俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

文字の大きさ
68 / 328

第六十八話 ベタ踏み

しおりを挟む
 ぶんっと唸りを上げて振り上げられたジャンヌ、並みの少女なら目を回してしまいそうな遠心力に逆らい叫ぶ。
「舐めるなっ」
 太股に括り付けておいたナイフホルダーからナイフを引き抜く動作で躊躇うこと無く大熊の目目掛けてナイフを放つ。
「くっ」
 バイクを受け止める大熊も目を庇うべく僅かに取った防御行動、その僅かな隙に全身の筋肉を躍動させドリルの如く捻って大熊の握力を振り切った。
「見かけに騙されたわ。ただの人間だったのね貴方」
 飆の如くぴたっと地面に難なく着地するジャンヌとそれを素早く包囲するセクデス達。上から見るとその包囲に隙が無いのがよく分かる。
 おおっ凄い凄い昔見たスーパーヒロイン番組みたいだ。っと成るとやはりジャンヌは悪の幹部セクデスを倒すべく活躍する正義の味方なのか? まあ、美少女が正義と思うのは偏見、それても本能? 案外、悪の組織対悪の組織が正解なのかも知れない。
 まっ今はどうでもいい。
 姿を消し気配を消し、意識がジャンヌに注がれる中俺は山の頂上を目指して登っていた。普通に下に向かったり森の中に逃げ込むことを考えたが、俺が予想が正しければこの先にいい物があるはず。
 下に注意を向けつつ坂を登り切ると、木々に囲まれた家一件分くらいの空き地が開け、「予想通り」と思わず声に出してニヤリとしてしまった。
セクデス達は頂上の方から来た。っということは本来頂上で俺が連れてこられるのを待っていたはず。そして奴らが幾ら人外とはいえ小山をえっちら仲良く登って頂上まで歩いては来ないだろうと思っていたが、予想通りワンボックスカーが駐められていた。
窓から車内を覗くと、悪人は自分が盗まれるなど露も思わないのか、直ぐに逃走出来るようにかは知らないが鍵が挿しっぱなし。直結する手間が省けた。
後部座席には特にこれといった物は置いてない。銃とか置いてあったらと期待したが、其処までは上手くいかないか。車があるだけで上等、ありがたく使わせて貰おう。
奴らの足を奪って逃走する。俺に逃げられた後、奴らがとぼとぼ山を下りていく姿を想像すると、何だか気分が愉快になってくる。
敵を倒すなんて派手さは無いが、じわじわとくるいい嫌がらせ、それでこそ嫌な奴よ。
ドアを開け運転席に乗り込む。
ぱふっと体を包み込むような座席、オプションの最高級シートは伊達じゃ無い、なかなかにいい。彼奴等悪党のくせに金もってんだな、いや悪党だから金を持っているのか。
金は悪党の回り物。善人じゃ大金は掴めないってね。
上手く逃げ切れたら売り払って学費の足しにしたいが、きっと足が付くんだろうな。乗り捨てるが吉か。
「ふうっ」
 シートに体重を沈め息を吐いてリラックス。
ここまでは順調として残る問題はただ二つ。
一つは、俺って免許持ってないんだよな。今時と言われそうだが、苦学生を舐めるなよ。それでももう少しで資金は貯まる予定だったんだ。免許さえ有れば、時雨さんをドライブに誘って、山とか海とか夜景とか普通の恋人がするようなことをしてみたいぜ。
まあ、それは未来の楽しみとして。
 こっちがアクセル。こっちがブレーキ。これがシフトレバー。
 ゲーセンで遊んだこともあるし、マニュアル車でもなければ走らすくらい出来るだろ。
 となるともう一つが問題か。
 頂上の反対側に抜ける道は無く、この車を奪って逃走したければ、あの化け物共が暴れる戦場を真っ直ぐ突っ切って行かなければならない。
 あの化け物共なら俺が車という力を得て互角かも知れない。
 安全を取るなら車を降りて反対側の森を突っ切って山を下りるのがいいかもしれない。



「はっ」
 弱気弱気、逃げるな。嫌な奴を目指したんだろ、時雨さんの傍にいたいんだろ。
 だったら、この程度の嫌がらせできなくてどうする?
「それじゃ、果無 迫、行くぜ」
 アクセルを踏んだがいきなり後輪が唸りを上げ車体が揺れた。
「そうか、サイドブレーキ、サイドブレーキ」
 俺は少々熱が上がった顔が醒めるのを待って、サイドブレーキを解除した。
「今度こそ行くぜ。立ち塞がる奴はセクデスだろうが鬼だろうが巨人だろうが、例えジャンヌだろうが、跳ね飛ばして押し通る」
 その覚悟無くして凡人の俺が化け物共と戦えるわけが無い。
覚悟を込めてアクセルをベタ踏みした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

GATEKEEPERS  四神奇譚

ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。 ゲートキーパーって知ってる? 少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

都市街下奇譚

ホラー
とある都市。 人の溢れる街の下で起こる不可思議で、時に忌まわしい時に幸いな出来事の数々。 多くの人間が無意識に避けて通る筈の出来事に、間違って足を踏み入れてしまった時、その人間はどうするのだろうか? 多くの人間が気がつかずに過ぎる出来事に、気がついた時人間はどうするのだろうか?それが、どうしても避けられない時何が起こったのか。 忌憚は忌み嫌い避けて通る事。 奇譚は奇妙な出来事を綴ると言う事。 そんな話がとある喫茶店のマスターの元に集まるという。客足がフッと途絶えた時に居合わせると、彼は思い出したように口を開く。それは忌憚を語る奇譚の始まりだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

感染

宇宙人
ホラー
福岡県北九州市の観光スポットである皿倉山に航空機が墜落した事件から全てが始まった。 生者を狙い動き回る死者、隔離され狭まった脱出ルート、絡みあう人間関係 そして、事件の裏にある悲しき真実とは…… ゾンビものです。

かなざくらの古屋敷

中岡いち
ホラー
『 99.9%幽霊なんか信じていない。だからこそ見える真実がある。 』 幼い頃から霊感体質だった萌江は、その力に人生を翻弄されて生きてきた。その結果として辿り着いた考えは、同じ霊感体質でパートナーの咲恵を驚かせる。 総てを心霊現象で片付けるのを嫌う萌江は、山の中の古い家に一人で暮らしながら、咲恵と共に裏の仕事として「心霊相談」を解決していく。 やがて心霊現象や呪いと思われていた現象の裏に潜む歴史の流れが、萌江の持つ水晶〝火の玉〟に導かれるように二人の過去に絡みつき、真実を紐解いていく。それは二人にしか出来ない解決の仕方だった。 しかしその歴史に触れることが正しい事なのか間違っている事なのかも分からないまま、しだいに二人も苦しんでいく。 やがて辿り着くのは、萌江の血筋に関係する歴史だった。

処理中です...