俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第七十三話 日本の戦士

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 まだ火が燻る中、セクデス達が車の残骸を囲んでいる。
 セクゼスの足に合わせて来たのだろうが、着いた時には決着は付きジャンヌ達も見渡す限りでは姿は消えている。
「まさか猪野が殺られるとは」
 黒服が車の下でウェルダンになっている鬼を見て意外そうに言う。彼にしてみれば、倒せないまでも自分達が到着するまでの足止めくらいは余裕で出来ると思っていたのだろう。
「やはり聖女ジャンヌ、侮ってはいけないということですか」
 セクデスは少々調子に乗っていた自分を戒めるように言う。
「セクデス様、護衛が大熊だけになってしまいますが、私に追撃許可を」
「侮るなと言ったばかりですよ。そもそもどっちに行ったのか分かるのですか?」
「街に向かったのでは」
「裏をかいて空港の方に戻ったのかも知れませんよ。追跡をするには人手が足りません、廻殿の応援も間に合わないでしょう。
無事日本に上陸できたと言うことで今回は満足しましょう。聖女との決着はいずれの機会の楽しみに、次なる機会には入念なる準備をして迎えましょう」
セクデスはクリスマス会を待ちわびて堪えきれない子供のようにニタニタと笑うのであった。
「角野、迎えはいつ頃来ますかね? 場合によっては自力で街までは行きましょう」
「分かりました。ん!?何か来ます」
 スマフォを出そうとした角野が目を向ける先からパトカーが近付いてくるのが見える。車は結構ハデに燃え上がったから、その炎を目撃した誰かが通報したのだろう。
パトカーはセクデス達の傍で止まり、制服警官が二人ほど降りて来る。
「ここで車が炎上しているとの通報を受けてきました。失礼ですが貴方達はここで何をしているのですか?」
 老紳士、黒服、顔が真っ青の外人に3メートル近い大男と見るからに怪しい面子だが、公僕の鏡なのかマスコミが五月蠅いからか一応丁寧な口調で年配の警官が尋ねる。もう一人の若輩の警官は先輩に市民への対応を任せて車の様子を見に行く。
「ふむ、さすが日本の警察ですな対応が早い。ご苦労様です」
 セクデスは敬意を示し一礼する。
 流石の魔人セクデスも警察との無闇な衝突は避けようとするということか。
「恐縮です。それで貴方達は何者です。よろしければ身分証を拝見させてください」
 セクデスの老紳士然とした対応に一瞬納得しかけた年配の警官だが、如何如何と職務に忠実に尋ね直す。
 雰囲気に飲まれて流しておけばいいものを、公僕としては立派なのだが。
「たっ谷さん、車の下で燃えているのはひっ人ですよ」
 燃える車の様子を見に行っていた若輩の警官が腰が抜けそうな声で叫んだ。車の下敷きになっていた鬼を見たのであろう、確かに燃えて墨になってしまえば人との区別は付きにくい。
 そしてもう一人の警官も中途半端な。よく見れば額に角があるんだから人で有るわけ無いだろ、アトラクションの人形とでも思ってくれればいいものを。
「なにっ」
「お忙しいところすいませんが、私からも一つ尋ねてよろしいでしょか?」
 車の方に意識を向けそうになった年配の警官にセクデスは尋ねる。
「今それどころじゃっ」
 年配の警官は呼び止められて苛つきながら答える。
 気持ちは分かるが今セクデスの機嫌を損ねるのは得策では無い。
「長年警官をしている貴方なら分かるかも知れない。
どこからが死で、どこからが生なのか?
 答えは如何に」
「巫山戯たこと言ってるなっ。お前達怪しいぞ。早く身分証明書を見せなさい」
 とうとう年配の警官から丁寧さが消え犯罪者を相手取るように問答無用で相手を従えさせる威圧感が生まれる。
 とうとう虎の尾を踏んでしまった。
「ふう」
 セクデスは溜息一つ。
 予想に反して一生を掛けた命題を馬鹿にされてセクデスは激怒しなかった、ただ一瞬のうちに警官への興味が消え去りその瞳に映る警官は河原の石の如く成る。
「此奴等には問いかける資格すら無しか。
 角野片付けろ」
 セクデスはゴミを片付けるように命令する、命が軽すぎる。
「了解。悪いが仲間をやられた鬱憤、お前達に当たり散らすぜ」
 既に興味を失い明後日の方を見るセクデスの命に従い角野が警官達の前で内から膨れ上がる筋肉で服を破り鬼へと変貌していく。
「なっなんだ」
 鬼に正対した年配の警官は鬼が表れた現実を咀嚼できずに棒立ちになる。鬼はゆっくりと腕を振り上げ、振り下ろせば警官の頭など軽く吹き飛ぶだろう。
 もう考えている暇は無い。
 仕切り直すか見捨てるか。
 言葉遊びは辞めろ。
 万に一つの勝機か泥沼の逃亡か。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
 俺は雄叫びを上げて潜んでいた草むらから後ろを見ること無く飛び出した。
 セクデスが鬼が俺の方に視線を向ける。
「くたばれっ」
 腕を突きだし指を引く。
山間に銃声が木霊する。
「なっ」
「はっ」
「ふんっ」
 銃弾は鬼の肩に当たったが、銃弾は分厚い鬼の筋肉に受け止められ少し蹌踉めいただけで、次の瞬間には獲物を見付けた虎のごとく笑う。
だがそれでいい。最期の銃弾だったが十分に仕事を果たしてくれた。
 警官二人は現実の脅威である銃声で悪夢を彷徨っていた意識を現実に戻した。
「神の敵を倒すため戦いなさい、日本の戦士よ」
 付いてきてくれたのか。
気付いたら俺と並走していたジャンヌが凜々しい声で警官達に命令する。夢遊病のような顔から現実に戻って更に警官達は戦士の顔になる。
 くっく、幾つになっても男の子、美少女に叱咤されればやる気が出る。
 闘志に満ちた警官の顔を見るとジャンヌは満足したように足を止め、聖歌を歌い出した。
 美しき神の旋律を奏でる歌声にアラン、鬼、セクデス、神の定めた律を歪める者達が苦しみ出す。銃弾すら聞かない鬼が歌で苦しみ出す。
「おのれ、だがさっきの繰り返しだぞ。大熊っ」
 巨人でありながら常人である大熊がジャンヌに挑みかかろうと向かってくる。
 セクデスさんよ、悪いがさっきとは状況が違うぜ。
「その大男を何としても止めろっ」
「!?」
 見も知らずの若造に命令されて警官達に戸惑いが生まれる。
 ここからがハッタリよ。
「俺は怪異専門の部隊から派遣された者だ。
責任は俺が取る。死にたくなくば銃を抜き戦え」
「うおおおおおお」
 覚悟を決めるため雄叫びを上げて年配の警官が大熊に対して発砲した。
 警官とは治安を守るべく日頃戦闘訓練をしている戦士である。大学で勉学に励む俺なんかよりもよっぽど強い。映画などで簡単に殺られるのは異形にとまどいまともな対応出来ない隙を突かれるからである。その戸惑いさえ取り除いてやれば素人の俺よりもよっぽどうまく立ち回る。
「くそったれっ」
 年配の警官に触発されて若輩の方の警官も大熊に対して発砲する。
 二人に容赦は無い。日本の警察とは思えないほどに銃弾を撃ち込む。恐怖にさらされ、美少女に叱咤され、俺に命令されてリミッターを外したようだ。
 しかし銃弾を受けているというのに、大熊は警官隊に反撃をすべく突撃していく。此奴は本当に普通の人間なのかよ。俺同様防弾装備はしているだろうが衝撃は受けるだろうに。
「怯むなっ。俺達は足止めをするだけでいい」
「おっおう」
 たかだか二十代の若造の俺の命令に従う警官達。従えば優秀な警官、大熊に攻められる分だけ巧みに後退して牽制していく。巧みな駆け引きだが、所詮警察でもある。殺人を躊躇う警官達は効かないと分かっていても素肌剥き出しの頭部は狙わない。
 そして俺も殺人をしろとまでは言えない強制できない。牽制の弾が切れる前に打開策を見出さないと数の優位を活かすこと無く潰される。
 何か無いか、武器になりそうなのは河原一面に転がっている石くらいか。
「うわっと」
 若輩の警官が交代時に河原の石に蹴躓いた。そしてその隙を逃すほど甘くない。
「ふんっ」
 土管のような足が蹴り上がり警官も蹴り上がっていく。
 ここだっ。蹴り飛ばされた警官の身を案じるより先にチャンスを捉えた。
 年配の警官が心配そうに大熊が成果を確かめるように上を見上げる中、俺は地を伸びる影の如く疾走する。
 狙うは今大男の体重を一本で支える足。石を拾い振りかぶり突撃していく。
「ぬっ」
 下方から忍び寄る俺に気付いた大熊は蹴り上げた足で踏み潰そうと踏み込んでくる。 大男の体重と重力加速度が乗った踏み込みを受ければ俺の体など潰れたカエルのようになるだろう、即死だ。
 だが引かない避けない防御しない。
 手の届く位置にある勝利をもぎ取りに行く。
「喰らえっーーーーーー」
 視界を埋めるは古来より大男の弱点の足。その三乗で増えていく体重を支える足に掛かる負荷は並大抵じゃ無い。弁慶の泣き所と言われる臑、更のその下体重を支える小指に向かって俺は石を振り下ろした。
 ぐにゃ。
「うがーーーーーーーーーーーーーーーー」
鼓膜が割れるほどの叫びを上げて大男が転がった。河原を転げ潰された足の小指を抱える。臑なら兎も角まさかこんなマンガみたいな所を狙うとは思ってなかった予想外の激痛に耐えられなかったようだな。
 これで時間が稼げる。
 ジャンヌの方はどうだ。
 耳を傾ければ、旋律的にフィナーレに掛かってきている。まさに神々が降臨でもしそうなほどに荘厳でいて空気がガラスにでも変わりそうなほどに神秘的。
 俺には効果が全く分からないが、アランも鬼もセクデスも蹲っている。
「おっおのれ。何十年と追い求めた我が宿願、失ってたまるかっ」
 セクデスが全身の毛細血管から血を滲ませならがも立ち上がり、その真っ赤に染まった目で一点を睨んだ。
 何をする気が、特攻か? セクデスの視線の先に目をやればパトカーがあった。
しまった。
 俺が阻止に動く前にセクデスは走り出しパトカーに乗り込んだ。
 まずい。
 こちらを向くパトカーのエンジンが唸り、轢き殺される予想に俺の背筋が凍り付いた。
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