75 / 83
はじまりの場所
はじまりの場所(8)
しおりを挟む「子供を取り替えたということですか……」
母もこの話は知らなかったようで、驚愕に慄いている。
「赤子が高熱を出したが、夜だったため医者はすぐには来てくれなかった。これから先も自分の子はろくに医者にも診てもらえず、早くに死んでしまうのではないかと、恐怖を覚えたそうだ。それに、見るからに小さく、体の弱そうなその子はオメガに違いないと思い込んでいた。平民のオメガであれば、自分と同じように、他に愛する人がいたとしても、いずれは選定の儀に参加しなければいけなくなる。そこで彼女は、正妻の子を連れ去って子供が一人になれば、その子を正妻の子として育ててくれるんじゃないかと考えてしまった…………」
実際にそうなった。
平民のオメガの子供であったはずのカレンは、正妻の子供として育てられている。彼女とその母親の間にも、きっと色んな悲しい出来事があったのだろう。庭園での二人の様子を思い返すと、胸が締め付けられた。
ユリウスの顔を見るたびに「ごめんね」と泣いていた母が、ユリウスのことを愛してくれていたかどうかはわからない。
ただ、恨む気持ちはなかった。取り替えた子供を、そのへんに放って捨てることもできただろうから。
「それからまもなくしてあの人が亡くなったから、事実を確認させるためにウェルナー辺境伯領に人をやったんだ。事情を知る者は全員解雇されていて、当時の城の専属医も亡くなっていたが、その医者が妻に話していたところによると、やはり正妻の産んだ子は男の子だったらしい。とても可愛らしい赤子で、体も平均より小さかったから、奥様は、『この子はきっとオメガね』と口にしていたそうだ」
そのときの報告を、ここにいた頃のラインハルトがたまたま耳にしたのだろう。
『あなた……、オメガね。オメガの男の子ね……』
そう言ってユリウスに向かって手を伸ばしてきた、老女のような夫人の顔を思い出した。
誰もが言葉を見つけられず、重い沈黙が続く。それを破ったのは、ラインハルトの沈鬱な声だった。
「……葡萄酒に毒が入れられているだろうことは、予想していたんだ。だから飲むつもりはなかった。だが……、都に護送している途中、ウェルナー辺境伯から、俺が今にも毒入りの酒を飲もうとしていて、ユリウスが止めたおかげで命が助かったということにしてほしいと言われた。そうすれば、その功績でお前に爵位が与えられるかもしれないからって……。陛下には真実を話し、その上でウェルナー辺境伯の意向に沿うと仰ってくださった」
それは、大事にできなかった妾と、その妾に連れ去られ、最初からいなかったことにした息子への、彼なりの贖罪のつもりだったのかもしれない。
その気持ちだけは、素直に受け取ろうと思った。
ユリウスはソファから立ち上がり、両親のほうを向いた。
「お父様、お母様。今まで、自分の子供でもないのに、姉弟たちと分け隔てなく育ててくださって、ありがとうございました。僕にとっては、亡くなった母様と、お父様とお母様だけが、本当の両親だと思っています……。どうか、これからも二人の子供でいさせてください」
二人の目に、大粒の涙が盛り上がった。
「何を……、当たり前のことを言っているんだ」
「そうよ。ユーリは、今までもこれからも、私たちにとって大切な息子よ」
手を伸ばされ、ユリウスはおずおずと身を屈めた。
二人に、強く抱きしめられる。
姉や弟のように甘えてもいいのだろうかという遠慮は今もある。
でも、甘えても甘えられなくても、どちらでもいいのだと思った。
愛して、愛されていることに、かわりはないのだから。
1,051
あなたにおすすめの小説
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる