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3章 死神が誘う遊園地
支配される魂、抗う 1
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暗闇の静寂に包まれて嘆き続けた。涙が枯れても嘆き続けた。幾分の時が過ぎただろうか、いつしか感情も枯れた。
深く項垂れ、だらしなく広がる脚を眺める。
カンダタが見つめていたのは立つ気力を失った脚ではない。記憶を巡らせ、最も幸せを感じていた日々の思い出が視界に広がっていた。
日差しで照らされた濡烏色の髪に触れる。彼女からしてみれば不意打ちだったのだろう。紅柘榴は頰を赤くして顔を隠す。そういった仕草は珍しく、こちらもつられて赤くなってしまう。
すると、紅柘榴は触れてきた手を重ね、指を絡ませる。心臓がより大きく膨らみ、より小さく縮む。荒々しい動作が心臓は壊れてしまいそうだ。
「一緒だね」紅柘榴が囁く。彼女と同じ赤い頬に向けて言っていた。
そうだ、一緒だ。2人は1つの感情を共有している。それがどうしようもなく手放し難い。
孤独を押し付ける暗闇の静寂も身が凍える空気にも目を背け、カンダタは思考を止め、過ぎた過去に浸る。
「カンダタさん」
それは逃避したはずの現実から聞こえてきた。春の匂い、紅柘榴の声。あの幻が戻ってきたのかと視線を向ける。赤い着物の彼女がこちらを見上げていた。
「べに、俺は」
いや、あれはべにではない幻だ。ついそう呼んでしまっただけだ。
「私は翡翠です。紅柘榴ではありません」
冷水をかけてくるような凛とした声。頭に疑問符が浮かび、目蓋を2度、上下させる。
カンダタの前には10歳くらいの少女が身を屈めてこちらを見ていた。頭につけた翡翠の玉の簪には見覚えがある。
幼い顔立ちも声帯も全くの別人だというのにカンダタは翡翠と紅柘榴を重ねてしまっていた。
翡翠は手に持った鍵でカンダタの拘束具を外していく。翡翠の行動に戸惑う。
「何を」
混乱した考えを整え、言葉を整理する。
「俺を解放していいのか?」
「状況が変わりました」
拘束具よってできた赤い痣を摩る。カンダタを縛るものがなくなったとしてもどこにも行けない。行こうとも思えない。
「お父様と翠玉を助けてください」
拘束具を外した翡翠が乞うように求める。
「なんで、俺に?」
「酷いことをしたのに身勝手なお願いだと思います。でも、私だけではどうにも出来ないから」
人形の瞳に涙が溜まる。父とは首のことだろう。ならば、翠玉は姉妹だろうか。親しい間柄のようだ。
悲痛に乞う少女に申し訳なくなり、顔を逸らす。
翡翠からしてみれば無情な男に見えるだろう。それは誤解だ。助けられるのならそうしたい。だが、身体が動かないのだ。体内の骨が鉛になってしまった。思考もそれと同じだ。カンダタそのものが鉛になったようだ。
「お願いします」
ついに堪えていた涙が溢れてしまう。
この子を見ていると紅柘榴を連想する。別人だというのに重なる。
「泣かないでくれ。べにを泣かせてるみたいだ」
頬に伝う涙を拭ってあげる。まるで紅柘榴を泣かしてしまった錯覚に陥る。
「私が紅柘榴に、ですか?」
カンダタは頷き、溜息を落とす。そしてある事実に気付く。
「紅柘榴の呼び名を知っていたのか?」
「お父様が彼女のことを話していました」
「他には?」
翡翠は困ったように顔を曇らせる。首も詳しくは教えていないようだ。
カンダタは紅柘榴をべにと呼んでいた。愛称として親しんできた名だ。他にべにと呼んでいたのは誰だろうか。
首との会話を思い出す。あの会話では一度も「べに」と口にしていない。首は紅柘榴の愛称を何故知っていたのか。
