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3章 死神が誘う遊園地
支配される魂、抗う 15
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いつの間にか楽しい喧騒は突如、出現した鬼たちによって悲鳴に上書きされた。叫び声と金切り声と血の臭いが充満する。
地獄絵図に似た風景だ。ここが地獄なら娘が父を殺そうとしてもそれは自然の一部だろう。
殺意の衝動をわけのわからない理屈で納得させた。
嫉妬、憎悪、厭忌、寂寥。負の感情と言えるものは全てあった。そういったどす黒い感情が殺意の衝動を生んだのか、それとも衝動から感情が生まれたのか。
判別する余裕もない。感情と衝動が同時に叫ぶ。殺せ、と。
躊躇いはなかった。けれど、振り下ろしたナイフは父に届かなかった。
ゴンドラが桟橋に到着したのと同時に背後から手首を掴まされた。
あたしを捕えたそいつは足場が少ないゴンドラの上で水没しまいと身体を舟板の床にむけて体重をかけ、あたしたちは横倒れとなった。倒れた反動でナイフが放れた。
あたしは掴まれた手を振り解き、ナイフを拾う。
「瑠璃!」
立ち上がろうとしたあたしにカンダタが叫ぶ。ゴンドラに乱入してきた彼は殺人を食い止めようとあたしの身体を自分のほうへと引き寄せる。あたしは反対の力で抑止する腕に抗う。
乱入してきたカンダタに驚きはしなかった。桟橋で乱闘を見守る翡翠にも、なぜ2人が一緒にいるにかも疑問に思わなかった。
あたしの眼中にあるのは目の前にいる父。魂を支配しているのは黒い感情と黒い衝動からの命令、殺せ。
「放して!」
殺せ。あいつを殺して楽になれ。
「駄目だ!」
楽になれ。重荷を捨てろ。
「殺させてよ!」
楽になれ。楽になれ。
「楽にさせてよ!」
もう何も感じたくない。
「それでも!生きてきたんだろ!」
カンダタの声がはっきりと聞こえた。発した言葉を聞き取った。
感情もいらない。不幸があるなら幸福もいらない。迷いたくもないし苦悩もしたくない。父でも他人でも、誰かを殺せばあたしの心も殺せる。それが黒い衝動の正体だった。
身体中の力が抜けて行くのを感じる。手からナイフが滑り落ちた。
振り返ればカンダタが赤い眼であたしを見据えていた。カンダタは遠くから走ってきたみたいで肩で息をしていた。
「今までずっと生きてきたんだろ。捨てたフリして、孤独が好きなフリして、自分を偽ってでも生きてきたんだろ」
生命を語る赤い眼が絶望し死んだ青い眼を見つめて言う。
あたしの過去を知らないくせに見てきたように言わないでほしい。
唇が震える。文句が言えない。抜けた力が戻ってこない。
カンダタの言葉で傷ついたわけじゃない。なのに、なんでこんなにも。
「あた、し、は」
詰まった言葉をなんとか吐き出そうと震える唇から震える空気を吐き出す。すると、胃の底から逆流するものを感じ取り、鼻の奥から熱を帯びた液体が流れる。
吐血と鼻血は同時だった。頭と腹をトンカチで殴られているような激痛に襲われ、目から血が流れだす。更に倦怠感が身体を縛る。この症状、前にもあった。
「瑠璃?」
カンダタはあたしの異変に狼狽し、どこか怪我を負ったのかと身体を探る。目で見る限り、怪我はない。しかし、肌で揺らめいてはためくそれに戦慄する。黒蝶だ。
「これは?なんで瑠璃が?」
「拒絶反応だ」
見上げてみると父が目前に立っていた。そしてカンダタの眼前に拳銃の丸い口が向けられていた。恐怖、驚愕によって目が丸くなり、息を呑んだ瞬間、銃声が響く。
地獄絵図に似た風景だ。ここが地獄なら娘が父を殺そうとしてもそれは自然の一部だろう。
殺意の衝動をわけのわからない理屈で納得させた。
嫉妬、憎悪、厭忌、寂寥。負の感情と言えるものは全てあった。そういったどす黒い感情が殺意の衝動を生んだのか、それとも衝動から感情が生まれたのか。
判別する余裕もない。感情と衝動が同時に叫ぶ。殺せ、と。
躊躇いはなかった。けれど、振り下ろしたナイフは父に届かなかった。
ゴンドラが桟橋に到着したのと同時に背後から手首を掴まされた。
あたしを捕えたそいつは足場が少ないゴンドラの上で水没しまいと身体を舟板の床にむけて体重をかけ、あたしたちは横倒れとなった。倒れた反動でナイフが放れた。
あたしは掴まれた手を振り解き、ナイフを拾う。
「瑠璃!」
立ち上がろうとしたあたしにカンダタが叫ぶ。ゴンドラに乱入してきた彼は殺人を食い止めようとあたしの身体を自分のほうへと引き寄せる。あたしは反対の力で抑止する腕に抗う。
乱入してきたカンダタに驚きはしなかった。桟橋で乱闘を見守る翡翠にも、なぜ2人が一緒にいるにかも疑問に思わなかった。
あたしの眼中にあるのは目の前にいる父。魂を支配しているのは黒い感情と黒い衝動からの命令、殺せ。
「放して!」
殺せ。あいつを殺して楽になれ。
「駄目だ!」
楽になれ。重荷を捨てろ。
「殺させてよ!」
楽になれ。楽になれ。
「楽にさせてよ!」
もう何も感じたくない。
「それでも!生きてきたんだろ!」
カンダタの声がはっきりと聞こえた。発した言葉を聞き取った。
感情もいらない。不幸があるなら幸福もいらない。迷いたくもないし苦悩もしたくない。父でも他人でも、誰かを殺せばあたしの心も殺せる。それが黒い衝動の正体だった。
身体中の力が抜けて行くのを感じる。手からナイフが滑り落ちた。
振り返ればカンダタが赤い眼であたしを見据えていた。カンダタは遠くから走ってきたみたいで肩で息をしていた。
「今までずっと生きてきたんだろ。捨てたフリして、孤独が好きなフリして、自分を偽ってでも生きてきたんだろ」
生命を語る赤い眼が絶望し死んだ青い眼を見つめて言う。
あたしの過去を知らないくせに見てきたように言わないでほしい。
唇が震える。文句が言えない。抜けた力が戻ってこない。
カンダタの言葉で傷ついたわけじゃない。なのに、なんでこんなにも。
「あた、し、は」
詰まった言葉をなんとか吐き出そうと震える唇から震える空気を吐き出す。すると、胃の底から逆流するものを感じ取り、鼻の奥から熱を帯びた液体が流れる。
吐血と鼻血は同時だった。頭と腹をトンカチで殴られているような激痛に襲われ、目から血が流れだす。更に倦怠感が身体を縛る。この症状、前にもあった。
「瑠璃?」
カンダタはあたしの異変に狼狽し、どこか怪我を負ったのかと身体を探る。目で見る限り、怪我はない。しかし、肌で揺らめいてはためくそれに戦慄する。黒蝶だ。
「これは?なんで瑠璃が?」
「拒絶反応だ」
見上げてみると父が目前に立っていた。そしてカンダタの眼前に拳銃の丸い口が向けられていた。恐怖、驚愕によって目が丸くなり、息を呑んだ瞬間、銃声が響く。
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