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3章 死神が誘う遊園地
支配される魂、抗う 14
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あたしたちを乗せたゴンドラはポートエリアを一周して、終着点に近づく。
ベネツィアに似せた街の細道を歩く放浪者は皆、笑顔でマネキンと寄り添う。ついさっき起きた地震を気にしていない。
それもそうよね。これは不安、不満のない夢なのだから。
「このエリアもデザインしたの?」
「思い出のものを再現したんだ。結婚前はよくベネツィアに旅行しに行ったんだ」
父も現実より偽りを選んで生きている。それは悪ではないと心が囁く。そこには幸福がある。誰も傷つかない、傷つけない。それが幸福だと囁く。
そうかもしれない。皆、幸福を望んでいる。苦い蜜を吸いたい奴はいない。
あたしの幸福は偽りにある。少なくとも過去の幸福はそうだった。偽りの愛にあたしは満たされていた。
「欲しい物なら揃える。何が欲しい?料理できるキッチン?レストランのディナー?」
「叔母のマーマレード」
ぽつりと返す。予想してなかった答えに父は眉を顰めた。
「エルザよ。母の姉」
「そういえば、そんな人もいたな。よしわかった。作ってやろう」
何でもないように言うものだからあたしは失笑してしまう。
「無理よ。再現できないわ。あれは特別だもの」
何度、試してみてもあの味は再現できなかった。叔母のマーマレードも食べたことがないのに軽々しく「できる」と言ってしまう無知さが可笑しい。
叔母のマーマレードは朝には欠かせない。あれがないと1日が始まらないから。だからあたしは残酷な言葉を選ぶ。
「ねぇ、あたしの名前呼んでみてよ」
「いきなりどうした?」
「いいから」
「そんな急かさず時間はたくさんあるんだ。ほら、ポップコーンは?さっきから食べていない」
父は曖昧に笑う。照れ隠しするような仕草を見せて、あたしにポップコーンを差し出す。
「覚えていないんでしょ?」
父の作り笑いが消えた。隠していた動揺が手先に表れてポップコーンのケースが揺れると粒が2、3個落ちる。
「やっぱりね」
父と会話している最中、一度も名前を呼ばれていないことに気付いた。それだけじゃない。子供の頃、父に呼ばれた記憶がない。
母以外の人間はどうでもいい人なんだ。母に姉がいても、いたことさえ忘れる。
そうよ、この人は名前が思い出せないんじゃなくて、娘の名前すら覚えようともしなかった。
この人は母に似た人を母と重ねて母と会話しただけ。
「何が真実の愛だ。胸糞悪い」
動揺はない、迷いはない。胸に涌いたのは殺意の衝動。
気が付けば、隠しておいたナイフがあたしの手に収まっていた。
気が付けば、立ち上がって父に向けてナイフを振り上げていた。
父は向けられた刃から逃れようと父は向けられた刃から逃れようと身体を退けたけれど、水面上のゴンドラでは逃げ場がない。
安定しないゴンドラが大きく揺らいでポップコーンが床に散らばる。バランスを保とうと足は力強く踏みつけてポップコーンを潰す。キャラメルの香りが足裏で弾けた。
ベネツィアに似せた街の細道を歩く放浪者は皆、笑顔でマネキンと寄り添う。ついさっき起きた地震を気にしていない。
それもそうよね。これは不安、不満のない夢なのだから。
「このエリアもデザインしたの?」
「思い出のものを再現したんだ。結婚前はよくベネツィアに旅行しに行ったんだ」
父も現実より偽りを選んで生きている。それは悪ではないと心が囁く。そこには幸福がある。誰も傷つかない、傷つけない。それが幸福だと囁く。
そうかもしれない。皆、幸福を望んでいる。苦い蜜を吸いたい奴はいない。
あたしの幸福は偽りにある。少なくとも過去の幸福はそうだった。偽りの愛にあたしは満たされていた。
「欲しい物なら揃える。何が欲しい?料理できるキッチン?レストランのディナー?」
「叔母のマーマレード」
ぽつりと返す。予想してなかった答えに父は眉を顰めた。
「エルザよ。母の姉」
「そういえば、そんな人もいたな。よしわかった。作ってやろう」
何でもないように言うものだからあたしは失笑してしまう。
「無理よ。再現できないわ。あれは特別だもの」
何度、試してみてもあの味は再現できなかった。叔母のマーマレードも食べたことがないのに軽々しく「できる」と言ってしまう無知さが可笑しい。
叔母のマーマレードは朝には欠かせない。あれがないと1日が始まらないから。だからあたしは残酷な言葉を選ぶ。
「ねぇ、あたしの名前呼んでみてよ」
「いきなりどうした?」
「いいから」
「そんな急かさず時間はたくさんあるんだ。ほら、ポップコーンは?さっきから食べていない」
父は曖昧に笑う。照れ隠しするような仕草を見せて、あたしにポップコーンを差し出す。
「覚えていないんでしょ?」
父の作り笑いが消えた。隠していた動揺が手先に表れてポップコーンのケースが揺れると粒が2、3個落ちる。
「やっぱりね」
父と会話している最中、一度も名前を呼ばれていないことに気付いた。それだけじゃない。子供の頃、父に呼ばれた記憶がない。
母以外の人間はどうでもいい人なんだ。母に姉がいても、いたことさえ忘れる。
そうよ、この人は名前が思い出せないんじゃなくて、娘の名前すら覚えようともしなかった。
この人は母に似た人を母と重ねて母と会話しただけ。
「何が真実の愛だ。胸糞悪い」
動揺はない、迷いはない。胸に涌いたのは殺意の衝動。
気が付けば、隠しておいたナイフがあたしの手に収まっていた。
気が付けば、立ち上がって父に向けてナイフを振り上げていた。
父は向けられた刃から逃れようと父は向けられた刃から逃れようと身体を退けたけれど、水面上のゴンドラでは逃げ場がない。
安定しないゴンドラが大きく揺らいでポップコーンが床に散らばる。バランスを保とうと足は力強く踏みつけてポップコーンを潰す。キャラメルの香りが足裏で弾けた。
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