泣き虫エリー

梅雨の人

文字の大きさ
4 / 11

15歳のエリー

しおりを挟む
幼いころから真面目にパン屋の配達を手伝っていたエリーは、15歳になると正式に店で売り子をまかせられるようになり、すぐに人気の看板娘になった。 

ダンは相変わらず配達やら近所の手伝いで日々駄賃を稼いでいる。

エリーがパン屋の手伝いで以前よりも安定した額を稼げるようになったので、母にせめて働くのは日中だけにしてとお願いし、ようやく夜だけでも家族団らんの時間をすごせるようになった。

三人が日々働いている為、ようやく家計にもわずかだが余裕が出来た。

平民の子供でも通える無料の学園にはたまにしか通えなかったものの、そこで使用される教材を借りることが出来たために、読み書きと計算くらいは二人とも出来るようになっていた。

パン屋のマーシャにはエリーと同い年のショーンという大変内気な男の子がいた。
内気だがいつもなにかと、エリーのことを気にかけてくれる優しい少年で、すぐにエリーと仲良くなった。

父親が亡くなってからこれまで、家の手伝いと家計を助けるのとでいっぱいいっぱいだったエリーに出来た初めての同い年の友達だった。

生活に余裕のないエリーは買い物を楽しんだりもできないし、空いた時間が母の内職の手伝いや、ダンと配達を手伝ったり、勉強したりと忙しく遊ぶ時間なんてものはなかった。

それゆえに、ショーンに仕事の合間に聞く学園の様子や、同年代の子たちの話題になっている話を聞くのは楽しくそして少し羨ましくも感じた。

そんなエリーが店の売り子を始めてから、ショーンは学園が終われば速攻で帰って来て店を手伝うようになった。

マーシャとその旦那ギルは気が付いていた。
内気な一人息子の初恋に。

ゼイゼイ息を切らして学園から全速力で店の手伝いにやってくる息子に一杯の水を差しだすのはエリーの日課となった。
その一杯の水を渡されるだけで、何とも言えないだらしない笑みを浮かべて一気に飲み干し、エリーに礼を言うショーンの耳はいつまでたっても真っ赤になっていた。

「頑張れショーン、内気な我が息子よ!エリーちゃんが嫁に来てくれたら最高だね!いい子だし、店のことだってよくやってくれているし。さっさと好きだって言っちまえばいいのにさ。ああ、じれったいねえ。ショーンの代わりに私がエリーちゃんにつたえてやろうかしらねえ!むふふっ」

「だめだ、だめだ。そりゃあ全然笑えない冗談だぜ。俺だってエリーちゃんが嫁に来てくれたらそれ以上に嬉しいことはねえがな。そこらへんは俺らは黙って見守ってやらなきゃなあ。ショーンの腕の見せ所さ。奴もいつまでも内気だっつって甘えてちゃあしょうがねえんだからな。俺らは黙って奴の成長を見守るしかねえだろ?」

「はぁ、まあ、あんたの言うとおりだねえ。あんたもたまにはいいこと言うもんだねえ!なーんで、こんな私らの息子が内気になっちまったんだろうねえ。ガツン(?)と一言、エリーちゃーん!好きだ―!!っていってみりゃあいいのにねえ、あの子は!」

やきもきしながら息子を応援するマーシャとギルであった。
その頃、母チェルシーが頻繁に体調を崩すようになった。

心配する兄弟に早く診察に行くよう促されていたが、仕事を休むわけにはいかないとなかなか医者に診てもらおうとしなかったチェルシーはついに、仕事先で倒れてしまった。

すぐに医院に担ぎこまれたチェルシーを診た医師に、過労が原因で倒れたと知らされたエリーは、これからはもっと母に楽をしてもらおうと、パン屋が終わってから内職の仕事を増やした。

同じ年の少女のように着飾ることもなく友達と遊びに行くようなこともない姉エリーが、
「父ちゃん…大丈夫、大丈夫…」
と言いながら笑顔でがんばっていることを弟ダンは知っていた。

早く大きくなって、母や姉を楽にさせてやりたいとダンは強く願った。

そんな願いを込めて、これまで以上に頑張っていたダンに母チェルシーはエリーには内緒にしてね、と言ってあるお願いをした。

「ダン、あっという間に本当に大きくなったわね。もう母さんより足も背も大きくなっちゃって。ふふっ。…ねえ、ダン。母さんはダンやエリーがいてくれて毎日本当に幸せよ。いつも力不足な母さんの為に無理させちゃってごめんね。そして本当にありがとう。」

「急になんだよ、母さん。ありがとうって…。そんなの、母さんや姉ちゃんを助けるのは当たり前だ。」

「ふふふっ。亡くなった父さんにダンは本当にそっくりになって来たわね。あのね、ダン。実は母さんもう治らない病気になってしまったみたいで、後半年くらいしか生きられないらしいの…。あっ、母さんは、ダンとエリーを置いて逝くのはそりゃ寂しいけどね。あっちにいる父さんに会えるかなーなんて思ったらちょっと楽しみな気もするのよね。変でしょ?」

「……。」

「ダン、このことはエリーには内緒にしててね。あの子はいつも頑張り過ぎちゃうから、こんなこと知ったらもう倒れちゃうんじゃないかって心配になるの…。ダン、お願いだからエリーの心の支えになってやって。兄弟で支えあって幸せな人生を送ってほしい。これは亡くなった父さんの願いでもあるの。お願いよ?」

涙でぐしゃぐしゃの顔で頷く息子の顔を優しく拭うチェルシーの目からも涙が溢れていた。

その三か月後、母チェルシーは再び倒れその目が再び開かれることはなかった。

突然の母の死に、エリーは深い悲しみに包まれた。
父を失い今度は母までもいなくなってしまったエリーの心は穴がぽっかり空いたままふさがることはなかった。

母の遺言で父の眠る墓の横に母の小さな墓を建てた。

人目をはばからずエリーは墓の前で泣き続けた。
「……大丈夫、大丈夫ってぜんぜん大丈夫じゃないよ……父ちゃんのばか――――っううっ…」

そんなエリーが泣き止むまでダンも涙を流しつつずっとエリーの傍に寄り添った…。

両親をとうとう失ってしまったそんな姉弟をショーンは励まし続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

処理中です...