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4章 闇底で交わす小指
夏と秋の狭間で 6
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理解が追いつかないカンダタは外で待機するケイに説明を求めた。
説明をさせるのならば光弥が適任なのだが、あの後、病室を出ようとせず、もう1人の自分を前にして立ち竦んだままだ。
「あれは光弥の生体だ」
短略された説明を脳内で解いてみる。
病室で寝たきりになっているもう1人の光弥。あれが生体だとするならば、光弥は現世の人間ということになる。
「光弥は塊人じゃないのか?」
塊人はハザマで造られるものらしい。生体があるのならば、瑠璃や清音のように成長し、老化する生きていく人のはずだ。
しかし、ケイは首を横に振る。
「半分は塊人だ」
「残りの半分は?」
「生体のものだ」
そう言うとケイは仰ぐ。見遣る先には病室の窓がある。
あの病室はもう1人の光弥がいる。植物状態の少年は「菅井 光」と言う名前を持っていた。
「つまり、弥があの光という子から魂を攫って塊人したっていうことか?菅井 光が光弥の本来の姿だと」
ケイは頷く。
病室の窓から女性が現れ、窓辺に置かれた花瓶の花を代えている。少しだけ老けた彼女は菅井 光の母親だろう。
ケイと合流するまで軽く病院内を調べた。調べるといってもカンダタにできるのは盗み聞きぐらいだ。
菅井 光が植物状態になったのは5歳の時だそうだ。予兆や怪我もなく、頭をぶつけたわけでもない。唐突に倒れたそうだ。身体は健康そのもであり、異常はなし。なのに、目を覚さない。
原因は見つからないまま、9年経っているという。母親は週に3回、見舞いに来ては息子の目覚めを9年間待っているという。
5歳の時に弥が光の魂を攫ったのだろう。光弥にその記憶がないのはそうしたプログラムを組み込まれているからだ。
光弥が病院を出たのは夕方あたりだった。ずっとあの病室にいたようだ。
9年。奪われた時間を前にして光弥は何を考えたのか。夕闇に染まる道を歩く彼はひたすらに無言で無感情だった。無感情を装うのはそうするしか感情を整理できないからだ。
光弥に対して共感した事はない。価値観も合わない相手だ。だが、夕闇に溶けそうになる彼の背中を見ていると哀れみの感情が湧いてくる。
すっかり馴染みになった街に戻ると光弥はふらふらとどこかへ行ってしまった。カンダタもケイもその背中は追わなかった。
太陽は沈み、月が輝く。夜道となっていた。街灯が歩道を照らし、ケイは塀の上を歩く。
「付き合わせたな」
こんなに遅くなるとは考えていなかった。
カンダタが光弥に付き添ったのは桐 首が残した僅かな情報を掴みたいからだった。結果、紅柘榴に繋がるものは得られなかった。
なので、ケイまでも付き合う必要はなかったのだ。
「こちらも思惑があった」
だから気にするなと言いたいのだろう。
ケイの思惑とやらはカンダタの観察だ。内にある黒蝶がカンダタにどんな影響を及ぼしているのか。それによって、斬るか斬らないかの判断をするつもりなのだ。
淡々とするケイに敵意はない。今は安全だと判断しているようだ。
「傷は癒えていないんだろ?」
「人の姿にはなれない」
だとすれば刀も振れない。
カンダタと瑠璃が企てたハザマの交渉にはケイが必要だ。交渉が穏便に進むとは思えないからだ。
十如十廻之白御魂は塊人が恐れる代物だが、カンダタたちは扱い方を知らない。そもそもそこまで恐れられるものにも見えない。
強力な武器であったとしても扱い方を知らなければ使えない。カンダタにとって交渉の道具でしか価値がないのだ。
「蝶男は?」
ケイが聞きたいのは蝶男がカンダタ、または瑠璃に接触、前触れがあったかということだ。
「ないな。あれから何も」
カンダタが最後に見たのは演劇部惨殺事件の時だ。夢園では奴の影が見え隠れしたが、姿は
現さなかった。
「ハザマもか?」
「同じく」
これだけ音沙汰がないと日々の暮らしも不安になってくる。
「それでもハザマに行くのか?」
「どういう意味だ」
ケイにはカンダタたちの計画を簡単に話してある。やる事は知っているものの、それに対して不満でもあるのだろうか。
「危険に飛ぶ必要がない」
懸念しているのは最もだ。最近は何事もなく平穏に過ごしている。その平穏を無視して得たいのはたった1人の女性のことだ。割に合わない。
「馬鹿だよなぁ」
自重気味の笑みを溢した。
それでも知りたいのだ。カンダタが死んだ後の彼女を。
目を瞑れば鮮明な輪郭を描いて浮かぶ紅柘榴の姿。
抱きしめたくなる美しい思い出から線となって繋がっているのはあの日の悲劇だ。
