219 / 644
3章 死神が誘う遊園地
瑠璃、幼少期 2
しおりを挟む
思い出の中に父の姿はほとんどない。仕事で忙しいらしく、珍しく早く帰ってきたかと思えば、母と父2人だけで外食に行ってあたしは独り、誰もいない広い家で母の帰りを待っていた。
父はプライベートの空間に他人が入るのを嫌がっていた。だから、ベビーシッターも家政婦も雇わなかった。娘であるあたしでさえその空間に入ることができなかった。
足を踏みいれるを許されたのは母しかいない。それほどまでに父の人嫌いは徹底的で、母への執着は異常だった。
夜の留守番に耐えきれず、母に電話したことがあった。用があったわけじゃなく、「寂しいから早く帰ってきてほしい」という泣き言をケータイに流して、子供特有の駄々を捏ねた。
それを聞いた母は食事中のディナーを取り消して急いで帰ってきて、泣き顔のあたしを抱き上げる。
「まだメインディッシュすら食べてないんだぞ。寂しかったらDVDでも観てていればよかったんだ」
ディナーを子供の泣き言で台無しにされたのがよほど気にいらなかったのか、父は荒げそうになる声を抑えつつ、乱雑な仕草でネクタイを緩める。
「そんなこと言わないで。今度は瑠璃も一緒に行きましょう、ね?」
あやす口調で話しかける。そのときには泣き止んでいて、母の肩にしがみついて離れようとしなかった。一緒に抱きしめたダッフィーがしわくちゃになっている。
「やめてくれ。子供がマナーを守れるはずがないだろう。連れてきた俺たちも周囲から白い目で見られるぞ」
「あら、瑠璃は天使の子よ。マナーだって完璧なんだから」
母があたしを褒めてくれた。けれど、今夜は素直に喜べなかった。娘を睨めつけてくる父が怖くなって母の肩の上で首を振る。
「パパとは嫌」
「フラれちゃった」
母は可笑しそうに微笑んでも父にしてみれば小さな子供の言い分も目障り耳障りでしかない。苛立ちを見せつけるように大きな舌打ちをした。
「早く子供部屋に連れて行け」
あからさまな拒絶にあたしは涙腺が緩む。
これ以上、大泣きをすれば抑えていた父の怒りが爆発すると悟った母は早足で子供を家に運ぶ。
小さな子供用のベッドに私を寝かせると布団を被せ、その上からトントンと胸の辺りを優しく叩く。
厚い毛布から伝わる母のリズムが心地よく、ぐずりそうになった心は落ち着いてきて眠気がやってくるのを待った。
「なんでパパは私を嫌うの?いつも私からママを取ろうとする」
布団の中でダッフィーを抱きしめて、静かに聞いてみた。ぬいぐるみを抱えていれば寂しさが消えるのだと幼い私は考えていたけれど、それで何かが得られた事はなかった。
「パパはね、誰にも愛されなかったのよ」
カーテン閉めた子供部屋は月光さえも遮って、完璧だと言えるほどの闇の中で母は静かに話す。
「瑠璃にはママがいるでしょ?でもパパの両親、瑠璃からしてみればおじいちゃんとおばあちゃんになるわね。この2人から愛を貰わなかったの。パパを愛したのは世界で1人だけ。一人分の愛しか貰えなかったからパパがあげられるのは1人分の愛だけなの」
「私のぶんがないの?」
なんだか悲しくなってきた。愛されていない、嫌われていると改めて自覚すると形のない怪物があたしの心臓を掴んでいるようで怖くなった。
「ママがいるわ。さぁ、もう寝なさい」
母は私の額に口付けをする。
「おやすみ、愛しているわ」
囁いた母は静かに子供部屋を出た。あたしは満足そうに微笑んで訪れた眠気を快く受け入れる。
父はプライベートの空間に他人が入るのを嫌がっていた。だから、ベビーシッターも家政婦も雇わなかった。娘であるあたしでさえその空間に入ることができなかった。
足を踏みいれるを許されたのは母しかいない。それほどまでに父の人嫌いは徹底的で、母への執着は異常だった。
夜の留守番に耐えきれず、母に電話したことがあった。用があったわけじゃなく、「寂しいから早く帰ってきてほしい」という泣き言をケータイに流して、子供特有の駄々を捏ねた。
それを聞いた母は食事中のディナーを取り消して急いで帰ってきて、泣き顔のあたしを抱き上げる。
「まだメインディッシュすら食べてないんだぞ。寂しかったらDVDでも観てていればよかったんだ」
ディナーを子供の泣き言で台無しにされたのがよほど気にいらなかったのか、父は荒げそうになる声を抑えつつ、乱雑な仕草でネクタイを緩める。
「そんなこと言わないで。今度は瑠璃も一緒に行きましょう、ね?」
あやす口調で話しかける。そのときには泣き止んでいて、母の肩にしがみついて離れようとしなかった。一緒に抱きしめたダッフィーがしわくちゃになっている。
「やめてくれ。子供がマナーを守れるはずがないだろう。連れてきた俺たちも周囲から白い目で見られるぞ」
「あら、瑠璃は天使の子よ。マナーだって完璧なんだから」
母があたしを褒めてくれた。けれど、今夜は素直に喜べなかった。娘を睨めつけてくる父が怖くなって母の肩の上で首を振る。
「パパとは嫌」
「フラれちゃった」
母は可笑しそうに微笑んでも父にしてみれば小さな子供の言い分も目障り耳障りでしかない。苛立ちを見せつけるように大きな舌打ちをした。
「早く子供部屋に連れて行け」
あからさまな拒絶にあたしは涙腺が緩む。
これ以上、大泣きをすれば抑えていた父の怒りが爆発すると悟った母は早足で子供を家に運ぶ。
小さな子供用のベッドに私を寝かせると布団を被せ、その上からトントンと胸の辺りを優しく叩く。
厚い毛布から伝わる母のリズムが心地よく、ぐずりそうになった心は落ち着いてきて眠気がやってくるのを待った。
「なんでパパは私を嫌うの?いつも私からママを取ろうとする」
布団の中でダッフィーを抱きしめて、静かに聞いてみた。ぬいぐるみを抱えていれば寂しさが消えるのだと幼い私は考えていたけれど、それで何かが得られた事はなかった。
「パパはね、誰にも愛されなかったのよ」
カーテン閉めた子供部屋は月光さえも遮って、完璧だと言えるほどの闇の中で母は静かに話す。
「瑠璃にはママがいるでしょ?でもパパの両親、瑠璃からしてみればおじいちゃんとおばあちゃんになるわね。この2人から愛を貰わなかったの。パパを愛したのは世界で1人だけ。一人分の愛しか貰えなかったからパパがあげられるのは1人分の愛だけなの」
「私のぶんがないの?」
なんだか悲しくなってきた。愛されていない、嫌われていると改めて自覚すると形のない怪物があたしの心臓を掴んでいるようで怖くなった。
「ママがいるわ。さぁ、もう寝なさい」
母は私の額に口付けをする。
「おやすみ、愛しているわ」
囁いた母は静かに子供部屋を出た。あたしは満足そうに微笑んで訪れた眠気を快く受け入れる。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる