糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

痛みの共鳴 6

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   地下室が大きく揺れる。地上で何かが暴れているようだ。
   あたしは涙を拭ってハクの肩にしがみついた。抱擁してもらいたいわけじゃなく、運んでもらう為だ。
   「カンダタのとこへ」
   行き先はあたしがこんな心境になってしまった原因のもとへ。
   ハクは迷っていたが、意を決してあたしを抱き上げると言われた通りにカンダタの所まで運んでくれた。
   カンダタは演劇部惨殺事件の時と状況が似ていた。背中を割いて8本現れた蜘蛛の脚と項垂れる頭。違っていたのはカンダタの呼吸が落ち着いていたこと。
   ある程度、自力で歩ける距離まで近づくと降ろしてもらった。
   頭が揺れるたびに頭蓋骨が悲鳴をあげ、あたしの思考を妨げる。
   本当は思考なんてものを捨てたい。前にも進みたくない。
   けれど、それすらもできなくなってしまった。あたしの中で生まれたどす黒い感情がそれを許さなかった。
   父と母から生まれた感情であり、成長してからもあたしが否定し続けた感情であり、カンダタ言葉によって認めてしまった感情だ。
   蜘蛛の脚を避けてカンダタの前まで来ると膝をついて目線を落とす。
   「元気、そうだな」
   千鳥足で、頭蓋骨には穴が空いていて、血が滴っているあたしにカンダタが嫌味を言ってくる。
   「あんたもね」
   嫌味を嫌味で返すとカンダタは弱々しく笑った。
   背中を裂かれた痛みと黒蝶に心臓を握られた緊張がカンダタを苦しめる。笑っていられたのは彼が諦めていたからだ。
   「目が覚めてよかった」
   嫌味ではなく、心からくる安堵だった。目的を成し遂げたような、やりきった顔。
   「瑠璃は帰れ」
   「カンダタは?」
   「べにについて首に聞こうとしたんだ。けど、奴は消滅した。何も得られなかった。もう疲れた」
   全てを悟ったように諦めてカンダタは目蓋を落とす。
   「現世に俺の居場所はない。あそこは生者の世界だ」
   自分は死人だからと憂いた言い方に拳を握る。
   “捨てたフリして、孤独が好きなフリして、自分を偽ってでも生きてきた”
   カンダタに言われた言葉。あれがなければあたしの中で育った感情に気付かずに済んだ。
   そうするしかなかった。あたしには「生きる」しか残されたていなかったから。
   痛みなんて感じたくない。けれど、どす黒い感情の棘があたしを刺すから平然を装うしかなかった。いずれ棘は心臓を破壊する。
   だから、自分を偽った。「生きる」しかないから心を殺した。
   カンダタはあたしに生の痛みを押しつけた。なのに、自分はこの夢に留まるという。全てを諦めて自我を放棄すると言う。
   あたしを生き地獄に落としておいて自分は諦めの微笑を浮かべて極楽にいる。それが許せない。
   「ふざけるな」
   握った拳がカンダタの襟を掴む。
   そんなところに立つな、笑うな。カンダタがあたしを落としたなら同じところまで引きずり落としてやる。
   「諦めたフリをするな死んだフリするな」
   項垂れていた顔が上がる。怒りで震えたあたしの声に戸惑う。
   「あんたを、カンダタをここまで来させたのは何?」
   「それは翡翠が」
   「そんなの口実じゃない。建前よ。カンダタはカンダタの為に来たのよ」
   あたしは指を差す。その方向には父がいた。
   「カンダタはあいつを殺しに来たのよ」
   「違う」
   即座に否定した言葉には熱量があった。
   「翡翠を殺されて、怒りでここに来たのよ」
   「違う、やめろ」
   「自分が死人と言っておいて、紅柘榴になれば躍起になる!カンダタだって捨てきれていないじゃない!」
   「違う!」
   吐き出す感情に呼応してカンダタも叫ぶ。その拍子に項が痛む。
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