俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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クイオトコ

第九十三話 根回し1

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 朝一で警察署に来るというのは日頃の行いが良いのか悪いのか。足裏を縫ったばかりの足を引きづり気味に俺は警察署に入る。
朝一だろうかまだ人で混み合っていない中俺は受付に行き、刑事課の工藤を呼び出して貰う。
もう捜査に出たであろうか? 指揮官だから署内にいると思ったのだが、いなかったら仕方が無い署長に話をするしか無い。
大学の講義はさぼることにし、代返を頼んだ。高く付いたが、ユガミの存在を確認したのに悠長に講義に出ている間に犠牲者が出ては寝覚めが悪いし評価も下がる。打てる手は早めに打っていく。その上で犠牲者が出たのなら仕方が無いと割り切れる。
暫し待つこと受付のお姉さんが内線電話を置いてこちらを見る。
「直接、刑事課に来て欲しいそうです」
「そうですか」
「刑事課は二階ですので、そこの階段を使えば直ぐですよ」
「ありがとう」
 受付のお姉さんに礼を言って俺はエレベータに乗り二階に上がった。ちょっとお姉さんに睨まれたが、怪我人なのでご容赦願いたい。

「ここか」
 刑事課と札がある部屋に入ると、中はガランと閑散としていた。管轄でワイドショーを賑わす事件が起きたんだ、ほとんどの刑事は捜査に出かけているのだろう。おかげで工藤がいる席は直ぐに分かった。
「おはようございます。工藤警部補」
 俺は机を向かい合わせ並べた島の先、窓際の席まで行くと俺の方から挨拶をした。
「おはようございます。果無警部。
 それで朝早くからどんなご用でしょうか?」
 俺の階級は忘れてなかったようだ。俺に挨拶されてから挨拶を返すことでホームでは俺より立場が上であること示したかったのかな。
 まあ、目的が果たせるのなら下に見られても別に良い。俺は立ったまま、椅子に座る工藤に話を進めていく。
「申し訳ないが、山尾の足取りを調べるついでに、この男を調べて貰えないでしょうか?」
 俺は昨日警察病院の個室で借りたパソコンで作った、クイを打ち込まれた男のモンタージュ写真を渡す。
「ふむ。この男は何者です?」
「何者かは不明です。ですが山尾の生活圏内とこの男の生活圏は重なるはずです。ですので、山尾を追うついでに調べられると思います」
「それで、この事件と一体何の関係が?」
「関係があるか調べる為に、この男のことが知りたいのです」
 俺の予想では、事件になった男はこの男の前にクイを打ち込まれた男。この男が行方不明になった時期と事件発覚した日が重なれば、今回の事件の原因はクイ男と言ってもいいだろう。だがもし時期がずれていれば、今回の事件とクイ男は無関係の可能性が高くなり俺は偶然不幸にもユガミに襲われただけになる。どのみちクイ男は退治する必要はあるが、事件の調査も続けなければならない。つまり仕事が二倍になる。
「そうですか。
 ちなみにこの男が事件と関係なかった場合はどうなるのですか?」
「そうですね。別の事件として処理するだけです」
 俺はこの男はこの男で事件になっていると匂わすに止める。下手に殺人とか言って追及されても機密上言えないと言うしかなく、頼んでおいてそれは反感を買うことくらい流石の俺でも分かる。
 そこいら辺の機微はこの男は察するだろう。
「まあ、いいでしょう。出払っているうちの者達が昼頃には一旦帰ってきますので、その際に命じておきます」
 工藤は写真をデスクの上に置きながら答える。
「ありがとうございます」
「ですが、協力の見返りは貰えるのですかな」
 これがユガミ案件となれば見返りもクソも無く俺の管轄に成り命令できるが、今はまだグレー。俺に何の権限も無く、これは好意でやって貰う仕事。昨日と違い、実際に人を動かすんだ、見返りを求められても強欲とは言えまい。
「貴方は警官になって何年くらい努めているのですか?」
「いきなりだな」
 質問の意図を探るようにこちらを見てくる工藤は、30半とノンキャリアとしては順調に出世しているほうか。
「大卒として10年以上は努めていると思いますが、その間有耶無耶の内に消えた事件に遭ったことは無いんですか?」
 単なる憶測だが、10年以上も警察を続けていれば説明不要で上からの圧力で事件を潰された経験くらいあるだろう。それがユガミによるものか、有力者の揉み消しなのかは知らないが。
