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従僕を解雇されました
従僕を解雇されました(6)
しおりを挟む馬を厩舎に預け、向かった先の城内の執務室で、従僕長は帳簿を見ているところだった。
白髪の混じる髪と整えられた口髭を持つ初老の男は、ユリウスたちに値踏みするような視線を向けてくる。
目の奥に宿るのは計算高そうな冷たい光で、わずかに吊り上がった口元からは、隠しようのない酷薄さがにじみ出ていた。
生地のよさそうな、黒い詰襟の上着を身につけていて、その袖口や襟元には金の釦や金糸の刺繍が施されており、一見して高そうなものだとわかる。
騎士団の従僕長は、それなりに給金がいいのだろうか……。
アルミンに次いでユリウスも挨拶をし、持参した紹介状を差し出すと、従僕長は息を呑んだ様子で、手紙とユリウスの顔の間で何度か視線を往復させた。
「ガイトナー公爵のご紹介ですか……。それに、ガイトナー公爵の義理の弟君で伯爵家のご子息……」
「あ、あの……、伯爵家といっても、僕は庶子なので、平民です」
ユリウスは慌てて言い添えた。
いきなり行って雇ってもらえるものではないだろうと思っていたから、エイギルに頼んで、身元を保証する紹介状を書いてもらっていた。
働き口を言わなければ書かないと言われたので、姉やラインハルトには内緒にしてもらう約束を強引に取りつけ、第五騎士団に行くことをエイギルにだけは伝えている。
「なぜ貴族のお坊ちゃまが騎士団の使用人に?」
その質問は想定の範囲内だったので、あらかじめ答えを用意してあった。
「生まれは貴族でも僕は平民なので、ここに来る前は都の貴族の家で使用人として働いていました。主が都を離れることになり、働き口が無くなったので、次は郷里からも程近いこちらで働かせてもらいたいと思った次第です」
「なるほど。そうでしたか……」
従僕長は、上辺だけ納得したような顔で頷いた。
「新しく来た副団長が王弟殿下なので、私のほうでも、それにふさわしい家柄のよい従僕を探していたところです。ちょうどよかった。あなたなら、うってつけです!」
「……へ? い、いや、ちょちょちょちょっと待ってください!」
あまりの予想外の展開に、ユリウスの声が裏返った。
なんでいきなりそんな話になるんだ?
このままだと、副団長付きの従僕にさせられてしまう。というか、身の回りの世話は近侍の兵がするんじゃなかったのか!?
急に頭が混乱してきたが、この話を早急に断らなければならないことだけははっきりと分かる。
その副団長本人から侍従を解雇された身だと正直に言えば、解雇されたくせに追いかけてきた未練がましさに気づかれてしまうかもしれない。他の理由を考えるしかなかった。
「僕が言うのもなんですが、来たばかりの使用人を副団長付きにするのはあまりにも危機感がなさすぎるのではないでしょうか? 例えば、僕が副団長の命を狙う刺客で、紹介状も偽装したものだったらどうするんですか!?」
隣から、ぷっ、という破裂音が聞こえてくる。
「君が刺客なんて、どう見ても無理があるよ。俺でも勝てそうだ」
よほど可笑しかったのか、アルミンが肩を震わせて笑っていた。
「でもほら。力がなくても、毒殺って方法もあるだろう?」
喋りつつ、なぜ僕は、必死に自ら刺客かもしれないアピールをしているのだろうと思わなくもない。
「でも、殿下とも面識がおありなんですよね? ガイトナー公爵とラインハルト殿下は従兄弟だそうですね。殿下とイェーガー様も親しい仲で、イェーガー様の身に何かあれば殿下の逆鱗に触れることになるから、ゆめゆめ扱いには気をつけるようにと書いてあります」
ちょっと、エイギル様。何を書いてくれてるんだー! と叫びたい気持ちだった。
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