糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

夢みる幸福 18

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  「パリの街並みだ。懐かしいだろう?」
   長閑な風があたしの髪をなびかせる。スポットライトで照らされたパリの街並みは惹かれるものがあり、また故郷の懐かしさも秘めている。
   父が乗せたのはナイトエリアのライド系アトラクションで、可愛らしいデザインの飛行機に乗れば上昇し、回転するものだ。
   程よい速さで回転するからナイトエリアの絶景を楽しむのに最適のアトラクションだという。
   その絶景を楽しみながらエッフェル塔の思い出とか凱旋門の豆知識とかをあたしに披露する。
   見下ろすと離れた所に母の姿があった。母とそっくりな塊人は主張せずに父について歩き、待機を命じても笑顔を崩さなかった。
   「気になるか?」
   父は母を一瞥する。それと母の目は細くなり、口角を上げてこちらに手を振る。
   「時折、恋しくなるんだ。だから代役を作った」
   「放っておいていいの?」
   父は代役を空気のように扱って、あたしをエスコートしていた。
   「あれに嫉妬心はない」
   父が母から目を逸らすと母は無表情に戻る。まるで、そうするように仕込まれているみたい。
   「しかし、代役は代役だな。いくら記憶を辿って再現してみても本物とは程遠い」
   「偽物で補えるわけないじゃない」
   恨みを吐き捨てるように言い放つ。
   「愚かだと思うか?」
   向き直した目線の先にはパリを模した夜景が広がっている。
   「あの頃の生活が1番良かった」 
   フランスでの滞在を追想させて、あの頃あった幸福を蘇らす。
   あたしもそうだ。あの頃の生活が幸せだと言える。母の愛情が永遠だと信じていた。ホットチョコレートの甘く温かい幸福。他人を嫌って距離をとり、酷く性格が捻くれたあたしが味わっていた幸福。
   「あの頃に戻りたいと願うのは間違いか?それを叶えようと努力するのも」
   「でも、あなたはあたしを避けていた」
   同意しそうになった言葉を押し込めた。理性と冷静さがあたしに聞かせる。
   あの頃、父から向けられた軽蔑と非難の目を忘れてはいけない。
   「後悔している。と言っても言い訳にはならないな」
   溜息が混じったその台詞には自責の色があり、心から後悔しているのだと伝わる。
   「単に戸惑っていたんだろうな。家族が増えて接し方がわからなかった。そういう迷いも含めて自分のことしか考えていなかった」
   滲む悲哀に嘘はない。記憶の中の軽蔑する父とは違う。顔と声がそっくりなだけで別人なのではないかと疑う。
   別人のような父があたしの頭を撫でる。唐突の出来事にあたしは見開き、硬直する。その仕草は幼い頃、あたしを寝かしつける時に母がしたものと全く同じで、驚愕の後に訪れたのは懐かしさだった。
   「すまないと思っている。チャンスをくれないか?」
   父の優しい眼差しは子供の   あたしが求めていた愛情。それが今あたしに向けられている。
   あたしの動揺は更に酷くなった。
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