「ん」
 ビンゴって顔をしてくれる工藤。
「今回はこちらから察して来ましたが、あなたがこれからもこういう商売を続けるのならば、いつか普通の人間にはどうにもならない事件に遭うこともあるでしょう。
 そういった時に連絡が取れる相手がいることは保険になりますよ」
 相手が政府の要人やお金持ちの上級国民とかなら俺は全く力に成れないが、とは心の中で言うに止める。
「保険ね。事故らなければいらない訳か」
 警察官をしていて平穏無事に終わるなら、その者はよほど無能かこの世がユートピアになったかのどちらかだ。
「まあいらないのなら、無理にとは言いません」
 ちょいと引いてみるのもテクニック。本当にいらないと言われても別の見返りなんて用意できないけどな。まさか、報酬で金を渡すわけにもいくまい。
「保険の大事さが分からないほど馬鹿じゃ無い。
 それに貴方とはこれからも色々と協力し合いたいからな」
「なら取引成立ですね」
「何が取引成立なんだ」
 横手からの濁声に顔を向ければ、田口がいた。こいつ気配を消して近付くなんて芸当も出来るのか、長年刑事をしているだけのことはある。
「エリートさんと何を話しているんですか、工藤警部補。
 ん? その写真に写っている男は誰ですか?」
 田口は目敏く工藤がデスクの上に置いていたモンタージュ写真を見付ける。
「これは、果無警部が持ってきてくれた情報だ」
「はっエリートさんは昨日の今日で情報入手ですか、それってなんですかインターネットでちょいちょいして集めた情報じゃないでしょうな」
「はあ~」
 俺をエリートと思っていちいち反感を持って粘着されてきては仕事がはかどらない。こういったタイプとは関わらないのが一番なのだろうが、いずれは工藤の影に隠れ続けるわけにもいかなくなる。
どうしたものかと俺は田口の方に向き直った。
「んっ? その足どうかしたのか?」
 やっぱり目敏い。いい捜査管なんだろうが、今はうざい。
「死線を越えた名誉の負傷ですよ」
 下手な誤魔化しは見抜かれ更なる反感を買うので正直に言ってみた。言ってみたが、俺みたいな若造が映画のような台詞を言った所で格好付けのハッタリと失笑されるか。
 まあ笑われれば多少は打ち解けるかも知れないな。
「ちっもういい、協力してやる」
 怒鳴るように言うと田口はデスクの上にあった写真をひったくる。
「この男を調べればいいんだな?」
「そうですが、突然どうしたのですか?」
 あれほどノンキャリアのキャリアへの僻みを露骨に示して俺の足を引っ張ろうとしていたのに、この掌返し。
「命懸けで取って来た情報を無碍に出来るような奴は刑事じゃ無い」
 さっきの台詞、信じたのか? まあ本当のことだが。
「その結果こんな若造のキャリアの指揮下になるかも知れないのですよ」
「それが仕事だ。分かったら報告してやるから連絡先を教えろ」
 妬みで俺を陥れようとすると思えば、浪花節で一転俺の味方になる。
 こういう人間は苦手だ。今は良くなったが、また何かの切っ掛けで悪意に振り切れる。
 感情こそ、人間に潜む悪魔だよ。
その点、利で動く工藤の方が俺にとっては分かり易くストレスが無い。
「では刑事魂に期待させて貰います。何か分かりましたら、ここに連絡下さい」
 俺は名刺を工藤と田口に渡す。
 そこには警視庁 十七課 果無 迫 警部と連絡先が記されている。
 まさか、退魔官と書くわけにもいかず。さりとて上司筋の公安九十九課と書けば、公安に指揮される警官はいい気がしない。
 そこで警視庁 十七課なる所属するは俺一人の組織が急遽作られることになった。大人の世界の政治は本当に奇々怪々の伏魔殿だよ。
「十七課なんて聞いたこと無いぞ。本当なのか?」
 その質問に閃いた。
「そうですね。本当のことは、貴方への報酬としましょう。
 私が貴方に問いかけるその日までに、あなたは昨日までの生活を捨ててもいいか良く考えて置いて下さい。
 ただ世の中には知らない方が良いこともあるということは言っておきます」
 俺は田口の目を覗き込む田口もまた俺の目を覗き込んでくる。
「くっ」
 先に視線を外したのは田口だった。
「冗談じゃ無いことだけは分かった。
 よく考えておく」
 感情の化け物に恐怖という枷を嵌められたようだ。
「では、成果を楽しみにしています」
 こうして俺は仕事を一つ終わらせた。
 そして次の仕事に取りかかる。
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