幸福を奪われた日、カンダタが死んだ日。
あの日のことを思い出していた。
説明をさせるのならば光弥が適任なのだが、あの後、病室を出ようとせず、もう1人の自分を前にして立ち竦んだままだ。
「あれは光弥の生体だ」
短略された説明を脳内で解いてみる。
病室で寝たきりになっているもう1人の光弥。あれが生体だとするならば、光弥は現世の人間ということになる。
「光弥は塊人じゃないのか?」
塊人はハザマで造られるものらしい。生体があるのならば、瑠璃や清音のように成長し、老化する生きていく人のはずだ。
しかし、ケイは首を横に振る。
「半分は塊人だ」
「残りの半分は?」
「生体のものだ」
そう言うとケイは仰ぐ。見遣る先には病室の窓がある。
あの病室はもう1人の光弥がいる。植物状態の少年は「菅井 光」と言う名前を持っていた。
「つまり、弥があの光という子から魂を攫って塊人したっていうことか?菅井 光が光弥の本来の姿だと」
ケイは頷く。
病室の窓から女性が現れ、窓辺に置かれた花瓶の花を代えている。少しだけ老けた彼女は菅井 光の母親だろう。
ケイと合流するまで軽く病院内を調べた。調べるといってもカンダタにできるのは盗み聞きぐらいだ。
菅井 光が植物状態になったのは5歳の時だそうだ。予兆や怪我もなく、頭をぶつけたわけでもない。唐突に倒れたそうだ。身体は健康そのもであり、異常はなし。なのに、目を覚さない。
原因は見つからないまま、9年経っているという。母親は週に3回、見舞いに来ては息子の目覚めを9年間待っているという。
5歳の時に弥が光の魂を攫ったのだろう。光弥にその記憶がないのはそうしたプログラムを組み込まれているからだ。
光弥が病院を出たのは夕方あたりだった。ずっとあの病室にいたようだ。
9年。奪われた時間を前にして光弥は何を考えたのか。夕闇に染まる道を歩く彼はひたすらに無言で無感情だった。無感情を装うのはそうするしか感情を整理できないからだ。
光弥に対して共感した事はない。価値観も合わない相手だ。だが、夕闇に溶けそうになる彼の背中を見ていると哀れみの感情が湧いてくる。
すっかり馴染みになった街に戻ると光弥はふらふらとどこかへ行ってしまった。カンダタもケイもその背中は追わなかった。
太陽は沈み、月が輝く。夜道となっていた。街灯が歩道を照らし、ケイは塀の上を歩く。
「付き合わせたな」
こんなに遅くなるとは考えていなかった。
カンダタが光弥に付き添ったのは桐 首が残した僅かな情報を掴みたいからだった。結果、紅柘榴に繋がるものは得られなかった。
なので、ケイまでも付き合う必要はなかったのだ。
「こちらも思惑があった」
だから気にするなと言いたいのだろう。
ケイの思惑とやらはカンダタの観察だ。内にある黒蝶がカンダタにどんな影響を及ぼしているのか。それによって、斬るか斬らないかの判断をするつもりなのだ。
淡々とするケイに敵意はない。今は安全だと判断しているようだ。
「傷は癒えていないんだろ?」
「人の姿にはなれない」
だとすれば刀も振れない。
カンダタと瑠璃が企てたハザマの交渉にはケイが必要だ。交渉が穏便に進むとは思えないからだ。
十如十廻之白御魂は塊人が恐れる代物だが、カンダタたちは扱い方を知らない。そもそもそこまで恐れられるものにも見えない。
強力な武器であったとしても扱い方を知らなければ使えない。カンダタにとって交渉の道具でしか価値がないのだ。
「蝶男は?」
ケイが聞きたいのは蝶男がカンダタ、または瑠璃に接触、前触れがあったかということだ。
「ないな。あれから何も」
カンダタが最後に見たのは演劇部惨殺事件の時だ。夢園では奴の影が見え隠れしたが、姿は
現さなかった。
「ハザマもか?」
「同じく」
これだけ音沙汰がないと日々の暮らしも不安になってくる。
「それでもハザマに行くのか?」
「どういう意味だ」
ケイにはカンダタたちの計画を簡単に話してある。やる事は知っているものの、それに対して不満でもあるのだろうか。
「危険に飛ぶ必要がない」
懸念しているのは最もだ。最近は何事もなく平穏に過ごしている。その平穏を無視して得たいのはたった1人の女性のことだ。割に合わない。
「馬鹿だよなぁ」
自重気味の笑みを溢した。
それでも知りたいのだ。カンダタが死んだ後の彼女を。
目を瞑れば鮮明な輪郭を描いて浮かぶ紅柘榴の姿。
抱きしめたくなる美しい思い出から線となって繋がっているのはあの日の悲劇だ。
幸福を奪われた日、カンダタが死んだ日。
あの日のことを思い出していた。
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