売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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はじまりの場所

はじまりの場所(3)

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 ルトと、どんな会話をしていたのかは全く覚えていない。エイギルに渡せなかった花をかわりに彼にあげて、今日のおやつは美味しかっただの家庭教師の言ってることがさっぱりわからないだの、他愛ない話をしていた気がする。

「お前が来て、どうでもいいことを色々話しかけてきて、それに答えている間だけは、刺客への恐怖も、エイギルへの気遣いも、母上と会えない寂しさも、忘れていられた。ユーリといるときだけ、俺はただの子供でいられたんだ」

 それは、自分も同じだったかもしれない。
 継母ははは、我が子同然にユリウスを可愛がってくれたけれど。姉や弟のように甘えてはいけないことは子供心になんとなくわかっていたし、使用人たちの態度が自分にだけ冷たいことも感じ取っていた。
 家族の一員でいるために無理に「いい子」を演じていた子供時代で、馬小屋でルトと話しているときだけは、子供らしくいられたような気がする。

「エイギルの結婚式で、俺はお前と再会できるのを何より楽しみにしていたんだ。ユーリだけをずっと目で追っていたから、お前のエイギルに対する気持ちにも気づいてしまった」
「え? ちょっと待ってください!」

 ユリウスは柵に預けていた腰を軽く浮かせ、ラインハルトの顔を下から覗き込んだ

「ウェルナー城の庭園では、結婚式での僕のことは全然覚えていないって言ってましたよね? ウェルナー辺境伯令嬢に目を奪われていたって」
「あのときは……、すまなかった」

 ラインハルトが視線を揺らし、普段は見せることのない神妙な面持ちになる。

「辺境伯が人質に取った者たちの居場所を突き止めるために、娘に好意があるふりをしていたんだ。他に所有する城や鍵の在り処を聞き出す必要があった。それに、どこから騎士団長や辺境伯の耳に入るかわからないから、ユーリがオメガで、俺と近しい関係にあることを悟られるわけにはいかなかった。だから、お前に対してわざと冷たい態度を取った」

 まるで教会で懺悔でもするように、ラインハルトが苦しげに話を続ける。

「エイギルの結婚式で彼女と会ったことは全く覚えていないし、ウェルナー城での彼女への態度は、全て演技だった」
「でも……」

 ユリウスは瞳を揺らし、納得のできない気持ちを絞り出した。

「カレン様の侍女が、王弟殿下が都に行かれる前に、お嬢様に愛の告白をされたと言っていました。できれば妾になってほしいと……。『傍にいてほしい』と仰っていたとも……」

 ラインハルトが渋面を更に深める。

「あれは……陛下のお言葉を伝えただけだ。辺境伯の離反を阻止できなかった場合は、娘に伝えてくれと言われていた」

『以前、お父上の謁見に同行された折、貴方の防衛や外交に関する見識に深い感銘を受けた。お父上が大罪を犯された以上、辺境伯の爵位は廃さねばならぬが、もし貴方が望むのなら、貴方を王宮にお迎えしたい。できれば私の妾となり、傍で私を支えてほしい』

 陛下から託っていたという言葉を、ラインハルトが一言一句違わずに教えてくれた。それを断片的に聞いた侍女が、ラインハルトからの愛の告白だと誤解したのは仕方のないことに思える。

「俺は、それを伝えるのは性急すぎると申し上げたのだが、自棄になって馬鹿なことを考えぬよう、城を発つ前に伝えてくれと仰ったのだ」

 馬鹿なことというのは、なんとなく想像できる。
 これまで、辺境伯の後継ぎとして大事に育てられてきたのだ。父親も、身分も、将来の夢も、一挙に失っては、未来に希望を持てなくもなるだろう。

 それは陛下のご厚情による言葉だが、ただ、ラインハルトからそれを聞かされた彼女の気持ちを思うと、やるせなさに胸を支配された。

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