年の近い犬鉄と工藤、警部と警部補、何かしらの確執か? 負けたくないという意地か?
まあ何にしろ上が中止と言わないのなら下はやるまで。
尤も上が中止と言っても俺はもう引き返せない。
このままじゃ、俺は女性を一人レイプ魔達に差し出しただけに終わる。こんな邪道も目的の為なら許されるが、目的が無くなるのなら、ただの悪となる。
相手も悪なので言い訳は出来るだろうが、今更引けない引けば面子が潰れる。
下らないと笑う奴もいるだろう。
だが、面子が潰され俯けば
予算を削られ
権限を削られ
手足をもがれて
気付けば何も出来なくなっている。
この俺がこんなに醜く権力に誇示するようになるとはお笑いだが、権力を失い役に立たない俺など誰が見向きする?
愛?友情?馬鹿らしい。人間など互いに利あってこそ繋がる。
時雨から始まった人間関係など砂の城を権力というコールタールで固めているだけ。権力を失えばあっという間に風に消える。
そんな醜く儚い城でも俺は失いたくないと思ってしまっている。
失ったところで元の独り穏やかな生活に戻れというのに。
特権という神には、成果という供物が常に要求される。
独立捜査官をやっている犬鉄さんも、そのことは身に染みて分かっているんだろうな。 僅か一日でここまで女スナイパーの情報を警察の力無しで集めた能力に驚愕し、その成果誰も無碍に出来ない。凄い人だ是非味方にしておきたい。
少し考え込んだ間に合谷達は周りに人がいないことを確認すると俺が用意してやったコピーキーを使いドアを開け、金切り鋏みでチェーンを切断して部屋に突入していく。
驚異的なスナイプ能力を持っているとはいえ女には変わりが無い。合谷達男三人の寝込みを襲った襲撃に対抗できるものなのだろうか?
はてさてどっちに転ぶかな。この勝負の顛末をフォンも俺同様どこからか監視しているはず。まさか自分が追い込みを掛けた奴らが自分の子飼いの部下を襲撃するとは夢にも思っていなかっただろう。
この展開にフォンは一体どういう手を打ってくるか?
焦った一手を打ったときこそ綻びの始まりと知るがいい。
しかし、そもそもの話フォンは一体どこからこの状況を見ている? それを突き止めようと俺は離れた場所に潜み合谷達の周りを調べているのだが、監視カメラ盗聴器見張りなどの痕跡を何も見付けられないでいる。
まさかだが、これだけの事、人として警官としてやってはいけない一線を越えた罠を仕掛けたというのにフォンが手を引いてしまったということはないだろうな。
その想像に背筋が震える。
いや最悪を考え過ぎか、最悪を想定するのは大事だが拘泥すれば泥沼に沈んでしまう。
俺は気を入れ直し周りの観察に戻る。
やがて決着が付いたのか、行きと違い重そうにゴルフバックを担いだ合谷達がドアから出てきた。返り討ちに遭う可能性も考えていたが、合谷達もやはりそこそこやるようだな。
合谷達は素早く撤収していき車に乗り込んでいく。
ここまでで雨女の介入も無く、当然フォンの介入もない。
多少でも兆しがあれば合谷達を仕事場まで泳がせようとも思っていたが・・・。
ここは流れが来るのを待つ局面なのか?
それとも流れを呼び込むべく動く局面なのか?
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俺が先に焦れたと思うと業腹だが、先手を取ったと思えば気分がいい。
俺はスマフォを取り出すと命じる。
『プランDを発動しろ』
『いいのか慎重なお前らしくない』
『穴に籠もった熊を引っ張り出すには火を放り込むのが一番だ』
『いいねえ~それでこそ若大将だ』
合谷達が乗り込んだワゴン車が発進する。
安全運転、交通ルールを厳守している。だがルールを守ってもルールを破った者によって安全は脅かされる。普段自分達がしていることの因果応報とも言える。
主道を走っていた合谷達ワゴンに脇道から飛び出してきたワゴン車が激突した。
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