売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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第5騎士団

第5騎士団(4)

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 扉をノックして声をかける。「入りたまえ」と低く通る声が聞こえてきて、おそるおそる重い扉を押し開けた。
 足を踏み入れながら、ユリウスは部屋の隅々にまでさっと目を走らせた。中にいたのが団長らしき人物一人だけであることに、ホッと安堵の吐息を吐く。
 従僕長の執務室の十倍ほどありそうな、広々とした部屋だった。 
 石造りの壁には、鎧や鹿の角、熊の毛皮が飾られている。執務机の上には枝付き燭台が置かれ、左右の壁にも壁架けの燭台が並んでいるため、室内は柔らかな光で満たされていた。冷えた空気にほのかな蝋の匂いが漂う。
 応接室も兼ねているのか、重厚な木製のテーブルと椅子、それに長椅子ソファまで揃っていた。

 執務机で何か書き物をしていたらしい騎士団長は、すぐに腰を上げ、机を回り込んでユリウスを迎えてくれた。
 すらりと背が高く、くせのない金色の長髪を後ろで一つに束ねた髪型は、『騎士』よりも『文官』と言われたほうがしっくりくる。一般の騎士たちとは異なる深紅の騎士服は、襟元や袖口には金や銀の刺繍が施され、肩には階級を示す飾り紐と肩章エポレットが付けられていて、見るからに華やかだった。
 涼やかな碧眼は目尻が吊り上がり気味で冷たい印象を受けるものの、顔立ちは整っている。秀でた容姿や、醸し出される堂々たる気配オーラから、アルファだろうと思った。
 ただ、同じアルファの騎士でも、ラインハルトに初めて会ったときのような威圧感は感じない。お陰であのときほどには委縮せずにすんだ。

「使用人のユリウス・イェーガーです」

 ユリウスは入ってすぐに跪き、恭しく挨拶をした。

「あぁ。わざわざ呼び出してすまなかった。そこにかけてくれ」

 ぎこちない動きで立ち上がり、指定された椅子に腰を下ろす。団長も、テーブルを挟んだ向かいの椅子に腰かけ、指先を軽く組んだ。優雅な所作に隙のなさを感じるのは、やはり騎士だからだろう。
 居心地の悪さに身を縮こませながら、ユリウスは上目づかいでそっと団長の表情を窺った。
 同じように鋭い眼差しでも、ラインハルトが肉食獣の獰猛さを彷彿とさせるのに対し、騎士団長からは抜け目のなさが感じられる。例えるなら、狼と狐といったところか。

 第五騎士団団長のディートリヒ・コフマンは、帝国領の近郊に領地を持つ子爵家の三男だそうだ。副団長であるラインハルトより六つ年上の二十八才。子爵家の三男でありながらその年で騎士団長にまで昇りつめているということは、かなりの「やり手」らしい。
 というのは、夕食中にアルミンが教えてくれた情報だ。アルミンは地元出身の上、誰とでもすぐに打ち解ける気さくな性格なので、軍営内のことも城の外のことも、何でも詳しい。

「君はガイトナー公爵の義理の弟だそうだね」

 団長が形の良い薄い唇に微笑を浮かべる。
 呼び出された理由がわからず身構えているせいか。口元は笑っているのに目は笑っていなさそうな、そんな酷薄な笑みに思えてしまう。

「はい……。姉がガイトナー公爵に嫁いだので、義理の兄になりました」
「うちの副団長とも親しい仲だそうだね」

 その質問には、すぐには答えられなかった。
 ラインハルトに使用人として仕えていたことをご存知なのかと考えて、エイギルの紹介状のことを思い出した。『殿下とイェーガー様も親しい仲と紹介状に書いてある』と従僕長が言っていた。おそらく従僕長からその話を聞いたのだろう。
 直感で、ラインハルトに仕えていたことについては、伏せておいた方がよさそうだと判断した。

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