糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

支配される魂、抗う 3

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   何かしらの慰めの言葉を言ってやるべきだったが、カンダタにはそれができなかった。
   “俺が会いたいのはべにだ。お前じゃない”
   幻に言い放った言葉を今になって後悔する。あれはカンダタが無意識のうちに作った幻だ。それに対して後悔とは馬鹿げた話である。
   しかし、本物の娘になれない翡翠を見ていると自責の念が押し寄せてくる。
  カンダタが押し込められていた独房から出ると絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリアが並んでいた。独房に目線を戻せば冷たいコンクリートに囲まれた暗い室内がある。
   明暗の差がある室内と回廊。
   「この階は宴会ホールになっているので。ここは中ホールが三つあります」
   翡翠が説明を加える。別に聞かなくともいい情報なのだが、疑問が出来てしまたら説明しなければならないのが彼女なのだろう。
   従者として仕込まれた翡翠のプログラムだ。仕方がないことだが、説明を聞く時間もない。
   「急ぎだろ。近道はどこだ?」
   翡翠は一度、口を噤む。自身が成すべきことを思い出すと向こうにある大ホールに指を指す。
   首を攫った政蔵はホテルの最上階に向かっている。追いつくには階段よりもエレベーターが速い。
   そのエレベーターは大ホールを横断してバックヤードに目的のエレベーターがあるらしい。説明を聞いてもよくわからないので黙って翡翠についていく。
   大ホールの観音開きの扉を少しだけ開き、中の様子を伺う。
   ホールの中央には巨大なぬいぐるみが佇み、その周りでキャストが忙しなく働いている。PCを操作する者、担架を押して移動する者、記録する者。キャストの数が多い。
   翡翠はここを横断すると言っっていた。忍んで横切るには人が多い。そして、中心に陣取る薄汚いピンクの熊みたいな象のぬいぐるみ。あれが話で聞いていたバクだろう。
   「キャストは気にせずに、横を通って行けます」
   「あれも俺たちを襲うんじゃないのか?」
   「地上のキャストと地下のキャストは統轄されてるサーバーが違います。キャストの不具合が起きた際、地下のキャストは正常でした。政蔵はその時にキャストのプログラムを書き換えたのだと思われます」
   「ええと、つまり?」
   「私が歩いてもキャストは規定通りに作業を進めます。でも、急いだほうがいいです。いつ政蔵がプログラムを書き換えるかわかりませんから」
   理解できない部分はあるが、今は歩いても平気だと曖昧に解釈する。
   翡翠が急いだほうがいいと言うので、カンダタは扉を開け、ホールの中へと入る。
   中に入った途端、1人のキャストと目が合い心臓が跳ね上がるも、翡翠が「視察です」と告げると笑顔で通り過ぎる。
   「急ぎましょう」
   目が合っただけで怯えるカンダタとは違って翡翠は冷静である。自身よりも小さな少女にそうした違いを見せられらと情けなくなる。
   大ホールと言われた会場の内部は工場と変わりがなかった。
   床には線路がひかれ、その上をトロッコが走る。トロッコに積まれていたのは人の四肢で、キャストはそれをバグ腹部にある口腔に投げ入れる。口腔は人の死骸で一杯になっていた。
   「2体目のバグは貯蔵庫として使う予定なんです」
   翡翠が責務を全うしようと説明をする。カンダタには到底理解できない内容だった。
   「騒動が治った後、輪廻に還します。命は返せませんが、魂は解放できます」
   説明の最後に懺悔のような言葉を付け加える。
   「それが翠玉と決めたことだから」
   表情を伺うも、翡翠は無表情だった。ただ、翡翠にとっての翠玉は偉大なのだと悟る。
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