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3章 死神が誘う遊園地
ミラーハウス 7
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迷路の蛍光灯が紅柘榴を色めかしく照らす。
「違う」
カンダタは自分に聞かせるように呟く。
彼女は紅柘榴ではない。惑わされてはいけない。
そうやって強く言い聞かせ、彼女を引き剥がそうとする。掴まれた手首を振り払い、後ろ首に回った手を解こうとした。それができなかった。
人肌の温もりがあった彼女の手は陶器のように硬まり、冷気が含まれる。どれほど身じろぎしても、首と手首を上下左右に振り、離れようとしても、彼女はそれ以上の強さでカンダタの身体を固定する。
「放せ!」
カンダタが拒絶を示しても微笑を携えた表現は変わらない。その顔が瓜二つなので不気味さを通り越し、憤りを感じる。
手の温度がさらに低くなり、陶器の指先は霜を纏う。凍傷の痛みに耐えきれず、情けない唸り声を出す。
彼女が纏う冷気は容赦がなかった。霜は通路の床に広がり、煙が生み出される。カンダタは白い息を吐きながら歯と歯を鳴らし、全身を震わせた。
身体は寒さを耐え、体温をあげようと小刻みに震えているのに腹の奥底は真逆の感情が湧いていた。
強く願い、誰よりも思い浮かべ、生存はしていないと知りつつも求めてしまう紅柘榴。忘れても、死んでも、辛く痛くとも想い続けた。この感情は魂さえも奪われた男の唯一の宝玉だ。それが踏みにじられた。
感情のない紅柘榴の微笑、無感情な手が抑えつける。紅柘榴はそんな風に笑わない、冷え症だった彼女の指先はいつも優しいものだった。
「こんなものを見せてるのは誰だ!」
鳴らしていた歯を噛み締めて、腹底からの熱量を吐く。項の、骨の髄が熱を帯びる。
「べには!春の暖かさがあった!」
本来ならこの偽物を殴っているところだが、紅柘榴に似た顔ではそれすらもできない。凍傷ではない熱い痛みが項から背中へと伝わる。
「彼女で弄ぶな!」
体内で脊椎と脊椎が外れる音がした。切れ目から生じた熱は筋肉を引き裂き、皮を破く。カンダタの中で煮え滾っていた熱の状態は蜘蛛の脚だった。
1本の脚は幅の狭い通路に収まりきれず、向かいの鏡を突き破る。鏡の破片が蛍光色の光を反射させながら床に散乱する。
カンダタの肌ではためく黒蝶は別の苦しみを与える。
本能は空腹を叫び、餌食として選んだのは陶器よりも冷たくなった女だった。黒蝶の歪んだ衝動に呑まれそうになる。
舌が血肉の味を知る前に自身の親指を口に突っ込ませた。衝動のままに噛まれた親指は骨が軋み、口内で鉄の味が広がる。その味は甘美で酔ってしまいそうだ。
噛んだ手は彼女に捕まれ、動きを封じられているほうだった。それが解放されたのは彼女の腕が容易に折れて切断してしまったからだ。
腕の、断面は赤黒い凸凹の一面となっており、体液の類は一滴も流れていない。
黒蝶の衝動は陶器の彼女でさえ求めていた。
それだけはできない。してはならない。紅柘榴を模した陶器を衝動の受け皿として使えばカンダタの矜持が崩れる。矜持だけではない。自ら宝珠だと称えてきた想いを自らの手で穢し、破壊する行為だ。
だからこそ、カンダタは後ろ首に回った手を離し、陶器の彼女から距離をとる。といってもカンダタは立ち上がることができなかった。腰から下を失ったように感覚がないのだ。
カンダタは両腕を使い、引き摺るようにして後退する。
「違う」
カンダタは自分に聞かせるように呟く。
彼女は紅柘榴ではない。惑わされてはいけない。
そうやって強く言い聞かせ、彼女を引き剥がそうとする。掴まれた手首を振り払い、後ろ首に回った手を解こうとした。それができなかった。
人肌の温もりがあった彼女の手は陶器のように硬まり、冷気が含まれる。どれほど身じろぎしても、首と手首を上下左右に振り、離れようとしても、彼女はそれ以上の強さでカンダタの身体を固定する。
「放せ!」
カンダタが拒絶を示しても微笑を携えた表現は変わらない。その顔が瓜二つなので不気味さを通り越し、憤りを感じる。
手の温度がさらに低くなり、陶器の指先は霜を纏う。凍傷の痛みに耐えきれず、情けない唸り声を出す。
彼女が纏う冷気は容赦がなかった。霜は通路の床に広がり、煙が生み出される。カンダタは白い息を吐きながら歯と歯を鳴らし、全身を震わせた。
身体は寒さを耐え、体温をあげようと小刻みに震えているのに腹の奥底は真逆の感情が湧いていた。
強く願い、誰よりも思い浮かべ、生存はしていないと知りつつも求めてしまう紅柘榴。忘れても、死んでも、辛く痛くとも想い続けた。この感情は魂さえも奪われた男の唯一の宝玉だ。それが踏みにじられた。
感情のない紅柘榴の微笑、無感情な手が抑えつける。紅柘榴はそんな風に笑わない、冷え症だった彼女の指先はいつも優しいものだった。
「こんなものを見せてるのは誰だ!」
鳴らしていた歯を噛み締めて、腹底からの熱量を吐く。項の、骨の髄が熱を帯びる。
「べには!春の暖かさがあった!」
本来ならこの偽物を殴っているところだが、紅柘榴に似た顔ではそれすらもできない。凍傷ではない熱い痛みが項から背中へと伝わる。
「彼女で弄ぶな!」
体内で脊椎と脊椎が外れる音がした。切れ目から生じた熱は筋肉を引き裂き、皮を破く。カンダタの中で煮え滾っていた熱の状態は蜘蛛の脚だった。
1本の脚は幅の狭い通路に収まりきれず、向かいの鏡を突き破る。鏡の破片が蛍光色の光を反射させながら床に散乱する。
カンダタの肌ではためく黒蝶は別の苦しみを与える。
本能は空腹を叫び、餌食として選んだのは陶器よりも冷たくなった女だった。黒蝶の歪んだ衝動に呑まれそうになる。
舌が血肉の味を知る前に自身の親指を口に突っ込ませた。衝動のままに噛まれた親指は骨が軋み、口内で鉄の味が広がる。その味は甘美で酔ってしまいそうだ。
噛んだ手は彼女に捕まれ、動きを封じられているほうだった。それが解放されたのは彼女の腕が容易に折れて切断してしまったからだ。
腕の、断面は赤黒い凸凹の一面となっており、体液の類は一滴も流れていない。
黒蝶の衝動は陶器の彼女でさえ求めていた。
それだけはできない。してはならない。紅柘榴を模した陶器を衝動の受け皿として使えばカンダタの矜持が崩れる。矜持だけではない。自ら宝珠だと称えてきた想いを自らの手で穢し、破壊する行為だ。
だからこそ、カンダタは後ろ首に回った手を離し、陶器の彼女から距離をとる。といってもカンダタは立ち上がることができなかった。腰から下を失ったように感覚がないのだ。
カンダタは両腕を使い、引き摺るようにして後退する。
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