泣き虫エリー

梅雨の人

文字の大きさ
3 / 11

それは突然に

しおりを挟む
「こら!何やってんだい!」
そういって、エリーを背に庇い、悪ガキに説教を始めたのは、近所のパン屋の女主人マーシャだった。

マーシャの迫力におびえて逃げ出した悪ガキ集団を横目に、エリーはとにかくお礼を言わなきゃと思いなおし頭を下げた。

「マーシャさん、ありがとうございました。」

「エリーちゃん、いいってことだい。気にしなさんな。あんたたちはいっつも母親のルビーの為に頑張ってて偉いよ。でもね、無理すんじゃないよ?何か困ったことがあったらいつでも私に言ってきていいんだからね?ガハハッ!」

そう笑い飛ばした、マーシャにお礼を伝えて配達の途中だったことを思い出してその場を立ち去った。

「姉ちゃん、マーシャさんの迫力すごかったね。あー俺も父ちゃんやマーシャさんみたいに早く強くなりたい。」

「父ちゃんとマーシャみたいにって。ふふふっ頼もしいわね、ダン。頑張って!」
「ああ、姉ちゃん、俺が強くなって姉ちゃんを守ってやるからな!」

その後パンの配達を頻繁に頼まれるようになった兄弟であった…。

「よお、エリー、ダン!エリー俺が持ってやるから貸してごらん。」
「ありがとう、ロニー」

その日もエリーとロニーの二人の周りは砂糖を溶かしてはちみつを混ぜ込んだくらいの甘ったるい雰囲気が漂っていた。

奥手な二人だったが、ロニーが意を決してエリーに気持ちを伝え両思いになったのはつい最近のことだった。

両思いになったからと言って、そこらの恋人同士のように一緒に買い物に行ったりなんてことはできないので、ロニーは時間があればいつもエリーを見つけ出してこうやって時間を共に過ごしていた。

エリーももともと器量がいいし大人びているので、二歳上のロニーの横に並んでも何ら違和感はなくはたから見れば初々しい恋人同士に見えた。

十歳になったダンもそんな時は出来るだけ二人きりにしてやろうと気を使ってやるのだった。

「ねえ、ロニー。周りの付き合ってる子たちがどんな風に時間を一緒に過ごしてるのかわからないけど、いつもこんな形でしか一緒にロニーといられなくてごめんね?」

「エリー、良いよそんなこと気にしなくて。俺がしたくてしてるんだから。それにさ、エリーと一緒にいられるだけですげー嬉しいし。」

その日、ダンが気を利かせてロニーにエリーを家まで送り届けるように頼んでいた。
その日の配達が終わって、ロニーとエリーは小高い丘の上の大木に背を預けて街を染める夕日を眺めていた。

「エリー…」
「ロニー…」

ファーストキスは、エリーの幸せな涙の味がした。



----それから一年後、ロニーは突如この街を去っていった。

必ず戻ってくるから、という言葉を泣きじゃくるエリーに残して…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

私を嫌いな貴方が大好き

六十月菖菊
恋愛
「こんなのが俺の婚約者? ……冗談だろう」  そう言って忌々しげに見下してきた初対面の男に、私は思わず。 「素敵……」 「は?」  うっとりと吐息を漏らして見惚れたのだった。 ◇◆◇  自分を嫌う婚約者を慕う男爵令嬢。婚約者のことが分からなくて空回りする公爵令息。二人の不器用な恋模様を面白おかしく見物する友人が入り混じった、そんな御話。 ◇◆◇  予約投稿です。  なろうさんにて並行投稿中。

政略結婚の指南書

編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】 貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。 母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。 愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。 屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。 惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。 戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい…… ※R15は保険です ※別サイトにも掲載しています

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

処理中です...