315 / 644
3章 死神が誘う遊園地
夢みる幸福 17
しおりを挟む
家族3人が揃った旅行は一度しかない。それが2泊3日の東京ディズニーリゾート。何も知らずに何も考えなかったあたしは馬鹿な笑顔を浮かべて、ミルクチョコレートのポップコーンを頬張っていた。
思い出す度に幼い自分の首を絞めては幸福だった記憶を消そうとしていた。
何度、首を絞めても幼い記憶が次々と思い出される。幼い思い出が父に会えると歓喜している。
歌と踊りのショーはエッフェル塔前で行われるらしい。愉快で幸福なイベントに誘惑された人々がナイトエリアに訪れて、エッフェル塔の前に集まる。
あたしも同じ場所に向かっていた。人が多いところに行けば父に会える確率も上がると考えた。
パリを連想させる街並みを進みながら周囲を見渡す。どこもかしこも日本人ばかりね。父の姿もない。
エッフェル塔前に来てもその影はなかった。
シャン・ド・マルスらしき公園の芝生に仮設の観覧席が設置されている。観覧席は段数も多い上にいくつも並んでいる。キャストは一人でも座わって楽しめるよう誘導して、人と人の間を詰める。
あたしは誘導に逆らって観覧席を見て回る。父の姿はなかった。
次第に観覧席は埋まり、後は立ってても観たいと要望をする人たちが一番見やすい場所に群がる。そうして密集された所にも父はいなかった。
探しているうちに開始を告げる花火が響き渡った。
落ち着いていたジャズの曲はなくなった。軽快に弾む金楽器と弦楽器のハーモニーに観客は歓声を上げて、ダンサーたちがそれに応えて登場する。
ここにはいないみたいね。
あたしは諦めてショーに背を向ける。人混みの中を掻き分けて人の群れから抜けようとする。
人の流れに逆らって進行するのは困難で、ストレスも溜まる。少ない隙間を探して、そこに無理矢理体をねじ込む動作を繰り返す。
その中で一際目立つ金髪の女性がいた。日本人しかいないこの密集に染めた色をしていない金髪の頭。
あたしは急遽、方向を変えてその人の場所へと向かう。人が壁となって遮られた視界。認識できるのは手入れされた綺麗な金髪だけ。
それだけでもあの人だとわかってしまったのは、未だに未練がある確固な証であった。
「ママ!」
BGMに合わせてダンサーが合いの手と掛け声で歓声を促す。
自分の声さえも聞こえないくらいの雑踏の中、あたしは声を張り上げて主張し、その人の手を掴む。
ショーに心を奪われていた母は掴んだあたしに怪訝な表情をする。
「どちら様?」
嫌味や嫌悪でもなく、純粋な疑問をあたしに投げる。
けれど、目の前にいるのは間違いなく母だ。艶やかな金髪と笑みを繕う表情。深い青色の瞳には感情がなかった。
「誰だ?」
母の隣にいた男が機嫌悪そうにあたしを見る。瞬間、忘れていたはずの顔を思い出す。6年ぶりの父がいた。
あたしは何を喋ればいいのかわからなくなっていた。父もまた同じように言葉を失ってあたしを凝視する。
「まさか、会いにきたのか」
父が声を発する。あたしは罵倒が来るだろうと身を構えた。
「来てくれたのか!」
予想外の反応だった。父は期待以上のものを与えられた子供のような煌めいた瞳で破顔し、あたしの肩を抱く。
「良かった!これでようやく!ようやく!」
これほど喜んだ父の姿をあたしは知らない。思い出さえそんなものはなかった。
ただの再会ではないのは確かで、感動的かどうかはわからない。
そうした家族のひと幕は関係ないと言う風にショーは進行する。
父は興奮した胸に手を当て、口を閉ざして熱を冷ましてからまた喋る。
「積もる話もあるだろう。一先ずここを離れよう」
母と娘の手を取った父は嬉々として人混みを無理矢理押しのけて歩く。あたしは混乱を極めていた。
思い出す度に幼い自分の首を絞めては幸福だった記憶を消そうとしていた。
何度、首を絞めても幼い記憶が次々と思い出される。幼い思い出が父に会えると歓喜している。
歌と踊りのショーはエッフェル塔前で行われるらしい。愉快で幸福なイベントに誘惑された人々がナイトエリアに訪れて、エッフェル塔の前に集まる。
あたしも同じ場所に向かっていた。人が多いところに行けば父に会える確率も上がると考えた。
パリを連想させる街並みを進みながら周囲を見渡す。どこもかしこも日本人ばかりね。父の姿もない。
エッフェル塔前に来てもその影はなかった。
シャン・ド・マルスらしき公園の芝生に仮設の観覧席が設置されている。観覧席は段数も多い上にいくつも並んでいる。キャストは一人でも座わって楽しめるよう誘導して、人と人の間を詰める。
あたしは誘導に逆らって観覧席を見て回る。父の姿はなかった。
次第に観覧席は埋まり、後は立ってても観たいと要望をする人たちが一番見やすい場所に群がる。そうして密集された所にも父はいなかった。
探しているうちに開始を告げる花火が響き渡った。
落ち着いていたジャズの曲はなくなった。軽快に弾む金楽器と弦楽器のハーモニーに観客は歓声を上げて、ダンサーたちがそれに応えて登場する。
ここにはいないみたいね。
あたしは諦めてショーに背を向ける。人混みの中を掻き分けて人の群れから抜けようとする。
人の流れに逆らって進行するのは困難で、ストレスも溜まる。少ない隙間を探して、そこに無理矢理体をねじ込む動作を繰り返す。
その中で一際目立つ金髪の女性がいた。日本人しかいないこの密集に染めた色をしていない金髪の頭。
あたしは急遽、方向を変えてその人の場所へと向かう。人が壁となって遮られた視界。認識できるのは手入れされた綺麗な金髪だけ。
それだけでもあの人だとわかってしまったのは、未だに未練がある確固な証であった。
「ママ!」
BGMに合わせてダンサーが合いの手と掛け声で歓声を促す。
自分の声さえも聞こえないくらいの雑踏の中、あたしは声を張り上げて主張し、その人の手を掴む。
ショーに心を奪われていた母は掴んだあたしに怪訝な表情をする。
「どちら様?」
嫌味や嫌悪でもなく、純粋な疑問をあたしに投げる。
けれど、目の前にいるのは間違いなく母だ。艶やかな金髪と笑みを繕う表情。深い青色の瞳には感情がなかった。
「誰だ?」
母の隣にいた男が機嫌悪そうにあたしを見る。瞬間、忘れていたはずの顔を思い出す。6年ぶりの父がいた。
あたしは何を喋ればいいのかわからなくなっていた。父もまた同じように言葉を失ってあたしを凝視する。
「まさか、会いにきたのか」
父が声を発する。あたしは罵倒が来るだろうと身を構えた。
「来てくれたのか!」
予想外の反応だった。父は期待以上のものを与えられた子供のような煌めいた瞳で破顔し、あたしの肩を抱く。
「良かった!これでようやく!ようやく!」
これほど喜んだ父の姿をあたしは知らない。思い出さえそんなものはなかった。
ただの再会ではないのは確かで、感動的かどうかはわからない。
そうした家族のひと幕は関係ないと言う風にショーは進行する。
父は興奮した胸に手を当て、口を閉ざして熱を冷ましてからまた喋る。
「積もる話もあるだろう。一先ずここを離れよう」
母と娘の手を取った父は嬉々として人混みを無理矢理押しのけて歩く。あたしは混乱を極めていた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる