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選定の儀
選定の儀(3)
しおりを挟む控えの間は長椅子で談笑する姿もあり、予想外に賑やかだった。
部屋の隅の一人掛けの椅子に腰を下ろすと、近くの会話が耳に飛び込んでくる。
「やっぱり国王陛下に選ばれるのが一番いいのかしら。陛下もまだ三十才になられたばかりでしょう?」
「でも、陛下はすでに何人も妃妾がおられるのでしょう? 僕は、できるだけオメガの妃妾が少ない殿下のところがいいな。妾同士で発情期が重なってしまったら、主の取り合いになるもの」
「成人された王族で妃妾を迎えておられないのは、第三王弟殿下だけだそうよ。でも、第三王弟殿下は毎年、選定の儀にお出にならなくて、オメガ嫌いで有名よ。それにお母様がリゼル側妃でしょう?」
「リゼル側妃と言えば、身内に謀反の疑いをかけられた方よね。食事も取らずに陛下の部屋のバルコニーから見える石畳に跪いて、無実を訴えられていたそうね」
「それが原因でお体を壊されて、若くして亡くなられたそうよ。第三王弟殿下が騎士になられたのも、そのことで王家に嫌気が差したからだと聞いたことがあるわ」
会話を聞き流しながら、上目遣いでこっそり周囲を窺う。
皆、平民とは思えないほど装いも華やかに、艶やかな長い髪を金や緋、銀灰色にきらめかせていた。透き通った白磁の肌には高く整った小鼻や紅を引いた魅惑的な唇、宝石のような輝きを放つ瞳が完璧に配置されている。
王族の誰かに見染められたらなんてよく思えたもんだと、早くも気後れしてしまう。
ユリウスは生まれてからこの方、ほとんど屋敷の敷地を出たことがない。家の周りには広大な山野や畑が広がっていて、勉強は姉弟たちと一緒に住みこみの家庭教師に習っていた。
そのため、家族や使用人以外の人と出会う機会がなかったが、自分の容姿には根拠のない自信を持っていた。
家族の全員が、ユリウスのことを可愛い可愛いと褒めてくれていたからだ。
大人になった今では、容姿以外に褒めるところがなかったのだろうと、客観的に考えられるようになったけれども。
ゆるやかに波を描く金色の髪とつぶらなアイスブルーの瞳は、家族の誰とも似ていない。顔の輪郭も小鼻も唇も全て小作りで、せめて髪型だけでも男らしくなればと騎士のように短く切り揃えてみても、男らしさよりも幼さが増すばかりだった。
父とは似たところが一つもないから、顔立ちは亡くなった母に似たのだろう。
しかし、ここに来て本物の美男美女たちを目の当たりにすると、一般的に「容姿がいい」と言われるオメガの中で、自分が最下層にいる現実を突きつけられる。ユリウスと他のオメガたちとでは、道端に咲く名もなき野花と、宮廷の花壇で丹精込めて育てられた薔薇やシクラメンくらいの違いがあった。
選定の儀で王族に選ばれなかったオメガは、功のあった臣下に褒賞として下賜されることになるという。
この際、王族に嫁ぎたいなんて贅沢は言わない。下賜される相手が暴力を振るわない優しい人であることを願うばかりであった。
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