売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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王弟騎士の思い人

王弟騎士の思い人(5)

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「ユーリ。君に手紙が来てたよ」

 昼休憩中に先に休憩に入っていたアルミンにそう言って手紙を手渡されたのは、庭園でラインハルトと遭遇してから一週間ほどのことだった。

 早急に故郷に帰らなければいけないことはわかっている。
 ラインハルトと遭遇した翌日には見知らぬ騎士から呼び出され、いつ故郷へ帰るのかと問われた。その騎士は、ユリウスが故郷へ帰る際に護衛として送り届ける任務をラインハルトから命じられたという。
 一人で帰れると断ったが、任務を果たさねば除隊させられると言われれば、頑なに突っぱねるわけにもいかない。
 「では、帰郷の予定が決まったら、お声をかけます」と言って、それまでの間は騎士団の任務に戻ってもらうことにした。

 しかし、毎日の忙しさと使用人の仕事量の多さを思うと、かわりの人がいないのに働き出して早々にやめますと言うのは心苦しく、ずるずると予定を先延ばししているうちに1週間が経ってしまった。

「もしかして、都にいい人でもいるのかい?」

 手紙を渡すとき、やけに意味深な笑みを浮かべていると思ったら、アルミンはそんなことを考えていたらしい。

「そんなんじゃないよ。同郷の友人が都の貴族の屋敷で働いているんだ」

 見慣れた羊皮紙にチラリと視線を落とし、ユリウスはそう返した。

 アルミンが仕事に戻ったあと、ユリウスは周りに人がいないのを確認して手紙の封を解いた。案の定、差出人は、いつも陛下への密書の宛て先に使っていた貴族の使用人――すなわち、陛下からのものだった。

 陛下には都を経つ前に、第五騎士団の使用人になるためにウェルナー辺境伯に行くつもりであることを知らせていた。今回の手紙はその返事だった。

『親愛なるユーリへ。
 変わりなく過ごしているかい?』

 同郷の友人を装った手紙は、いつも通りのそんな文面で始まっていた。
 ウェルナー辺境伯に行くと聞いて驚いたことや慣れぬ土地で働くことを心配する内容が書かれており、最後にこう書かれていた。

『兵営のようなむさくるしいところで働くことは、君のように育ちのいい人間には無理がある。できれば今すぐそこを離れて、しばらく故郷でのんびり過ごしてくれ。
        ――君の親友 オズより』 

 オズというのは、オズヴァルド七世という陛下の名前から一部を取ったものだ。
 陛下はユリウスがラインハルトを追ってウェルナー辺境伯領にまで行くとは思っていなかったようだ。そこまでして、ラインハルトの動向を報告する必要はないという意味だろうか……。

 ラインハルトだけでなく、フリッツや陛下にまで、「故郷へ帰れ」と言われているという事実に、更に気分が重くなった。
 少しでもラインハルトの役に立ちたかったこと、兵士たちの皮膚病を治療し、喜ばれてやりがいを感じていたことまで、「余計なこと」と切り捨てられたように思えてくる。

 あの日以来、ラインハルトが食堂にも姿を見せなくなったことも、ユリウスの気持ちに追い打ちをかけていた。
 騎士団長のように部屋に食事を運ばせているわけでもないから、もしかしたら別のところで食べているのかもしれない。別のところ――と考えて浮かんでくるのはカレンの顔で、それ以上理由を考えるのはやめた。

 近々、お城で舞踏会がある。それに向けて城中の人が忙しくしている時期なので、今辞めるのは忍びない。舞踏会とその後片付けが終わったところで辞めるほうがいいだろう。
 急ぎ辞める意志を伝えておかないと、また決心が揺らいでしまいそうな気がした。
 
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