売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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王弟騎士の思い人

王弟騎士の思い人(6)

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 ユリウスはスープに浸したパンをかきこんで昼食を終え、従僕長の執務室を訪ねた。
 部屋をノックし、中から声がかかるのを待って、扉を開ける。

「従僕長。少しご相談したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「半時後に騎士団長が来る予定だが、それまでなら大丈夫だ。すぐにすむ話か?」
「ありがとうございます。お時間はいただきません」

 足を踏み入れたユリウスは、その足先の床に小さな草の葉が落ちているのを認めた。見覚えがあったため、なんとなく気になってポケットへと入れる。

「ん? どうした?」
「いえ。埃が落ちていただけです」
「そうか。今日は来客の予定があって、掃除を断っていたからな」

 『葉』ではなく『埃』と説明したのは咄嗟の判断だったが、書類仕事しかしないはずの従僕長の執務室に草の葉が落ちていることに違和感を覚えたのだろうと、自分の無意識の行動に遅れて理由をつけた。

「それで、相談とは何だね?」
「実は……、」

 と話を切り出したとき。背後の扉が勢いよく開く音がした。

「例のものは準備できたか? ……と、来客中か」

 ノックもせずに喋りながら入ってきたのは、騎士団長だった。

「も、申し訳ありません」

 ユリウスは慌てて、ぺこりと頭を下げる。

「半時後にいらっしゃる予定では……」

 驚いたのはユリウスだけではなかったようで、従僕長が戸惑いの声を漏らした。

「気が急いて待ちきれなくてな。急ぎの仕事を片付けて飛んできた」
「あの……、僕のほうは特に急ぎの要件ではないので、また改めて出直します」
「よいのか? 悪いな」

 言葉とは裏腹に、騎士団長の表情に悪びれた様子はない。
 最初の印象は騎士よりも文官に近く、上品で理知的な人に思えたが、何かに集中すると周りが見えなくなるタイプなのかもしれない。

「では、失礼します」

 改めて二人に一礼し、扉を閉める。立ち去りかけて、ユリウスはすぐに足を止めた。
 何かを楽しみにしている様子の騎士団長の態度が気になって、今しがた部屋で拾った葉のことをふと思い出したのだ。ポケットからそれを取り出し、掌に載せてみる。一枚の葉に深い切れ込みが二か所あり、羽のような形をしていた。

 ……これは……、ウッド・アネモネか……?

 故郷の山で、雪解け後の早春に白い花を咲かせ、『春の始まりの花』と言われているウッド・アネモネの葉によく似ている。
 ただ、似たような葉を持つ植物は他にもあって……。
 その葉を掌で揉み潰してみると、ツンと鼻をつくような刺激的な匂いがした。

 ……ちがう……これは……、アコニツムだ!

 花を見れば両者は間違いようがないが、葉だけで言えばウッド・アネモネとアコニツムはよく似ている。
 アコニツムは痛みを和らげる効果があるとされていて、薬草の本では湿布や軟膏としての利用法が紹介されている。ただし、毒があるため決して口にすることはできない。逆に、古くから毒薬として利用されてきた歴史がある。
 故郷で、花が咲く前の時期にウッド・アネモネとアコニツムを見分けたいときは、こうして葉を揉み潰して匂いを確認していた。
 ウッド・アネモネの場合は、揉み潰しても特に強い匂いはしない。

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