“自ら命を絶った”首の言葉を一文一句正確に思い出す。“私が見つけた時には遅かった” “呼び名は、カンダタでいいかね”首が最初に話しかけた言葉。それが思い出されると鉛の呪いが解かれ、カンダタは立ち上がった
深く項垂れ、だらしなく広がる脚を眺める。
カンダタが見つめていたのは立つ気力を失った脚ではない。記憶を巡らせ、最も幸せを感じていた日々の思い出が視界に広がっていた。
日差しで照らされた濡烏色の髪に触れる。彼女からしてみれば不意打ちだったのだろう。紅柘榴は頰を赤くして顔を隠す。そういった仕草は珍しく、こちらもつられて赤くなってしまう。
すると、紅柘榴は触れてきた手を重ね、指を絡ませる。心臓がより大きく膨らみ、より小さく縮む。荒々しい動作が心臓は壊れてしまいそうだ。
「一緒だね」紅柘榴が囁く。彼女と同じ赤い頬に向けて言っていた。
そうだ、一緒だ。2人は1つの感情を共有している。それがどうしようもなく手放し難い。
孤独を押し付ける暗闇の静寂も身が凍える空気にも目を背け、カンダタは思考を止め、過ぎた過去に浸る。
「カンダタさん」
それは逃避したはずの現実から聞こえてきた。春の匂い、紅柘榴の声。あの幻が戻ってきたのかと視線を向ける。赤い着物の彼女がこちらを見上げていた。
「べに、俺は」
いや、あれはべにではない幻だ。ついそう呼んでしまっただけだ。
「私は翡翠です。紅柘榴ではありません」
冷水をかけてくるような凛とした声。頭に疑問符が浮かび、目蓋を2度、上下させる。
カンダタの前には10歳くらいの少女が身を屈めてこちらを見ていた。頭につけた翡翠の玉の簪には見覚えがある。
幼い顔立ちも声帯も全くの別人だというのにカンダタは翡翠と紅柘榴を重ねてしまっていた。
翡翠は手に持った鍵でカンダタの拘束具を外していく。翡翠の行動に戸惑う。
「何を」
混乱した考えを整え、言葉を整理する。
「俺を解放していいのか?」
「状況が変わりました」
拘束具よってできた赤い痣を摩る。カンダタを縛るものがなくなったとしてもどこにも行けない。行こうとも思えない。
「お父様と翠玉を助けてください」
拘束具を外した翡翠が乞うように求める。
「なんで、俺に?」
「酷いことをしたのに身勝手なお願いだと思います。でも、私だけではどうにも出来ないから」
人形の瞳に涙が溜まる。父とは首のことだろう。ならば、翠玉は姉妹だろうか。親しい間柄のようだ。
悲痛に乞う少女に申し訳なくなり、顔を逸らす。
翡翠からしてみれば無情な男に見えるだろう。それは誤解だ。助けられるのならそうしたい。だが、身体が動かないのだ。体内の骨が鉛になってしまった。思考もそれと同じだ。カンダタそのものが鉛になったようだ。
「お願いします」
ついに堪えていた涙が溢れてしまう。
この子を見ていると紅柘榴を連想する。別人だというのに重なる。
「泣かないでくれ。べにを泣かせてるみたいだ」
頬に伝う涙を拭ってあげる。まるで紅柘榴を泣かしてしまった錯覚に陥る。
「私が紅柘榴に、ですか?」
カンダタは頷き、溜息を落とす。そしてある事実に気付く。
「紅柘榴の呼び名を知っていたのか?」
「お父様が彼女のことを話していました」
「他には?」
翡翠は困ったように顔を曇らせる。首も詳しくは教えていないようだ。
カンダタは紅柘榴をべにと呼んでいた。愛称として親しんできた名だ。他にべにと呼んでいたのは誰だろうか。
首との会話を思い出す。あの会話では一度も「べに」と口にしていない。首は紅柘榴の愛称を何故知っていたのか。
“自ら命を絶った”首の言葉を一文一句正確に思い出す。“私が見つけた時には遅かった” “呼び名は、カンダタでいいかね”首が最初に話しかけた言葉。それが思い出されると鉛の呪いが解かれ、カンダタは立ち上がった
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