売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

文字の大きさ
31 / 83
従僕を解雇されました

従僕を解雇されました(3)

しおりを挟む



 翌日になってトマスから聞いたところによると、第五騎士団の副団長が少し前から行方不明になっていたらしい。その穴を埋めるためにラインハルトが昇格し、急遽、辞令が出されたようだった。昇格の話をしたときの彼の浮かない表情も、この件が影響していたのかもしれない。
 一晩寝ずに考え、ユリウスは「都に残ります」と返事をした。
 ラインハルトは「そうか」と言ったきりしばらく何も言わなかった。

「都に帰って来たときは、顔を見に行く」

 言葉を選ぶようにそう言ってくれたが、目を合わせることもないそのそっけなさから、エイギルの家に顔を出すついでにユリウスの顔も見るという意味だろうと解釈した。
 ユリウスがラインハルトの従兄の義弟でなければ、彼との縁はここで切れてしまっていたような。そんな寂しさを覚えた。
 ただ、自分がどうしたいかは、既に心が決まっている。

 ラインハルトが北方へと旅立ったのは、それから五日後のことだ。
 出立の日。ユリウスはワーグナー夫妻と共に家の門まで見送りに出た。
 彼は、黒毛馬のニゲルだけ連れていた。白毛のアルバはユリウスが譲り受けることになっている。

 エイギルの家にも厩舎がある。そこで飼ったらいいと言われて、ユリウスにとっても馬が必要だったため、ありがたく頂戴することにした。
 ラインハルトがギルベルトとエレナに抱擁するのを見たのは初めてだった。彼の両親はすでに亡くなっており、二人は親代わりのような存在だったのだろう。
 最後にユリウスにハグをすると、額にキスをしてくれた。別れを惜しんでいると勘違いしてしまいそうな、強すぎる抱擁と優しいキスだった。

 いつものようにラインハルトがユリウスの頭をくしゃりと一撫でし、体を離した瞬間――、必死に堪えていたものが零れ落ちそうになった。
 でも、泣いたら気持ちを悟られてしまう。
 だから必死に無表情を保ち、無事を祈っていることだけ伝えて、ラインハルトを送り出した。

 ユリウスが食いしばっていた歯を緩め、自分に泣くことを許したのは、嗚咽が聞こえないくらい彼の後ろ姿が遠ざかってからだ。

「何か理由があるのです。でなければ。ライニ様がユーリ様を傍に置きたがらないはずがありません」

 エレナはそう言って、慰めてくれた。
 そんなふうに言ってくれるということは、エレナはまだ、ラインハルトの婿入りの噂を知らないのだろう。王弟という微妙な立場にあるあるじが、強力な後ろ盾と美しい伴侶を同時に得られるのだ。きっとその噂は、親代わりの二人にとって、嬉しい噂に違いない。
 ラインハルトとの縁が切れれば、ワーグナー夫妻との縁も切れる。そのこともまた、無性に寂しかった。

 嗚咽が落ち着いたところで目元を拭い、ユリウスは顔を上げた。

「じゃあ、僕もそろそろ姉様のところに行きます。二人ともお元気で」

 これからは息子のところに身を寄せ、商売の手伝いをするという二人に挨拶をし、ユリウスも白馬アルバを連れて、主のいなくなった家を後にした。

 その足で姉の家を訪ねたのは、これからそこで暮らすためではない。
 エイギルに頼みたいことがあったのと、姉の家族に別れの挨拶をするためだった。
 姉には、本当のことを言えば猛反対されることがわかっているので、故郷に帰ることにしたと嘘をついた。故郷の両親には、これからしようと思っていることを正直に手紙に書いて、昨日のうちに送っている。
 手紙が着くころにはユリウスは目的の場所に着いているはずだから、今さら反対しても無駄だと諦めてくれるだろう。

 姉の家に一泊し、翌朝、エイギルやローザや子供たちに別れの挨拶をすると、ユリウスはアルバに跨り、一人で都を出た。
 目指すは、ウェルナー辺境伯領。
 従僕として必要とされないなら、せめて騎士団の使用人として、ラインハルトの近くで働き、彼が生涯の伴侶を得て幸せになった姿を見届けようと心に決めていた。
 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

処理中です...