254 / 644
3章 死神が誘う遊園地
夏と夢と信仰と補習 3
しおりを挟む
昌次郎は引き出しから入れケースを取り出し、PCを閉じる。
「仮眠してくる」
ピルケースから青と紫のカプセル剤を2、3錠出すと飲み込む。
「また、ですか」
「どういう意味だ?」
さえりにあるのは不信だった。
「仮眠する回数が増えてきています」
「仕事に支障は無い」
「しかし、8時間超えることも。カウンセリングを再開させたほうが良いのでは?」
「お前には理解できない境界線があるんだ。口を出すんじゃない」
さえりは俯き、それ以上は何も言わなかった。
「30分後に起きる。18時からの予定は空けているな?」
「はい」
「ならいい」
昌次郎が隣の部屋に移る。そこは仮眠室になっているらしい。いや、自室といったほうが正しいだろうか。立派な寝台と液晶テレビ、本棚にはDVDが並べてあり、箪笥まである。
棚の上には写真と可愛らしい熊の置物があった。
昌次郎は布団に潜るととすぐに寝息をたててしまった。
2人が話していたサプリは先程のカプセル剤のことを指しているのだろう。快眠効果があるとするならば、彼は深い眠りについているはず。物色するなら今のうちだろう。
「といっても、触れられないと意味がないんだよな」
自嘲気味に呟いて箪笥の引き出しに手を触れているも幽体の手ではすり抜けてしまう。
触れずに物色となると行動は限られる。見て回るしかない。
カンダタが気になっていたのは棚の上にある写真だ。そこに映り留まる女性がカンダタを引かせた。
長い金髪。笑みが浮かぶ顔。目はきらめいた深い青色。瑠璃に似た人物が写真の中にいた。写真の彼女は瑠璃と比べれば大人びており、笑顔がよく似合う。彼女が瑠璃の母親だとわかった。
この世の憂い全て取り除いてくれるような愛に満ちた笑みをしているが、作り笑いのようにも見える。
その隣には熊の置物。プラスチックな素材でイラストチックな容姿だ。旅行用の鞄を背に置き、肩腕を上げて笑いかけている。女性向けの装飾品だ。
どの会話にも瑠璃の母親は話題にならなかった。ならば、彼女はこの世にいないのだろう。そう考えれば、熊の装飾品は形見だろうか?
棚に並べられたDVDは長編アニメーションばかりだ。「白雪姫」「アナと雪の女王」「美女と野獣」どれもカンダタが知らない題名だ。
箪笥の中、社長室のデスクも頭をすり抜かせて物色するも大したものは見つからない。探せる所は全て探してしまった。昌次郎は静かに息を繰り返している。
カンダタには1つの疑問が浮かんでいた。地獄で瑠璃は出会った時、「愛してると言われて育った」「飽きたから捨てた」と語っていた。
それは飽きたからと捨てられるものではない。写真の母親は幸福に満ちているのに、父親は瑠璃の存在そのものを否定する。
失ったものが共通するなら悲しみを共有できるはずだ。親子ならば尚更のこと。
それができるのはとても幸運なのに。
「仮眠してくる」
ピルケースから青と紫のカプセル剤を2、3錠出すと飲み込む。
「また、ですか」
「どういう意味だ?」
さえりにあるのは不信だった。
「仮眠する回数が増えてきています」
「仕事に支障は無い」
「しかし、8時間超えることも。カウンセリングを再開させたほうが良いのでは?」
「お前には理解できない境界線があるんだ。口を出すんじゃない」
さえりは俯き、それ以上は何も言わなかった。
「30分後に起きる。18時からの予定は空けているな?」
「はい」
「ならいい」
昌次郎が隣の部屋に移る。そこは仮眠室になっているらしい。いや、自室といったほうが正しいだろうか。立派な寝台と液晶テレビ、本棚にはDVDが並べてあり、箪笥まである。
棚の上には写真と可愛らしい熊の置物があった。
昌次郎は布団に潜るととすぐに寝息をたててしまった。
2人が話していたサプリは先程のカプセル剤のことを指しているのだろう。快眠効果があるとするならば、彼は深い眠りについているはず。物色するなら今のうちだろう。
「といっても、触れられないと意味がないんだよな」
自嘲気味に呟いて箪笥の引き出しに手を触れているも幽体の手ではすり抜けてしまう。
触れずに物色となると行動は限られる。見て回るしかない。
カンダタが気になっていたのは棚の上にある写真だ。そこに映り留まる女性がカンダタを引かせた。
長い金髪。笑みが浮かぶ顔。目はきらめいた深い青色。瑠璃に似た人物が写真の中にいた。写真の彼女は瑠璃と比べれば大人びており、笑顔がよく似合う。彼女が瑠璃の母親だとわかった。
この世の憂い全て取り除いてくれるような愛に満ちた笑みをしているが、作り笑いのようにも見える。
その隣には熊の置物。プラスチックな素材でイラストチックな容姿だ。旅行用の鞄を背に置き、肩腕を上げて笑いかけている。女性向けの装飾品だ。
どの会話にも瑠璃の母親は話題にならなかった。ならば、彼女はこの世にいないのだろう。そう考えれば、熊の装飾品は形見だろうか?
棚に並べられたDVDは長編アニメーションばかりだ。「白雪姫」「アナと雪の女王」「美女と野獣」どれもカンダタが知らない題名だ。
箪笥の中、社長室のデスクも頭をすり抜かせて物色するも大したものは見つからない。探せる所は全て探してしまった。昌次郎は静かに息を繰り返している。
カンダタには1つの疑問が浮かんでいた。地獄で瑠璃は出会った時、「愛してると言われて育った」「飽きたから捨てた」と語っていた。
それは飽きたからと捨てられるものではない。写真の母親は幸福に満ちているのに、父親は瑠璃の存在そのものを否定する。
失ったものが共通するなら悲しみを共有できるはずだ。親子ならば尚更のこと。
それができるのはとても幸運なのに。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる