糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

蜘蛛の脚 17

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   両者、それ以上は何も言わなかった。一度、深呼吸をして熱くなった熱を冷やす。
   「悪かった。色々と思い出して、それで気が荒くなっていた」
   「そう。あたしは10発20発殴っても気が済まないから」
   こちらは謝ったというのに、瑠璃は謝罪の1つもない。先程の「お互い様」とやらはどうしたのか。
   「記憶が戻ったって?どこまで?どうやって?急に戻ったの?」
   好奇心を抑えられなかった光弥が食いついてきた。
   「それは」
   記憶を話せと言われても困る。どこからどこまで話すべきなのか。光弥に全てを話すつもりはなかった。
   その一方で、冷めない熱がカンダタの中にある。紅柘榴。1つの蟠りはなくなったが、彼女を中心に渦が巻く。熱く波打つ感情を吐き捨てたい。
   「俺は」
   「それ、聞かないと駄目なの」
   怠そうに瑠璃が遮った。
   「痴呆が少しマシになったって話でしょ?必要?」
   言われてみればカンダタの生前なんてものは現代の瑠璃には聞く必要がなく、光弥も1人分の人生を知ったところで得られる有益情報は無い。
   だが、カンダタの成仏できない感情はどこに向かわせれば良いのだろうか。
   「惚気話はいらない。あたしが知りたいのは黒蝶よ」
   瑠璃は台所に立つと丸い容器で温めていた茶色の液体を湯飲みに入れる。丸い容器には切り口がなく、茶色の液体は湯飲みに入れきれず、銀色の台へと落ちる。丸い容器を置いた瑠璃は左側にある布巾を右手で取り、台を拭く。
   これらの作業を片手だけで行っていた。包帯を巻かれた左腕は肩からぶら下がる飾り物でしかなかった。
   「瑠璃、左腕」
   痛がらず、平静を振る舞っていたので気にも止めなかった。単なる掠り傷だと思っていた。
   「理性が飛んだ阿呆があたしの腕を餌だと勘違いして噛み付いたのよ。お陰で動かなくなった」
   「動かないって。俺の時は直せただろう。白糸で」
   「それが生きてる奴と死んでる奴の違いさ」
   カンダタの問いに答えたのは光弥だった。
   「魂の構造は単純なんだ。カンダタには生体がないし俺みたいな塊人は生死すら存在しない。逆に瑠璃は生きていて健康体で活動している。白糸なら健康体でも元に戻す力がある。それを使うためには身体をコントロールしている細胞・神経系などを把握する必要があるんだ。例えば赤血球だ。酸素を運んで細胞に届けるんだ。この細胞にも血脈という道が必要になってもちろんそれは瑠璃の左腕にもあるわけだ。他にも彼女の左腕を正常に作動するのにも筋肉と骨がある。これらにも」 
   「結論だけで良い」
   理解の追いつかない長話は苦痛でしかない。
   「あたしが左腕を動かすにはめんどくさい身体の構造を熟知していないといけないのよ。AEDがあっても説明書がないと使えないのと一緒」 
  「まぁ、なんとなくわかった」
   AEDを知らないカンダタであったが、おおよそのところは理解したつもりだ。
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