俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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世界救済委員会

第293話 派閥の呪い

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 うっそうと茂っていた木々も途切れ少し歩けば眼下に視界が広がった。
「あそこだ」
 影狩が指差すのは、ここから少し下った先にある崖を背負う赤い屋根の別荘。別荘は鉄筋二階建てで西洋風の広い庭にプールまであり、中腹に広がる別荘地では高い位置にあるので他を見渡すことが出来る顕示欲が強い奴が好みそうな感じである。それだけに防御も堅そうで高い塀に囲まれて、静かで長閑なこの別荘地では浮いて見える。
 そんな別荘に黒田が入っていったらしい。別荘の庭にはメイドなどの使用人がちらほら働く姿が見え、そして敷地から一歩出た周りには黒田の部下達だと思われる奴らが目立たないように配置されている。
 あれは別荘を守っている様子じゃ無い。逆だ別荘を包囲監視している。つまりあの別荘は黒田のアジトというわけで無く、現状敵対勢力がいるということか。
 争っている気配は無い。つまり敵対勢力と交渉、この流れで黒田がわざわざ交渉するような相手。思い付くのは一人しかいないが・・・、思い込みは大敵だ。
「あの別荘には誰がいる?」
「悪いが黒田が入るところしか見ていない。中に誰がいるかは分からないな。調べれば分かるかも知れないが時間が掛かるぞ」
「そうか」
 嫌な予感がズシリと重くなる。まずは様子を伺って情報を集めてから動こうかと思っていたがそれが命取りになりそうだ。
 黒田の部下が未だ包囲しているんだ、影狩がいない間にどこかに行ったことはないだろう。黒田があの別荘にいるのは確定と見ていい。その上で争いになっていないところから交渉は順調と見ていい。
「どうする、夜まで待つか?」
 昼の間に情報を収集し闇に紛れて強襲する。軍人らしい手堅い手で、俺の好むところではある。
「いや、今強襲を掛けよう」
「らしくない雑な手だな」
 影狩が難色を示す。ロボットじゃ無いんだ納得できなければ反対するのは当然で、そういう部下で無ければいる意味も無い。
 ただこういう時には少々困る、説得する材料があまりに少ない。
「そうだがどうにも胸が騒ぐ」
「勘か?」
「勘だな」
「益々お前らしくないな」
「悪いがそれで納得してくれ。どうしても合理的理由が欲しければ悠長に構えている時間が無い」
「そういえば社長様は指名手配犯だったな」
「たまには上司の無茶ぶりに従ってくれるのがいい部下だぜ」
「はいはい、付き合ってやるよ。果無さん」
「済まんな影狩。
 作戦はシンプルだ。俺が最初に突入するから時雨と天見は様子を見つつ5分後に突入。影狩はここで予備として監視待機しつつ大原達と同流してくれ」
「また一人で突っ走って、ボクもきゃっ」
 俺を心配してくれた時雨が愛おしくて寄ってきたところを抱きしめると同時に横にダイビングし、元いた空間を矢が飛んでいく。
「へえ~意外と鋭いのですね」
 ボーガンを片手に秋津が背後の木々の間から現れた。迷彩服に身を包んでいるところから山の中を重点的にパトロールしていたのだろう。一体いつから見つかっていた?
「今の俺は悪意には敏感でね。それに急に殺意が溢れるとは情緒不安定か?」
 此奴の気配の消し方は見事だった、殺意が溢れなかったら気付けなかっただろう。
「そのまま監視しているだけだったら放っておくつもりでしたので」
 夜の強襲を選んでいたら出てこなかった。つまり時間が稼げれば良かったと言うことか、どうやら嫌な予感は当たっているようだ。
「お前がいるということは殻も当然いるか」
「はい、殻さんもいますよ。ですから大人しく退いてくれませんか?」
 ニッコリと笑って提案してくる秋津から悪意は感じない、本心から言っているようだ。俺にやられた恨みは無しか。
「そういう訳にもいかないなのが仕事でね」
 悪意も効かない殻との戦闘は厄介だが、仕事とは常に困難を克服することを求められるものさ。楽なことには誰も金を出さない。
「そうですか、命あってこそだと思いますが」
「その台詞、お前に返すよ。
 お前こそそれだけ可愛いんだ、普通の女子大生をしていればそれなりに人生楽しめるだろ、何を好き好んで世界救済委員会なんていう酔狂な組織で命を懸ける?」
「私は一度地獄に墜ちた女です。
 私はもうこの世界が変わることでしか救われない、世界救済委員会は私の魂の拠り所なのです」
 乙女に何があれば改造手術なんかを受けるのを決意させるのか、他人では想像出来ないことなのだろう。
「そんなお前が命を懸けて守ろうとする黒田。やっぱり黒田も世界救済委員会のメンバーだったということか、確信が持てたよ」
 改造手術を受けた改造人間だとしても、こちらも超人軍人の揃い踏み。決して楽に勝てる相手じゃ無い、戦うのならそれなりの覚悟がいる。黒田が聖人には見えないなら、残る選択肢は一つ。
「私はどこか失言したのですか?」
