44 / 83
辺境伯軍
辺境伯軍(4)
しおりを挟むすっかり酔いの抜けた三人から謝罪を受けたのは、彼らに絡まれた翌日のことだった。
昼食時、最後の組が食事を終えたところで、フリッツが厨房にいたユリウスに声をかけてきた。
彼の後をついて食堂の外に出ると、一様に神妙な顔をした三人の兵士が立っていて、昨夜の兵士たちだとすぐに察しがついた。
同じように左の頬に痣があるのは、もしかしたらフリッツに殴られたのかもしれない。
三人はユリウスの姿を認めると、一斉に片膝をついた。たじろぐユリウスをよそに、右手を胸に当てて深々と頭を下げ、代わる代わる謝罪の言葉を口にする。
その声には聞き覚えがあったから、確かに昨夜の男たちのようだ。
「謝罪を受け入れますので、頭を上げてください。誰に対しても、あのようなことを二度としないと約束してくだされば、それでよいです」
おずおずと頭を上げた三人のうち、一番年かさの男が口を開いた。
「せっかくの休息日なのに、街に繰り出したら、娼館に入るのを断られたんだ。ついむしゃくしゃして飲みすぎてしまった。そこにあんたみたいな見目のいいのが通りがかったから、つい箍が外れてしまって……。本当に申し訳なかった。あのようなことは誰に対しても二度としないと、神に誓う」
助けを求めるように隣にいたフリッツをちらりと見上げると、フリッツが「立ってよい」と声をかけ、三人が腰を上げた。
屈強な兵士たちに囲まれ、再び無意識に体が身構えてしまう。
早々に話を終えて厨房に引っ込みたかったが、一つ気になることもあった。
「あの……、なぜ、娼館に断られたのですか?」
一度も足を運んだことのない場所でも、娼館が何をするところかは知っている。
もし、断られたのが彼らだけでないのなら、同じように鬱憤を抱えた兵士が大勢いることになる。それは軍営を管理する上で、あまりよくないことのように思えた。
原因によっては、上層部の耳に入れるべき話かもしれない。
三人は困ったように顔を見合わせ、最後はフリッツに助けを仰いだ。
フリッツがぽりぽりと人差し指でこめかみを掻く。
「今……、兵舎に皮膚病が流行っているんだ。皮膚病持ちは娼館では断られるからな。騎士団が来て、騎士たちに二人で一室があてがわれたせいで、辺境伯軍の兵はもともと六人で使っていた部屋を今は十人で使っている。ぎゅうぎゅう詰めだから、一人が病気になればその部屋は全滅だ」
ユリウスは唖然とした。
十人で一部屋を使うのは使用人部屋でも同様だが。彼らは兵士だ。一人一人が体格がいいし、汗もかく。それに、ろくに手足も伸ばせない状況では、訓練の疲れも取れないのではないだろうか。
何より、一人が病にかかって部屋全員が全滅しているようなら、流行り病が一気に蔓延し、いざ戦が起きたときに戦えない兵士が続出するような事態が起こりかねない。
三人は痒みを思い出したかのように、露出している肘や腕、首筋を掻き始めた。
言われてみれば、確かに皮膚の一部が赤く盛り上がっていて、皮膚病のようだ。
フリッツにそれがないのは、部隊長の彼は騎士と同じ二人部屋だからだろう。
「軍団長には何とかしてほしいと言ってあるんだが、騎士団長の言いなりだからな。期待するだけ無駄だ」
王都から派遣された騎士団と辺境伯の私兵である辺境伯軍は、人数で言えば五十人と百五十人で辺境伯軍が圧倒的に多い。だが、両者を合わせた国境警備軍の総指揮官は騎士団長だ。そのため、辺境伯軍の軍団長ですら騎士団長には頭が上がらないことは、容易に想像できる。騎士は全員、最低でも平民より身分が上であることも、両者の力関係に影響しているのだろう。
兵士が全員食事を済ませたら、使用人も食事にありつける。
ユリウスはアルミンにだけ事情を説明し、昼食抜きで城内を散策することにした。
ヨモギでも見つかれば、煮出し液で患部を洗ったり、すり潰して塗り薬を作ることもできる。
フリッツからラインハルトに相談を持ち掛けてもらえれば、何らかの対応策を考えてくれそうな気はするが、彼と知り合いであることを人に知られたくない。辺境伯軍の問題にラインハルトが介入することで、彼に対する騎士団長の心証を悪くしないか心配でもある。
まずは自分にできることからと考えると、薬草くらいしか思いつかなかった。
838
あなたにおすすめの小説
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる