売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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従僕を解雇されました

従僕を解雇されました(4)

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 ウェルナー家は王国でも有数の名家で、北方に広がる広大な領地を治めている。その領地は隣国ケースダルム王国と国境を接しており、建国以来、代々北の防衛を一手に担ってきた。
 ユリウスの故郷であるカッシーラー辺境伯領は、その広大なウェルナー辺境伯領の西に隣接しており、馬があれば一日で故郷に帰り着くことができる。その距離の近さも、ユリウスの決断を後押ししていた。
 使用人として働く上で一番の不安は発情期ヒートのことで、予兆を感じた時点で何か理由を作って一週間ほど休みをもらえば、故郷に帰ってやり過ごすことができる気がする。

 都からウェルナー辺境伯領へと続く街道は、北の国々との交易路として整備され、街や大きな村が点在している。行き交う人々や荷馬車が絶えず、行商人や旅人たちが集う宿や食堂からは賑やかな呼び込みの声が響いていた。人通りが多いため、追いはぎに遭う心配もない。
 北に進むにつれ、徐々に陽射しが和らぎ風も涼しくなっていく。晴天下で馬の背に揺られるのも苦ではなくなった。
 すれ違う旅人が交わす他愛ない会話や、宿屋から漂う香ばしい料理の匂い。遠くの牧草地に広がる羊の群れ。
 都に来るときも、目にしていた光景のはずなのに、選定の儀のことが心に重くのしかかり、景色を楽しむ心の余裕はなかった。そのため、今は目にするものの全てが新鮮に思えた。

 昼間は色んなものに興味を引かれ、初めての一人旅をそれなりに楽しんでいたが、夜になると途端に心細くなる。
 都へ来たときに通った道なので、同じ宿に泊まった。それでも、最初は緊張で寝つきが悪かった。こっそり拝借してきたラインハルトの衣を抱きしめて眠っているうちに、いつのまにか眠りについていた。
 カッシーラー辺境伯領への分かれ道を過ぎてからは、馴染みのない場所を旅することになる。
 泊まった宿で旅人や宿のおかみに、次に立ち寄る街にある信用のおける宿を訊ね、教えてもらった宿に泊まるようにしていた。
 そのお陰もあってか、ならず者に絡まれることもなく、六日かけて、隣国ケースダルム王国との国境近くにある、ウェルナー城に辿り着いた。

 険しい山脈を背に山の中腹に築かれた、壮大な石造りの城だった。山を登る道は整備されているものの、こんな険しい場所にどうやってこの規模の城を築いたのだろうと、度肝を抜かれた。
 同じ『城』でも、豪華絢爛な王宮と比べたら、こちらは『要塞』という言葉がしっくりくる。この地が北の防衛の要であることを、改めて実感した。

 軍営と聞き、移動用の天幕テントが並んだ光景を勝手に想像していたのだが、宿のおかみに聞いたところによると、このウェルナー城の一部が辺境伯軍と第五騎士団の軍営になっているのだそうだ。
 城をぐるりと囲む高い城壁の手前で馬から降り、門番に通行証を見せて、堅牢な城門をくぐる。指示された城の西側に馬を引いて進むと、中庭や馬小屋、兵士や使用人の宿舎と思われる木造の建物を通り過ぎ、やがて剣がぶつかり合う金属音や、兵士たちの掛け声、馬のいななきがが聞こえてきた。

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