見捨てられたのは私

梅雨の人

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「ねえ、亮真さん。本当に美味しかったわね。」 

「ああ、義姉さん。それに義姉さんのそんな笑顔が見れてよかったよ。そんなに喜んでもらえるならまた連れて行く。」 

「まあ、亮真さんったら。先週も連れて行ってくれたのにそんなに良くしてもらったら太ってしまうかもしれないわ。」 

「ははは、そんなこと気にしなくていいさ。」 

「嬉しいわ。あのルナ洋菓子店は本当にいつ行っても美味しいわよね。ふふふっ、…亮真さんが私の旦那様だったらよかったのに…あ…」 

「小雪…」 

お二人の会話を盗み聞きする気は全くございませんでしたと口にしたら言い訳にしか聞こえない気がして黙って通り過ぎることにいたしました。 

どうして客間の入り口でこのような会話をするのでしょう。客間の花を活けいた私に逃げ場などなく、気まずい雰囲気の中なぜか私が罪悪感を抱えてしまいます。 

「小雪…」 

白けた気持ちとともに滲んでくる涙は気のせいということに致しましょう。 

頭を下げてそれから二人をよけて部屋を出て行くことが出来ました。

◇◇◇◇
 

「小雪様、夕餉の準備が整いました。」 

タカさんに呼ばれて夕餉の席に向かうと亮真様がいらっしゃいました。 

まだ料理のお箸をつけていらっしゃいません。 

「最近ずっと君との時間をとれていなかったから、たまには一緒に夕餉を君と取ろうかと用意させたんだ。」 

夕餉はいつもより豪華で、サザエやエビをふんだんに使った料理が並べられていました 。

「君の好きなものばかりを用意させた。その…たまにはいいだろう?」 

これは琴葉義姉様の好物ですよ亮真様、とは言いだしにくいなか、いつも私ににこりともしない亮真様が時折ちらちらとこちらに視線をよこしてきます。 

何はともあれ私の為に用意してくださった料理を目の前に箸をすすめます。極力サザエに箸をつけないよう気を付けなければなりません。残念ながら昔発作が出て以来お医者様に食べないように言われているのです。 

そう言えば一度亮真様にそのことをお伝えしたはずなのですが。お忘れになられているのでしょう。 

「小雪、箸があまり進んでいないようだが」 

伺うように訪ねてきた亮真様に内心驚いてしまいました。それほどまでに先ほどの琴葉お義姉様との会話を聞かれたことに思うところがあるのでしょうか。 

なるべくサザエから離れた料理を口にしたはずですのにおそらく盛り付けの段階でサザエと接触していたのでしょう…そう思ったころには視界がグワンと回り始めておりました。 

 ◇◇◇◇

 

気がつけば寝室で寝かされておりました。 

「すまなかった。」 

 亮真様のお言葉を目を閉じたまま聞き流しております。

その言葉になんと返事をしてよいのか分からないのです。

 

数日後に何とか回復いたしましたが、お医者様から無理は禁物とされてしまったのでしばらく寝台の上の住人となってしまいました。 

その間も琴葉お義姉様は毎日のように屋敷を訪れておられるようでしたが、亮真様はいつも私のもとにいらっしゃっております。

今もいつものように、亮真様はじっと私の顔色を窺ってから私の隣に潜って来られました。
恐る恐るといった感じで全身で私を包み込むように抱きしめてくる亮真様を愛おしくも憎らしく感じます。

まるで…まるで私が恋しいというかのように…
そんなはずはない、もう勘違いしてはだめよ、と、白けたもう一人の私が心の奥底で囁いてくるのでした。
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