俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第四十四話 スキンコレクター

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 俺を素人と嘲るわりには、一応プロである矢牛に対する警戒を疎かにし過ぎだ。縄抜けだか何だか知らないが、矢牛は自力で拘束から抜け出していたのだ。まあ一応矢牛の方を向かないように牽制はしてたけどな。
「どうでもいいけど、こっち見ないでね」
 未だ素っ裸の矢牛は俺の視線から逃れるように俺の斜め後ろに立つ。
「そんな余裕は無い」
「ふふ~ん、余裕があれば見るんだ」
 なんだその勝ち誇った言い方。俺も男、興味が無いと言えなかったのが敗因か。
兎に角、俺は床に倒れ伏す鵡見に意識を集中していて矢牛の裸を鑑賞している暇なんか今の状況では無い。
 気絶したのか鵡見は倒れたまま動かない。
「止めを刺した方がいいか?」
 ナイフやらノコギリやらペンチやら鉈やらと幸いにも道具は困らない。ここは素直に素人としてプロに意見を聞いてみた。
「あんた本当に素人?発想がもう殺し屋ね」
「素人だから余裕が無いんだよ」
 起き上がってこられて、まだ戦いに出なると思うとぞっとする。
 今までの戦いで体力だけで無く精神力もごっそり消耗していて体が重く気を抜くと寝てしまいそうだ。
「フェイクの可能性もあるわ、迂闊に近付かない事ね。其処の台の上にあるハンマーでも投げ付けてみなさいよ。足くらいなら潰してもいいわ」
 お前の方こそ発想が怖いよ。だが、言われてみれば近付く必要も無いし安全だ。
 俺がハンマーを取ろうとしたところで鵡見が起き上がってきた。
「やってくれたわね」
「きゃあ」
「!」
 矢牛がまた可愛い悲鳴を上げるが、今回は仕方が無いか。それほどまでにグロテスクなものが眼前にある。
 起き上がってきた鵡見、瞼が鼻の位置に唇が顎下に耳が頬にあったりと福笑いのように位置がズレている。嫌違うそんなに不規則じゃ無い、顔の皮がマスクがズレたかのようにズレているんだ。
 これが映像なら笑えるが、三次元で見せられると気持ち悪さしかない。
「あら、目がよく見えない。今の衝撃でずれたのかしら」
「うっうわーーーーーーーーーーーーーー」
 恐怖による暴走かも知れない。だが同時に前がよく見えていなさそうな今こそチャンスと捕らえたのかも知れない。
 兎に角俺は台に駆け寄ってハンマーを掴むと鵡見に向かってぶん投げた。
「気に入っていたけど仕方ない」
 鵡見は己の顔を両手で掴むと、服でも破くように顔の皮膚をビリッと破り去った。そして視界が開けたのか、俺が投げたハンマーを危なげなく躱す。
「乱暴ね」
 今までと同じこちらを嘲るような口調ながら、受ける嫌悪感が圧倒的に上がった歯痛のような痛みが脊髄をズキズキする。こちらを見る鵡見の顔は皮膚が無くなり顔の筋肉やら神経が剥き出しになっている。まるで理科室にあった人体標本の左半身だ。
「お前、鵡見さんの皮膚を奪って被っていたな」
 理屈は納得出来ないが、時雨さんが慕っていた鵡見さんが実は悪人でしたより、納得できる筋だ。
「ご明察っと言いたいけど、ここまで来ればよほどの馬鹿でも無ければ分かるでしょ」
「そんなことっ、人の皮膚を服を着るように着るなんて人間に出来ることじゃない。お前、本当に人間なのか」
「それは、精神的にという意味かしら、それとも物理的にという意味かしら」
「両方だっ」
 嬲る口調に俺は怒鳴り返した。
「可能なんだよ。そいつはスキンコレクターは魔人だ。
 どういう理屈か精神構造か知らないが、そいつは人の皮膚は着替えられると信じて認識して、共通認識の海を突き破って己の我を貫き通したんだよ」
 矢牛が恐怖を滲ませならが言う。
 人類全員が持つ深層心理の奥底にある共通認識の海。これがあるからこそ人は皆同じ物理法則の下で存在していられる。以前時雨さんから説明された量子力学に通じる世界観だった。
 その共通認識の海の歪みから生まれるのがユガミ。正真正銘の化け物。トイレの怪異やら水族館やら招く手とかはこれだ。
 共通認識から生まれる認識を突き破り、己の認識を押し通すのが魔人。彼等は人でありながら物理法則を越えた己の法則を発現させる。
 説明された時そんなSFチックなこと出来るかと思ったが、今俺の前にいる。認めるしか無い。
「私昔全身火傷をしたことがあって、体の皮膚をそう取っ替えしたことがあるの。びっくりしたわ。包帯を取ったら別人なんですもの。
 その時ね。私は人の皮膚は着せ替えできるって認識しちゃったの」
「それと人の皮膚を剥ぐのとどう繫がるんだよ」
 皮膚が交換できると信じるのと人の皮膚を奪うはイコールじゃ無い。それが成り立つなら、皆人を殺せると信じて人を殺しまくることになる。
「ええ~君たちだって服を変えたいって思うでしょ。それと同じで私は皮膚を変えたいって思うの。それとやっぱ、集めたくなるのがコレクター心理じゃ無いかしら。
 だから私はスキンコレクター」
 スキンコレクターはそれは無邪気に言うのであった。
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