売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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過保護な主

過保護な主(3)

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 第一王弟殿下の御者に鞭で打たれたあと、駆けつけた騎士に名前と住まいを尋ねられたことはなんとなく覚えている。まだ都の地理を把握していないユリウスは、自分の名前と、ラインハルト殿下の屋敷で働いていることだけ伝えた。
 何か他にもいくつか尋ねられた気がするが、痛みに耐えるのに必死で、あまりよく覚えていない。
 その後、騎士は馬に乗せて屋敷まで送ってくれた。

 あまり事を荒立てたくはなかったが、そうもいかなかった。
 午睡から目覚めたワーグナー夫妻は、ユリウスがいなくなっていることに気づき、ラインハルトのいる騎士団の兵営まで知らせに行くかどうか二人で頭を悩ませていたそうだ。そこに、騎士に送られてユリウスが帰って来た。二人はユリウスの無事を喜び、そして鞭で打たれた話を聞き、再び兵営まで駆け出しそうな勢いだった。

 ラインハルトには帰宅後に報告するようどうにか説き伏せたが、医者を呼ぶことについては、ユリウスの遠慮を聞き入れてくれなかった。
 たかが鞭で二回打たれたくらいで医者を呼ぶなど大袈裟だと思っていたが、軟膏を塗ってもらい、痛み止めの薬を飲むと、多少は痛みが楽になった。熱も出ていて、それによる体のだるさもあり、起き上がれずに俯せのまま横になっているうちに、いつのまにか意識を手離していた。

 次に目を覚ましたとき、目の前のシーツは西日を映していた。
 意識が浮上するとともに背中のズキズキとした痛みを自覚し、思わず「うっ」と顔を顰める。全身が熱く、ひどく喉が渇いていた。

「ユーリ、目覚めたか?」

 ふいに頭上に影が差す。
 俯せで顔だけ横に向けていたユリウスは、目の端でその人物を捉え、慌てて体を起こそうとした。

「ライニ様!?」
「起きるな。そのままでよい」

 ベッド横の椅子に腰かけ、こちらを覗き込むラインハルトに、浮かせかけた肩を軽く押し返される。
 気遣いの言葉とは裏腹に、その険しい表情からは普段はない不穏な気配が感じ取れた。怒っていることは、なんとなくわかる。

 使用人なのに、あるじの許可も得ず、市民街へ出かけた。その上、街で騒ぎを起こし、鞭で二回打たれただけで寝込み、医者まで呼んでもらった。さらに屋敷の使用人が騎士に馬で送ってもらったことで、騎士団で部隊長をしている彼の顔を潰したかもしれない。
 ラインハルトが怒る理由は、いくらでも考えられた。

「申し訳ありません……」
「お前が謝る必要はない。ただ、一人で市民街に行ったことだけは、二度と許さぬ」
「あの……二度とこのようなことがないようにするので、もうしばらくここに置いてもらえませんか?」

 ラインハルトの眉間の皺が一度わずかに緩み、すぐにまた、不機嫌そうに顰められる。

「なぜそのようなことを尋ねる? 一人で市民街に行ったことで、お前を追い出すとでも思ったのか?」
「あ、いや、そういうわけでは……。でも、今のところ、ご迷惑をかけるばかりで何の役にも立っておりませんので……」
「役に立ってほしくて、お前に来てもらったわけではない」

 確かに、彼は陛下の命令でユリウスを預かっただけた。ユリウス一人が、従僕として役に立ちたくて、余計なことをして空回りしているだけ。

「今、少し話をしてもよいか?」

 喉が渇いていたが、それを口には出せず、ユリウスは「大丈夫です」と返事をした。


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