57 / 83
舞踏会の夜に
舞踏会の夜に(3)
しおりを挟む廊下に出ると、急に空気が冷たくなる。壁掛けの燭台が等間隔に点在する薄暗い廊下を、小走りに近い速さで足を動かす。
二人が向かったのは辺境伯の私室かラインハルトの私室か――ユリウスは前者だと踏んでいた。ラインハルトの私室は城の出口に近く、暗殺を失敗した場合に外に逃げられやすい。
ひとまず辺境伯の私室を目指したが、昼間に場所を確認しているといっても、薄暗い中では似たような廊下や部屋の扉の見分けがつかず、だんだん自信がなくなっていく。
そんなとき、嗅ぎ慣れた匂いが鼻腔を掠めた。
――これ……薬草の匂い……。
都にいたとき、湯浴みをする際に湯に混ぜていた薬草の香りが微かに廊下に漂っていた。ラインハルトも香りを気に入ってくれていた。
それがラインハルトの残り香であることを信じ、香りを辿ることで、昼間訪れたウェルナー辺境伯の私室へと辿り着くことができた。
扉に耳を押し当てると、中から声がした。
声がするということは、辺境伯はまだ毒を飲んでいないということだ。
ひとまずホッと胸を撫でおろす。
「お考え直しください。今ならまだ間に合います。陛下も、協力を拒むのなら辺境伯の罪は問わないと仰っておいでです」
聞こえてきたのはラインハルトの声で、ユリウスは思わず、「え?」と声を漏らしそうになった。
どういうことだ――?
明らかにラインハルトが辺境伯を説得しているような声色だ。罪を犯そうとしているのは辺境伯のほうで、それを陛下もご存知?
耳にした情報を整理できないでいると、廊下の奥のほうから足音が聞こえてきた。
ユリウスは慌てて忍び足で逆方向へと向かい、廊下の曲がり角に身を潜めた。
暗がりから現れたのは、女中だった。カップや酒瓶の載ったトレイを手にしている。
遠いし暗いしで顔ははっきりとは見えなかったが、おそらく彼女が女中たちが噂していた『マーサ』で、騎士団長に懐柔された女中だ。
女中が運んできた酒瓶の一つには毒が塗られていて、それに注がれた葡萄酒をこれから辺境伯が飲む……って計画だったよな?
ふいに自分の認識に自信がなくなり、先日盗み聞きした騎士団長と従僕長との会話を思い出した。
『よい。どうせ舞踏会の合間なら向こうは丸腰だ。殿下と二人で別室で酒でも飲んでもらい、毒入りの酒を飲んだことを確認したところで踏み込んでとどめを刺せばよい。あの男さえいなくなれば、この国もウェルナー辺境伯領も、殿下と私の思うままだ』
騎士団長は、確かそう言っていたはずだ。
状況的にはその通りになっている。舞踏会の合間に、おそらく丸腰で部屋にいる辺境伯とラインハルト殿下。そこに女中が毒入り酒を運んできている。
けれど、もし――、国を裏切ろうとしているのがラインハルトではなく辺境伯のほうだったとしたら――。
真相をちゃんと理解できたわけではない。ただ直感的に、恐怖とも言えるものすごく嫌な予感がし、ユリウスは走りだそうとした。だが、次の瞬間――、突然、背後から強い力で体を引き寄せられ、体に何かが巻き付き、両足が浮き上がっていた。すぐにそれが人の腕だと気づいたのは、触れ合った腕に感じた、硬い筋肉とざらりとした体毛の感触からだ。
658
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる