売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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はじまりの場所

はじまりの場所(8)

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「子供を取り替えたということですか……」

 母もこの話は知らなかったようで、驚愕に慄いている。

「赤子が高熱を出したが、夜だったため医者はすぐには来てくれなかった。これから先も自分の子はろくに医者にも診てもらえず、早くに死んでしまうのではないかと、恐怖を覚えたそうだ。それに、見るからに小さく、体の弱そうなその子はオメガに違いないと思い込んでいた。平民のオメガであれば、自分と同じように、他に愛する人がいたとしても、いずれは選定の儀に参加しなければいけなくなる。そこで彼女は、正妻の子を連れ去って子供が一人になれば、その子を正妻の子として育ててくれるんじゃないかと考えてしまった…………」

 実際にそうなった。
 平民のオメガの子供であったはずのカレンは、正妻の子供として育てられている。彼女とその母親の間にも、きっと色んな悲しい出来事があったのだろう。庭園での二人の様子を思い返すと、胸が締め付けられた。

 ユリウスの顔を見るたびに「ごめんね」と泣いていた母が、ユリウスのことを愛してくれていたかどうかはわからない。
 ただ、恨む気持ちはなかった。取り替えた子供を、そのへんに放って捨てることもできただろうから。

「それからまもなくしてあの人が亡くなったから、事実を確認させるためにウェルナー辺境伯領に人をやったんだ。事情を知る者は全員解雇されていて、当時の城の専属医も亡くなっていたが、その医者が妻に話していたところによると、やはり正妻の産んだ子は男の子だったらしい。とても可愛らしい赤子で、体も平均より小さかったから、奥様は、『この子はきっとオメガね』と口にしていたそうだ」

 そのときの報告を、ここにいた頃のラインハルトがたまたま耳にしたのだろう。

『あなた……、オメガね。オメガの男の子ね……』

 そう言ってユリウスに向かって手を伸ばしてきた、老女のような夫人の顔を思い出した。

 誰もが言葉を見つけられず、重い沈黙が続く。それを破ったのは、ラインハルトの沈鬱な声だった。

「……葡萄酒に毒が入れられているだろうことは、予想していたんだ。だから飲むつもりはなかった。だが……、都に護送している途中、ウェルナー辺境伯から、俺が今にも毒入りの酒を飲もうとしていて、ユリウスが止めたおかげで命が助かったということにしてほしいと言われた。そうすれば、その功績でお前に爵位が与えられるかもしれないからって……。陛下には真実を話し、その上でウェルナー辺境伯の意向に沿うと仰ってくださった」

 それは、大事にできなかった妾と、その妾に連れ去られ、最初からいなかったことにした息子への、彼なりの贖罪のつもりだったのかもしれない。
 その気持ちだけは、素直に受け取ろうと思った。

 ユリウスはソファから立ち上がり、両親のほうを向いた。

「お父様、お母様。今まで、自分の子供でもないのに、姉弟たちと分け隔てなく育ててくださって、ありがとうございました。僕にとっては、亡くなった母様と、お父様とお母様だけが、本当の両親だと思っています……。どうか、これからも二人の子供でいさせてください」

 二人の目に、大粒の涙が盛り上がった。

「何を……、当たり前のことを言っているんだ」
「そうよ。ユーリは、今までもこれからも、私たちにとって大切な息子よ」

 手を伸ばされ、ユリウスはおずおずと身を屈めた。
 二人に、強く抱きしめられる。

 姉や弟のように甘えてもいいのだろうかという遠慮は今もある。
 でも、甘えても甘えられなくても、どちらでもいいのだと思った。
 愛して、愛されていることに、かわりはないのだから。







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