泣き虫エリー

梅雨の人

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それは突然に

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「こら!何やってんだい!」
そういって、エリーを背に庇い、悪ガキに説教を始めたのは、近所のパン屋の女主人マーシャだった。

マーシャの迫力におびえて逃げ出した悪ガキ集団を横目に、エリーはとにかくお礼を言わなきゃと思いなおし頭を下げた。

「マーシャさん、ありがとうございました。」

「エリーちゃん、いいってことだい。気にしなさんな。あんたたちはいっつも母親のルビーの為に頑張ってて偉いよ。でもね、無理すんじゃないよ?何か困ったことがあったらいつでも私に言ってきていいんだからね?ガハハッ!」

そう笑い飛ばした、マーシャにお礼を伝えて配達の途中だったことを思い出してその場を立ち去った。

「姉ちゃん、マーシャさんの迫力すごかったね。あー俺も父ちゃんやマーシャさんみたいに早く強くなりたい。」

「父ちゃんとマーシャみたいにって。ふふふっ頼もしいわね、ダン。頑張って!」
「ああ、姉ちゃん、俺が強くなって姉ちゃんを守ってやるからな!」

その後パンの配達を頻繁に頼まれるようになった兄弟であった…。

「よお、エリー、ダン!エリー俺が持ってやるから貸してごらん。」
「ありがとう、ロニー」

その日もエリーとロニーの二人の周りは砂糖を溶かしてはちみつを混ぜ込んだくらいの甘ったるい雰囲気が漂っていた。

奥手な二人だったが、ロニーが意を決してエリーに気持ちを伝え両思いになったのはつい最近のことだった。

両思いになったからと言って、そこらの恋人同士のように一緒に買い物に行ったりなんてことはできないので、ロニーは時間があればいつもエリーを見つけ出してこうやって時間を共に過ごしていた。

エリーももともと器量がいいし大人びているので、二歳上のロニーの横に並んでも何ら違和感はなくはたから見れば初々しい恋人同士に見えた。

十歳になったダンもそんな時は出来るだけ二人きりにしてやろうと気を使ってやるのだった。

「ねえ、ロニー。周りの付き合ってる子たちがどんな風に時間を一緒に過ごしてるのかわからないけど、いつもこんな形でしか一緒にロニーといられなくてごめんね?」

「エリー、良いよそんなこと気にしなくて。俺がしたくてしてるんだから。それにさ、エリーと一緒にいられるだけですげー嬉しいし。」

その日、ダンが気を利かせてロニーにエリーを家まで送り届けるように頼んでいた。
その日の配達が終わって、ロニーとエリーは小高い丘の上の大木に背を預けて街を染める夕日を眺めていた。

「エリー…」
「ロニー…」

ファーストキスは、エリーの幸せな涙の味がした。



----それから一年後、ロニーは突如この街を去っていった。

必ず戻ってくるから、という言葉を泣きじゃくるエリーに残して…。
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