俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第八十一話 廻

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「舐めるなっ」
 米占はただ強くしていた粘度を強弱の波を付けるように工夫するが遅かった。最早見切られていた。鬼のラッシュを躱し体で粘度を体感して都度調律を行ってしまう時雨。
 音叉と小太刀が共振し、内に種火が燻るような舞いが始まる。
 鬼の攻撃を躱す動作が舞いの一動作。
 柔らかく美しく振られる音叉に、鋭く美しく振られる小太刀が折り重なり、鉄琴のような鐘の音のような音が響いて積み重なり旋律へと紡がれていく。
チリチリと延焼する炎に炙られる現実。
 その現実にVRの如く幻想が覆い被さっていく。
黄昏に染まる雪が降り積もり。
眠る人も瓦礫も等しく紅色に埋もれていく。
悲しみも憎しみも一色に染められていく。
不浄なる世界に紅の結晶が降り積もり清める時を待つ。
「雪月流、六花炎晶」
 今時雨の旋律が奏で終わり、小太刀が紅色に輝く。
「浜岡、一旦引けっ」
 米占の叫びに呼応して後ろに飛び退こうとする浜岡だったが、夕日が伸びるように紅の閃光が射す。一瞬で鬼の背後に駆け抜けた時雨が振り返る。
「踏みにじるだけ踏みにじって、逃げるなんて勝手が過ぎるよ」
 小太刀の一閃、鬼の胸に描かれた一文字から血の如く飛散していく紅の砕氷が昇華して燃え上がる。
「ぐああああ」
「六花」
 燃えだし動揺する鬼に振り返る間すら与えず時雨が動く。時雨の小太刀が煌めき鬼の背中に紅の六花結晶が描かれる。
「ぐあああああああああああああああああああ」
 暴虐を振るった鬼が燃え上がり罪を照らす松明と化す。
「なっなんなんだ」
 鬼と睨み合いつつ戦いを見ていた竹虎警部補はそれしか言えなかった。自分達が太刀打ちできなかった鬼を自分の半分も無いような小柄な少女が葬る。触れてはいけない神の美しさ触れれば祟られる神の恐ろしさ、日本人が持つ神の世界観に竹虎は身が竦む。
 鬼を浄化し時雨は流れるように米占に迫っていく。
「浜岡の仇だっ」
 鬼を殺られても米占は逃げない。このままおめおめと組織に逃げ帰れない矜恃に米占は己の力の及ぶ限りの最大の認識を持って放つ。
渦を描いて斑模様に変わる空気の粘度、粘度の違いが屈折率の違いを産み。夕日がぐるぐると回り紅のカレイドスコープの通路を生み出す。
 まさに逢魔が時と言うべき紅い回廊に視覚を狂わされ斑な粘度は平衡感覚を狂わす。
 米占は感覚を狂わされ動きが鈍ったところを、粘度0、抵抗がない世界で最大速で放つ跳び蹴りに賭けていた。
 だが、米占は小出しにし過ぎた。最初からこれを放てば時雨も戸惑ったかも知れないが十分な予備知識を得た今では、無駄だった。
時雨はカレイドスコープの乱反射に彩られ、粘度の違いを利用した無軌道のようでいて現代アートのように美しいダンスで夕日の回廊を跳び回る。却って米占のほうが時雨の動きを捕らえることが出来なくなり、気付いた時には時雨は米占の真横に立っていた。
「終わりだね」
放つは死の一閃、普段の時雨なら人相手に躊躇ったかも知れない。
無残にも日常を奪われた人達の顔、助けられて逆に報酬請求する嫌な奴。こんな所で意味も無く無残に殺されていいはずなかった、たまにならデートくらいはしてあげてもいいから生きていて欲しかった。
もう少し早く着けば、救えた、助けられた。
悲しみと怒りと後悔が心より後から後から湧き上がり、慈悲なんてとっくに押し流された。
残った感情吐き出さなければ気が狂う。
常ならざる心が時雨から甘さを消した。
確実に心臓を剔る一閃。
「えっ」
 時雨の小太刀の一閃が届く寸前、ぶんと回って時雨は地面に叩きつけられた。
「ぐはっ」
「ワーム」
 呼びかけに応じるように地面から腕ほどの太さがあるミミズが飛び出し、ぐるんと時雨に巻き付きつ、ぐるんぐるんと服の下に潜り込み絡みついていく。
「くっ」
 肌をぬめぬめと這い回れる嫌悪感に顔を染めながらも時雨は辛うじて首だけは守ったが、ミミズは強引に時雨の体を締め上げていく。
「なっ何が」
 肉が絞められギシギシと骨が軋む音を聞きながらも時雨は見る。
「あまりボクの部下を虐めないでくれるかな」
 この場に最も相応しくない、不浄を脱ぎさったどこか仏像のように超越した青年だった。
 アルカイク・スマイルを浮かべたギリシャ彫刻のように整った顔に銀髪、どこか俯瞰した先を見る目。白いYシャツに黒のスラックスの上から白茶のコートをラフに羽織っているだけだというのにモデルが歩いてくるようである。
「おっおまえは廻、どうしてここに?」
 時雨は現れた青年のことを知っている。二年ほど前に多数の退魔士達が退治に動いたのに、結局顔写真一枚残すのみで多くの退魔士達と共に行方をくらましたスキンコレクターすら越えるA級魔人。時雨も前埜から写真だけを見せられていた。そして、見かけたら迷わず逃げろと言われていた。
「弱小組織だとトップ自ら動き回らないといけないんで大変なんだよ」
 廻は中小企業の若社長の営業回りのように言う。
「この人達のトップだって、それじゃ」
「ああ、レディーを前に自己紹介がまだだったね。
 僕がシン世廻のトップ、『廻 一』だ」
 廻は時雨に礼儀正しく一礼する、その一礼だけで惚れてしまう理由に十分すぎるほどに美しい。
「廻様、すいません。セクデスを守り切れませんでした」
「まあ、しょうがない。僕もあんなに自信満々だったセクデス氏がこんなにもあっけなくやられるとは思わなかったよ。ヨーロッパから呼び寄せるのに掛かった手間や資金が無駄に終わったと思うと目眩がする」
 くらっと廻はしゃがんで脳漿が噴き出したセクデスを見る。
「狙撃隊を襲撃した後嫌な予感がして来て良かったよ。今ならまだ間に合う、最低限の投資は回収できるかな」
「まさか」
「しばらくの間頼めるかな?」
「命に代えても、廻様の邪魔はさせません」
 決意を固めた表情で米占が向く先にはジャンヌを退避させて戻ってきた矢牛がいた。
 生き残った警官隊は鬼が抑え、時雨はミミズに拘束されている。廻は最期に状況を確認すると深く大きく息を吸う。
「世界は廻る、廻回って世界は一つ。
個と世界に境無く区別なく。
廻る回る世界。
悪も善も無く始まりも終わりも無く、全ては一」
 廻の息は吐き出され世界は廻出す。
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