見捨てられたのは私

梅雨の人

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藤堂の家からこちらにもどってきて、もう何日目なのかさえ見当もつかなくなりました。 

「小雪、目が覚めたのか。お茶にでもにしようか…ああ。疲れているのか。」 

そうおっしゃって、いつものようにそっと私を抱き上げると自らの膝の上に乗せ、子供のように食べさせられます。 

「ほら小雪、今日のデザートは最近新しくできた洋菓子店のものだ。ほら、口を開けて…美味いか?」 

「…ええ、亮真様」 

「そうか…良かった…今度また買ってきてやる。」 

「はい…ありがとうございます。」 

「ああ…」 

亮真様がじっと私を見つめてこられます。 

「小雪…」 

コンコンッ 

「…」 

コンコンッ 

「…」 

「…亮真様?」 

「…ああ…少し待っていてくれ。」 

亮真様が明けた扉の向こう側に人の気配がいたします。 

しばらく感じることのできなかった亮真様以外の人の気配に胸騒ぎがいたします。 

助けを求めに行った方がいいとわかっておりますのに連日言い聞かされるように部屋から出ていない私はなかなかその一歩を踏み出すことが出来ません。 

それでも…ここから出なくてはと本能が訴えかけております。 

本来お慕いしておりました亮真様にここまで執拗に執着されても気持ちは凪いだままでございます。
以前の私でしたら歓喜する気持ちが少しくらい沸いていたのでしょうに… 

とにかく今行かなければとはやる気持ちで寝台からどうにか降りてゆっくりと扉の方へ進みます。
ようやく廊下の手前までたどり着いたときに亮真様と使用人の声が聞こえて参りました。 

「ーーーこの部屋に誰も近づくなと言っただろう。」 

「ええ、しかし琴葉様がどうしても亮真様にお会いになられるまでお帰りにならないとずっとお待ちになっておりまして。」 

「だからどうしたというんだ、待たせておけばいい。心配しなくてもそのうち帰るだろう。」 

「しかし旦那様…」 

「とにかく今私は忙しいんだ。小雪と時間を過ごすために急いで仕事を終わらせてきたんだ。誰にも邪魔はさせない。」 

「…承知いたしました旦那様…」 

「わかってくれてよかったよ。とにかく義姉さんのことはまかせた。」 


「小雪奥様っ…?」 


「っ!小雪…駄目だろうこんなところまで出て来ては。さあ、中に入ろう。」 

「…奥様…」 

「…きゃっ」 

私を抱き上げたまま後ろ手で扉を閉めてしっかりと施錠をされた亮真様に背筋が凍る想いが致します。

まるで何事もなかったかのようにせっせと私の口に先ほどのデザートを口に運んできております亮真様が、何をお考えになっているかなど私には理解できるはずないのでございます。
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