糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

支配される魂、抗う 16

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   凶悪な弾丸は水面を撃ち、水路の底に沈んだ。
   弾道をずらしたのは翡翠であった。引き金に指を当てる寸前、翡翠は腕にしがみついた。
   「この!ガキ!」
   翡翠を振り払おうと髪を鷲掴みにして引っ張るも少女は強く歯を食い込ませる。邪魔された苛立ちと噛まれる痛み。妨げになるものは排除しなければ。
   そうした考えは拳銃を持つ手を変えた。カンダタは弾け飛ぶように身体を起こし、翡翠との間に割って入ろうとした。すでに遅かった。
   飛ばした弾丸は翡翠の身体を飛ばす。翡翠が水路に落ちる前にカンダタが受け止める。左腕を腰に回し、撃たれた頭を揺らさないよう右手で添えた。
   咄嗟の動きであり、足場が安定しない舟の上だ。翡翠をうまく受け止めてもカンダタ自身の均衡が保てず膝をつく。
   安否を確認するよりも先にカンダタを失意させたのは右手に伝わるどろりとした感触。虚ろな眼が翡翠の消滅を示していた。
   撃たれた痛みがカンダタにも伝わってきそうだ。カンダタは愕然とし、危機感さえも消失させていた。
   父はカンダタの胸に銃口を突き当てる。カンダタは避けようともしない。
   「子供だぞ?」
   それがカンダタの言い分だった。
   「子供は嫌いなんだ」
   それが父の返しだった。
   弾丸が撃たれ、カンダタは大きく仰け反った。身体が転がり、苦痛で呻る声が血と共に吐かれる。心臓は撃たなかったらしい。
   あたしは鈍痛と吐き気、倦怠によって起き上がることさえできずにいた。父を睨む。
   「エマはそんな顔をしない」
   父は向き直り、しゃがむとあたしの前髪を優しい指で掻き上げる。
   「辛いな、すまなかったなエマ」
   まるで亡き母と会話と会話をするようにあたしに話しかける。
   「あたしは、ママ、じゃない」
   重い唇と重い舌に鞭を打って否定する。
   「そうだな。まだエマじゃない」
   水面が大きく揺れた。地震と表現するよりも巨大な生物が地を踏みつける揺れだ。
   「何度も試作したんだ。エマに会いたくて。できるのは出来損ないのポンコツばかりだった。俺のエマじゃない」
   揺れが大きくなる。巨大生物は水都の美しい建築物を積み木みたく破壊し、あたしたちに近づいてくる。
   「試作の山を作ってやっとわかった。塊人は必ず心が欠けている。1から作るからうまくいかないんだ。ベースになる魂が必要だ」
   汚いピンク色をした怪物が瓦礫山を増やしながらあたしたちの前に現れた。
   「今、俺の手にエマの生き写しがいる」
   真実の愛に盲信した馬鹿な奴だと思っていた。生半可な言葉じゃ合わない。完全に狂ってる。
   こいつはあたしに魂のプログラムを施して血の繋がった娘を妻の代わりにさせるつもりなんだ。
   「これが愛の証明だ。俺は何でも犠牲にできる。真実の愛の為ならなんでも」
   母は蘇らない。あたしの魂を改変してもできるのは父に従順で父に一途な別人だ。実際の母はそれと真逆の生き物だった。
   そうした事実を受け入れず、何を再現しようというの?
   倫理観も道徳心もない。
   「死ね」
   最後の力振り絞って、呪いの言葉を吐く。
   父は微笑み、あたしを抱き上げるとバグの手のひらに飛び移る。それを待っていたバグはホテルに向かって歩き出す。
   意識が薄れていく。
   「もうすぐ会えるよエマ、もうすぐだ。これが俺の愛だ。真実の愛だ」
   それが最後に聞き取ったものだった。
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