181 / 328
雨は女の涙
第百八十話 いい上司
しおりを挟む
流石元特殊部隊隊員、ただぶつかったようでいて絶妙のタイミングと抜群のアクセルワークで合谷達のワゴンは綺麗にひっくり返って止まった。俺なら結果は見てのお楽しみでぶつけるのに精一杯でこんな芸当は出来ない。だがこれなら爆発の心配はなく、中の人間もシートベルトしていたら死ぬことはないだろう。
間髪入れずに獅子神が飛び出してきて、ひっくり返ったワゴンに取り付きドアを開けようとする。
流石プロ安心できる。ここは影狩と獅子神に任せておけば問題は無いだろう。
問題は別方向からやってくる。
こうなってみると焦らされたのは俺となるのか、後一歩遅ければ高みの見物漁夫の利が狙えたというのに。
愚痴っても仕方が無い、このままでは獅子神達に横槍が入る。
部下が最高のパフォーマンスで仕事しているときに、近寄るトラブル。まだ対処できるだろうと部下を信じて任せるべきか、パフォーマンスを落とさせたくないと影ながらサポートするべきか。
どちらが素晴らしい上司なのか評価の分かれるところ。まあ部下にどう思われようが、そこはビジネスと割り切れる。
大事なのはどちらの方が大きく火が付くか。
三つ巴の乱戦は場を大いに乱してくれる。そこから綻びが見えてくるかも知れない。
だがやはり俺という人間は賭を嫌う。
出来れば使いたくなかったが仕方ない。
俺は二枚目のカードを切って、大友を掠ってフォンを確実に追い詰める方を選んだ。
事故現場に猫のように塀の上あるいは屋根の上を軽々と走り、ほぼ一直線で現場に疾走していく白い影。
そういえば今日はどこか雲が月を薄く隠している。
月が隠れるこの夜を絶好の日と捉えたのは合谷達だけでなかったようだ。何らかの方法で合谷達の行動を伺いつつ帰路で待ち構えていたが、いきなり獲物をかっ攫う乱入者の登場に慌てて動き出したのであろう。
意図しない方が釣れてしまったわけか。
丁度家並みが途切れ、音もなく道路に着地し再び疾走しようとするその前にすっと人影が立ちはだかり、白い影の足が止まる。
「悪いですが、ここから先には行かせません」
「誰?」
簡単には抜けないと判断したのか、白いレオタードに身を包み脂肪がうっすらと霜降る筋肉が浮かぶ体を晒す雨女が基本に忠実なアンバーで構えながら尋ねる。
巫山戯ていると言うより、彼女の体術の根幹はバレエなのだろう。
「皇 由衣奈。貴方に恨みはありませんが、恩義を返す為剣を振るわせて頂きます」
剣袋の紐を解き皇は黒く輝く木刀を引き抜き、八相に構える。
黒く輝く木刀は、俺が強化カーボンで作り上げた剣で正しくは木刀ではない。墨刀とでも言った方が正しいのかも知れない。切れ味こそ無いが、鉄より軽く金剛石より堅い。俺が使っても木刀と大して変わらないが持つ者が持てば剣のように振り回せ破壊力は鉄槌という凶器に化ける。
鍛え抜かれた無駄の無い構えから生まれる月光のような気迫、惚れ惚れするほど美しいが馬鹿正直に名乗るのは辞めて欲しかった。正義のヒーローも裏家業も秘匿性が第一、後で嫌と言うほど教え込もう。
「済んだ綺麗な目。おねーさんは何であんなクズ共の味方をするの?」
雨女は不思議そうに尋ねる。
清廉潔白と佞悪醜穢。対極にて連みそうもない者達が連んでいれば不思議にも思おう。
「命を助けられた恩義があります。仇には仇を恩義にはこの身を持って返します」
「相手が女を泣かすようなクズでも」
雨女は皇が騙されている可能性を考慮し確認をする。
「恩義は恩義、為した事が為した人の中身で変わることはありません」
皇はきっぱりと言い返す。
凜として格好いいが、それだと俺がクズみたいじゃ無いか。そこは一言否定するのが恩人に対する礼儀じゃないのか?
「ご免」
皇がこれ以上は問答無用とばかりにアスファルトがへこむほどの踏み込みと同時に闇に紛れる墨刀が雨女の首筋を目掛けて唸りを上げる。
「おねーさん純粋なのね」
上体を反らせて剣を躱すと同時に跳ね上がった蹴りが皇の手首を狙うが、そこは皇も死線を越え一皮剥けた女、咄嗟に墨刀の柄で受け止める。
「今の一撃躊躇いがないですね。無手の上にか弱い少女相手に心が痛まないの?」
「以前の私でしたらそうしていたでしょう。ですが今の私は違います。
貴方達相手にそれは慢心、主の命じるがまま私は持てる力を全て出し切るのみです」
受けた柄を軸にして剣を回して蹴りをいなすと同時に突きを放つが雨女は紙一重で躱して伸び上がる手刀を皇の喉元に突き込む。突き込まれた手刀を皇も紙一重で躱すがままに肩当てを喰らわせ雨女の体勢を崩した。
追撃のチャンスと皇が墨剣を一旦引くに合わせて、雨女は崩されるがままにタコのようにへにゃっと地に這い転がり、一旦後ろに大きく間合いを取ってしまった。
不用意な追撃は出来ないと皇も脇構えに仕切り直す。
美しい、まるで二人でデュエットでもしているようだった。それくらい息が合い無駄のない動きの連続だった。
よしっ。雨女は恐ろしいが体術だけなら皇も負けていない。そして雨女の魔は皇には通用しない。
期待以上だ、これで雨女は暫くは抑えられる。
俺は獅子神の方に意識を戻すのであった。
間髪入れずに獅子神が飛び出してきて、ひっくり返ったワゴンに取り付きドアを開けようとする。
流石プロ安心できる。ここは影狩と獅子神に任せておけば問題は無いだろう。
問題は別方向からやってくる。
こうなってみると焦らされたのは俺となるのか、後一歩遅ければ高みの見物漁夫の利が狙えたというのに。
愚痴っても仕方が無い、このままでは獅子神達に横槍が入る。
部下が最高のパフォーマンスで仕事しているときに、近寄るトラブル。まだ対処できるだろうと部下を信じて任せるべきか、パフォーマンスを落とさせたくないと影ながらサポートするべきか。
どちらが素晴らしい上司なのか評価の分かれるところ。まあ部下にどう思われようが、そこはビジネスと割り切れる。
大事なのはどちらの方が大きく火が付くか。
三つ巴の乱戦は場を大いに乱してくれる。そこから綻びが見えてくるかも知れない。
だがやはり俺という人間は賭を嫌う。
出来れば使いたくなかったが仕方ない。
俺は二枚目のカードを切って、大友を掠ってフォンを確実に追い詰める方を選んだ。
事故現場に猫のように塀の上あるいは屋根の上を軽々と走り、ほぼ一直線で現場に疾走していく白い影。
そういえば今日はどこか雲が月を薄く隠している。
月が隠れるこの夜を絶好の日と捉えたのは合谷達だけでなかったようだ。何らかの方法で合谷達の行動を伺いつつ帰路で待ち構えていたが、いきなり獲物をかっ攫う乱入者の登場に慌てて動き出したのであろう。
意図しない方が釣れてしまったわけか。
丁度家並みが途切れ、音もなく道路に着地し再び疾走しようとするその前にすっと人影が立ちはだかり、白い影の足が止まる。
「悪いですが、ここから先には行かせません」
「誰?」
簡単には抜けないと判断したのか、白いレオタードに身を包み脂肪がうっすらと霜降る筋肉が浮かぶ体を晒す雨女が基本に忠実なアンバーで構えながら尋ねる。
巫山戯ていると言うより、彼女の体術の根幹はバレエなのだろう。
「皇 由衣奈。貴方に恨みはありませんが、恩義を返す為剣を振るわせて頂きます」
剣袋の紐を解き皇は黒く輝く木刀を引き抜き、八相に構える。
黒く輝く木刀は、俺が強化カーボンで作り上げた剣で正しくは木刀ではない。墨刀とでも言った方が正しいのかも知れない。切れ味こそ無いが、鉄より軽く金剛石より堅い。俺が使っても木刀と大して変わらないが持つ者が持てば剣のように振り回せ破壊力は鉄槌という凶器に化ける。
鍛え抜かれた無駄の無い構えから生まれる月光のような気迫、惚れ惚れするほど美しいが馬鹿正直に名乗るのは辞めて欲しかった。正義のヒーローも裏家業も秘匿性が第一、後で嫌と言うほど教え込もう。
「済んだ綺麗な目。おねーさんは何であんなクズ共の味方をするの?」
雨女は不思議そうに尋ねる。
清廉潔白と佞悪醜穢。対極にて連みそうもない者達が連んでいれば不思議にも思おう。
「命を助けられた恩義があります。仇には仇を恩義にはこの身を持って返します」
「相手が女を泣かすようなクズでも」
雨女は皇が騙されている可能性を考慮し確認をする。
「恩義は恩義、為した事が為した人の中身で変わることはありません」
皇はきっぱりと言い返す。
凜として格好いいが、それだと俺がクズみたいじゃ無いか。そこは一言否定するのが恩人に対する礼儀じゃないのか?
「ご免」
皇がこれ以上は問答無用とばかりにアスファルトがへこむほどの踏み込みと同時に闇に紛れる墨刀が雨女の首筋を目掛けて唸りを上げる。
「おねーさん純粋なのね」
上体を反らせて剣を躱すと同時に跳ね上がった蹴りが皇の手首を狙うが、そこは皇も死線を越え一皮剥けた女、咄嗟に墨刀の柄で受け止める。
「今の一撃躊躇いがないですね。無手の上にか弱い少女相手に心が痛まないの?」
「以前の私でしたらそうしていたでしょう。ですが今の私は違います。
貴方達相手にそれは慢心、主の命じるがまま私は持てる力を全て出し切るのみです」
受けた柄を軸にして剣を回して蹴りをいなすと同時に突きを放つが雨女は紙一重で躱して伸び上がる手刀を皇の喉元に突き込む。突き込まれた手刀を皇も紙一重で躱すがままに肩当てを喰らわせ雨女の体勢を崩した。
追撃のチャンスと皇が墨剣を一旦引くに合わせて、雨女は崩されるがままにタコのようにへにゃっと地に這い転がり、一旦後ろに大きく間合いを取ってしまった。
不用意な追撃は出来ないと皇も脇構えに仕切り直す。
美しい、まるで二人でデュエットでもしているようだった。それくらい息が合い無駄のない動きの連続だった。
よしっ。雨女は恐ろしいが体術だけなら皇も負けていない。そして雨女の魔は皇には通用しない。
期待以上だ、これで雨女は暫くは抑えられる。
俺は獅子神の方に意識を戻すのであった。
0
あなたにおすすめの小説
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
都市街下奇譚
碧
ホラー
とある都市。
人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。
多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか?
多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。
忌憚は忌み嫌い避けて通る事。
奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。
そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる