糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
311 / 644
3章 死神が誘う遊園地

夢みる幸福 13

しおりを挟む
   ケイの姿を探していると微かな息遣いが聞こえてきた。生暖かい風が私の頭を掠める。
   頭上から吹いた風を目線で追ってみる。それはトロッコの縁から覗くように私を見ていた。
   生気のない人の目が私を見つめている。
   死者だと勘違いしそうになったけど、生暖かい吐息が違うと実感させた。生きていながらも心が死んだそれらがトロッコに積まれている。
   腹から出そうになった悲鳴を咄嗟にに手で抑える。
   叫んでしまえばあの3人にバレてしまう。荒くなる呼吸に涙が混じる。
   ケイ、戻ってきて。
   死神の鎌に首をかけられたような静寂に私は耐えきれなかった。甲高い悲鳴はあげなかったけれど、そこから離れてケイの元に行こうとした。
   「待ってください」
   掛け声と同時に私の手首を掴まれる。
   なんとか声を抑えたけど、心臓は口が飛び出そうになった。
   振り返ると10歳くらいの少女がいた。髪に飾られたエメラルドのアクセサリーが暗闇に煌めく。
   「瑠璃さんのご学友ですね?安全な所へ案内します」
   少女に似つかわしくない無機質な顔で淡々と告げる。「誰?」と問う前に少女は私の手を引き、暗闇の奥へと私を連れ去った。



   清音を置いて行ったケイはトロッコの影に隠れ、2人の会話に耳を当てる。
   「現世のほうはどうです?まだ収集を続けるんですか?」
   そうといたのは顔が鷲になっている老人の塊人だった。
   「もうその必要はない。警察も勘付いている。潮時だろう」
   答えたのは背広の男。
   「娘さんも訪れたことですしね。お会いになりましたか?」
   背広の男は沈黙する。彼は鷲の老人と違い、背筋を伸ばし堂々とした風貌だ。
   沈黙を気にせずに鷲の老人は気にせずに語る。
   「首さんの目的が果たされたのなら園内の放浪者を全て回収しましょう。私の子たちも喜ぶ」
   鷲の老人は立坑の影に隠れた天井を恍惚とした表情で見つめる。
   「あの計画を実行するのか?」
   「タイミングはそちらでお任せします」
   「そうか、ようやく十手も入るのか」
   「あれは十手ではないですよ」
   目線を戻した鷲の老人は乾いた笑いを上げる。
   「あれは自在に形を変える。保有者が必要だと思った形にね」
   「ならば、首が持ち続けている限り、あれは十手のままなのか?」
   「あれの力を望まないうちは」
   背広の男は溜息を落とす。老人はまた乾いた声で笑う。
   「時間はたっぷりある。急ぐことはない」
   焦燥のある背広の男を鷲の老人は宥める。
   「皆、あれを欲しがる。そんなにあの十手いいのか」
   「理を御する力だ。誰でも欲しくなる」
   「よくわからないな」
   「手にすればわかりますよ。そろそろ食事にしようか。あの子もお腹を空かせている」
   鷲の老人が片手を上げる。それを合図に垂れ下がる2本の鎖が喧しい金属音を鳴らす。
   影で覆われていた天井から巨大な怪物が現れる。汚いピンク色の体毛に包まれた熊と象のようなそれは夢園のマスコットに体型が似ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...