 秋津は首を傾げて問い掛けてくる。その可愛さに免じて正直に応えてやろう。
「いやいや、もともとそうじゃないかとは思っていた。それがお前と殻がここにいることで確信に変わっただけだ。
 だが黒田と殻、協力しているようで微妙に噛み合っていない。だから今まで断定できなかったんだが、もしかして派閥が違うのか?」
 改造手術が出来るくらいの資金と技術力がある組織なら、それなりの大組織だろう。そして人間同じ志の元集まっても派閥が生まれるのが業というもの。
「流石そこまで分かってしまうのですね。でも分かっているのですか、それとも分かっていて言ったのですか。
 もうあなたを見逃すわけにはいかなくなりましたよ」
 見逃してもいいと言っていた秋津はもういない。笑顔のままに顔に凄みが生まれた。ここで逃がしても止めを刺すまで追ってくる暗殺者の凄み。
 まあ、仲間の黒田の正体を知られたら俺を逃がすわけには行かないのは分かる。だが此方もこんな顔を向けられては秋津を逃すわけにはいかなくなった。
 お互いぐっすり眠る為どちらかが消えるしか無い。
「狙うなら俺だけにしといてくれよ」
 まずいな天見はいいとして影狩と時雨を巻き込んでしまった。これは俺の失言だな。
「黒田さんは殻さんより現実的、現実的すぎるんですよ。だから聖人により人々の意識改革なんて目指さないで体制を変えることで世界の救済を目指しています」
 秋津は何処か愚痴を吐き出すように上司批判をする。完全に死人に口なしの気分だな。
「ほう、どちらかというと俺に近いな」
 俺もどちらを取ると言われれば黒田の方法を目指す。聖女なんて夢物語に縋れるような純朴な人間じゃ無い。
「でも馬鹿な人、所詮役人から抜け出せないんですよ。そんなことで人類の救済ができるならとっくに誰かが為していますよ。
 社会主義や共産主義、達成出来れば人類は幸福になれた政治体制。ですが結局それを運営する人間の意識改革が為されるままに実行された故に体制は人の悪意で歪み、地獄を生み出しただけでした。
 天に到って世界革命を為そうとする天至教十二天至の一人である天見さんなら分かってくれますよね」
「己を救えるのは己だけだ。
 ただ我等は己を救えぬ者に手本を示すのみ」
 悪いが俺は天見を見て目指そうとは思わないがな~。
 そもそもは天見は己を救った境地に到っているのか? 乃払膜への拘りとか見るに、まだまだ覚醒道半ばといったところか。
「まあ、そういう考えもありますよね。
 でも己を救えない弱き者はどうなるのですか、泥水に沈んだままでいいと」
 なんか小乗仏教徒と大乗仏教の争いみたいだな。
「何度も言うが、光を求めない者に光は差さない」
「流石その傲慢さから世界救済委員会から別れた組織」
 えっそうなの? だがまあ人類の救済を掲げるなんて似ているような、そんなの何処の宗教も同じような。
「語弊があるな。天至教と世界救済委員会は、もともとあった組織から別れた分派同士だ。そう習わなかったか?」
 天見にしてみれば世界救済委員会から別れた組織と思われるのは沽券に関わるのか?
 益々悟れてないな。
「へえ~そうなんですか知りませんでした。幹部しか知らないことなのですかね、今度殻さんに聞いて見ます」
 世界救済の方法は置いといて、一連の会話から分かった真理がある。
「ふむ、君の話を聞けば黒田にはいい感情を抱いて無いようじゃないか。ならこのまま俺達を見逃した方が黒田の邪魔が出来てお互いWin-Winといかないか?」
 敵の敵は味方。対立派閥を刺激するのは組織潰しの基本戦術。
 そしてここで乗ってくれれば共犯者として秋津に付け狙われることはなくなって一石二鳥とも言える。
「それはお断りです」
 きっぱりと秋津は言い切る。
「同じ組織なので。上司の命令には従いますよ、例え対立派閥でもね」
「世界を救済しようという割には世知辛いな」
 せめて正義の為にくらい言ってくれれば会話できない馬鹿と諦められるのに、中途半端に合理的なんだよな。おかげで説得できるかもと夢を見てしまう。
「世界を救済したい思いは同じです、やり方が気に入らなくても私は任務には忠実です」
 これ以上の交渉は彼方に時間を与えるだけか。
「影狩、足止めを頼む」
「此方も上司のご命令、世知辛いのは同じか。
 ご指名は嬉しいが、魔相手じゃあんまり期待するなよ」
 イヤイヤながらもNoと言わないいい部下だ。
「誤解しているようだが秋津に魔の力は無いぞ。改造手術を受けているだけで不思議パワーは無い科学の力だ。謂わば兵器、兵士だ。
 なら本職のお前が負けるわけにはいかないだろ」
「煽ってくるね。そう言われたら引けないじゃ無いか、ボーナス期待しているぜ」
 影狩は不敵に笑って軽口を言う。
「生きていたら払ってやるし、ついでに危険手当も付けてやるよ。
 だから死ぬなよ、時間を稼ぐだけでいい」
 そうは言ってもそれでも現状の装備的に影狩の方が不利なのは確か無理はさせられない。
「優しい社長で嬉しいよ」
「頼んだぞ」
 影狩を残し俺達は別荘に向かって走り出すのであった。

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