糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
112 / 644
2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

望まぬ再会 4

しおりを挟む
   英語の授業は楽勝ね。
   英語担当のルイスは多くの課題を出すので有名だけれど、あたしからしてみればどれほど多くても苦にはならない。
   文系の中で唯一の得意分野が英語になる。むしろ、日本語より話せるのが英語だ。
   現国も化学も課題は出なかったからカウンセリングさえ終わらせてしまえば今夜はゆっくり過ごせそう。そうだ、駅前のケーキ屋にあるミルフィーユ。あれを買って今夜の楽しみにしよう。
   早く帰れて課題の少ない日はカロリー制限を気にしていられないわ。
   「瑠璃、準備はできたか?」
   すべての授業が終わったから坂本が迎えに来た。あたしは鞄を持って教室を出る。
  「挨拶ぐらいだから5分位で済むと思う」
   「古典の授業が眠れるなら何でもいいですよ」
   おかしな部分ではあるけれど、重要なのは古典の授業で寝れるかなのよね。
   「それ、他の先生に言うなよ。色々とうるさいからな」
   なら、提案しなければいいのに。高校生の信頼性は大人が思っている以上に薄い。あたしたちは平気で嘘を吐いて平気で人を傷つける。どこが悪いかなんて考えてさえしていない。
   「そうですか!長野先生もそういう趣味が!」
   雨の静寂を突き破って響いたのは生物を担当する田口の声だ。
   「ちょうどいいところにいたな。田口先生と話しているのがカウンセラーの先生だ」
   田口と向かい合わせになって話を聞いているのは細身の穏やかな笑みを浮かべている青年。思っていたより若い。
   「妻も娘も気持ち悪がっていましてね。蝶の標本を捨てろって言うんですよ。いやあ、蝶好きの人に会えるとは思いませんでした。先生はどんな蝶がお好みですか。私はね、モルフォチョウ属ですね。あの羽の美しさと言ったら」
   田口は蝶になると話が長くなる。授業の時だって、同じ話を何度も繰り返すものだから生徒たちの評価は落ちていく一方なのよね。
   対して青年は快く、田口の話に相槌を打っては笑顔で聞いている。
   「長野先生、よろしいですか」
   2人の間に割って入って坂本は田口の熱い語りを中断させる。
   「あぁ、坂本先生すいません。つい熱くなってしまいました。では長野先生、今度飲みにいきましょう」
   同じ趣味を持てたのがよほど嬉しいのか、話を中断させられてもご機嫌な口調で別れる。長野と呼ばれた青年は軽く会釈をするだけで挨拶の言葉はなかった。
   「長野先生、この子が先日話した」
   「えぇ、瑠璃さんですよね」
   しっかりとした芯のある口調。初対面のはずなのに聞き覚えのある声。その声にあたしの背筋が凍る。
   「はじめまして、ですよね」
   何を言っているのか、理解できない。こいつとは「はじめまして」じゃない。
   「カウンセラーの長野 明弥ながの あけひさです」
   蝶男。間違いない。地獄で聞いたあの声だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...