俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第七十二話 行動が示している

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「ふう」
 川に飛び込んで体に染みこんだ冷たさが炎で炙り出されていく。
 まあ、多少肉が焦げる匂いが鼻に付くがこの暖かさからは離れがたいものがある。早くここから離れなければならないが余韻に浸ってしまう。
 危ない賭だったが見事鬼は始末した。
良くマンガでここは俺に任せて逃げろという役を、途中にある幾つかの分岐点ジャンヌを見捨てるという分岐もあったにも関わらず、結果的には果たすことになった。運のない俺がこんなおいしい役を果たせるとは思わなかったぜ。
 俺の結果的自己犠牲の精神的行動によりジャンヌは無事街に辿り付けるだろう。この結果が大きい。敵の目的はジャンヌで俺は目的を果たすための手段に過ぎず俺自身では価値など無い。あの少人数では、当然リソースはジャンヌの追撃に集中させるだろう。俺は敵を一人倒した特典として、今後追撃されることなく舞台からのフェードアウトを約束されたわけだ。
 更には俺はジャンヌを身を挺して守ろうとしたという実績も手に入れられた。これは時雨さんへのいいアピールポイントになると同時にジャンヌに何かあったとして、それはもう俺の手の届かないことであり仕方がないことだと周りは評価してくれるだろう。
こう列挙していくと俺ばかりが得をしているようだが、ジャンヌも取り敢えず街に辿り付け一時の猶予は手に入れられるはず。其処からどうするかは選択したジャンヌの責任だろう。
つまりWin-Winということだ。俺に非は無く対等でフェアな取引だった。
俺の内心を知れば冷酷と非難する奴もいるだろうが、俺は人間が嫌いだ。仲間でもない奴がどうなろうとも俺に理論的非がないのならどうでもいい。
さて体は十分温まった。ジャンヌの健闘を祈りつつ、俺は動き出すとするか。
「もういいのか?」
「ああ、大分乾いたからな」
 冬の最中濡れた衣服でいることは危険だ。その程度根性で乗りきろうなんて考えるのは愚かというもの。ましてやこの後山越えがあることを考えれば抜かりがあってはいけない。
「そうか、水に濡れた体での無理は体力を奪うからな」
「そうそうって、へっ!?」
 何を俺は普通に会話をしているんだと、目を見開けば目の前にジャンヌがいる。
「何を驚いているんだ?」
 ジャンヌは驚いている俺を不思議そうに小首を傾げる。
「おっおまえ、なぜここにいる? 街へ逃げなかったのか」
「私が仲間を見捨てて一人逃げるわけがないだろう」
 ジャンヌが当然とばかりのいい顔でさらりと俺を仲間と呼ぶ。
 善意、圧倒的な善意。基本俺は悪意を向けられることを前提に計画を組み立てていくが、今回俺にあまり向けられることの無い善意が俺の思い描いた青写真を台無しにする。
 善意が俺の命を懸けた賭けの代償を台無しにしたというのか。いや善意なら俺の計画通りに行動してくれるはず、これは俺の予想の斜め上を行く悪意なのか。
「何を惚けている? 早く動かないとセクゼス達が来るぞ」
「ふざけるなっ。そもそも、俺がいつお前の仲間に成った?」
 あまりに理不尽な結果にむかついたのか、冷静なら言わないようなことを口走ってしまった。
「いちいち宣言をしないといけないようなことか?」
 ジャンヌは子供のように笑って言うのであった。
「ああ、そうだよ。俺は黙っていても察しろとか、そういうのは嫌いなんだよ」
 そう、空気を読めとか。いつの間にか仲間にされて、いつの間にか裏切り者にされる。そんな気分次第で相手の都合のいいように区分されるなんてご免なんだよ。
「そうか」
 ジャンヌは俺のセリフに意外そうな顔を向ける。多分普段善意好意を無償で向けられるこの女にとっては珍しいことなのだろう。
「そもそも何処に察する要素がある。俺はお前を突き飛ばしたんだぞ。何処に仲間要素がある」
「私を囮にするためには仕方が無いことだろ」
「囮にされて何で嬉しそうなんだよ」
 俺には理解が全くできない。なんでジャンヌは裏切ったにも等しい俺に笑顔を向けられる。仮に戻って来るなら俺を糾弾し断罪するためだろう。決して俺にやさしい笑顔を向ける為じゃない。
「お前は私とお前の命を同等の価値にした。その上で両方を救おうとした。
 それは仲間と言うことだろ」
 ジャンヌは俺を受け入れるかの如くその空のような瞳に俺の姿を映す。
 くそっそんな手に騙されるか、ほだされるな。
「アホかっ。俺は俺が助かるためにお前を突き落として囮にしたに決まってるだろ」
 なぜなんだ? ジャンヌに誤解させておいたほうが利益を得られるというのに俺は意地になって否定する。自分を悪者にする、そんなの嫌な奴じゃない。
「ならなぜ、鬼を倒した。そんな危険を冒さずに、そのままにしておいた方が確実に逃げられたはずだ。お前は私を囮にして逃げようとしたんじゃ無い、鬼の隙を作りたかったんだ。
 そこまでされて仲間意識をしないほど私は不感症じゃ無いぞ」
「そんなのは結果から勝手に思い込んでいるだけの過敏症だ。俺が内心何を思っているかなんてお前に分かるわけがないだろ」
 俺は否定する。
 ムキになって否定する。
 理でなく感情で否定する。
 認めてやるよ。これがどうでもいい奴が言うどうでもいい上っ面だけの仲間であるなら俺もここまでムキにならなかった。だがジャンヌは違う。ジャンヌの言う仲間を俺は素直に受け入れられない。
 そんなに簡単に俺を仲間にするなっ。
「その通りだ」
「なら」
「口で否定し。
 心の中で何を企んでいようとも。
 行動が示している」
 ジャンヌの瞳が俺をまっすぐに射貫き、俺は金縛りにあったように動けない。
「見えもしない心の中を深読みするより、私はお前の行動を信じるよ」
「おっ俺はそんな綺麗ごと認めないぞ」
 絞り出すように言う。
 人が内心何を考えているか分からない、疑って疑って疑い抜かなければならないんだ。優しさなんか騙すための下準備だ。
「しょうがない奴だな」
 一瞬ジャンヌが俺を哀れむような目で見ると抱きついてきた。
 まだ冷えが残る体が暖かく、火よりも暖かく柔らかく包まれる。
 抱擁と言うのだろうか。
「私とお前は仲間だ。互いに助け合い、共に歩んでいこう」
「こっこれは」
「ああ、この間見た映画でこんな感じで男同士仲間の契りを交わしていたぞ。
 真似したみたが、嫌だったか?」
「それって裏切ると制裁をするような奴か?」
「そうそうよく知ってるな。
 でもこれできちんと形で示したぞ」
 抱擁を解いて一歩離れたジャンヌは悪戯っ子のように笑い、意地を張るのが馬鹿らしくなる。
負けたよ。お前の言う仲間、行動で示してもらおうか。
だが覚えておけよ。制裁とは俺がお前にする場合もあるんだぜ。
「んじゃまっ取り敢えずじゃれ合いはここまでにして行くとするか、ジャンヌ」
「ああ、よろしくなセリ」
 俺とジャンヌは下流ではなく山越えを目指し共に歩き出すのであった。
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