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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 幸せな夢 2
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露店まで向かう俺の背中を紅柘榴は不安な目をしていたが、言われた通りにその場で待つ。
紅柘榴からしてみれば、一時も離れたくないのが本心だ。慣れない場所での見知らならない人ばかりの目線。
心配させないよう手を握ってもらうのは控えたが、一人になると不安は増す。
落ち着かない心持ちで戻ってくるのを待っていた。
「おやおや、待ちぼうけにされた子がいるなぁ」
「寂しそうな子猫ちゃん、慰めてあげようか」
不安げな顔をしていると二人の男が両脇から歩み寄ってきた。卑猥な目線を隠そうともしない。
紅柘榴は眉を顰めて、顔を俯かせる。
「なぁ、子猫ちゃん」
右側にいる男の手が肩に乗ろうとした。眉間の皺が深くなるのと同時に男の指先に赤い一線が引かれた。
唐突な切り傷に手が怯む。紅柘榴は身を翻し、ある程度の距離をとる。そして、二人の男と対峙し、睨みつける。
擦り傷程度の傷しかついていない。彼らが慄いているのは触れてもないのに刃物で斬られたからだ。奇怪な出来事に男たちは恐怖を抱く。
「子猫でも触れるのが怖いの?」
それに対する冷ややかな言葉。
抱いていた恐怖は怒りに変わり、激昂した赤い顔が紅柘榴に迫る。
男が彼女の襟首を掴む前に紅柘榴の視界は黒い背中に覆われた。
紅柘榴と男たちの間に割って入った俺は温もりのある蒸し饅頭を片手に持ち、険しい表情をしていた。
女一人だと思い込んでいた男たちは俺の乱入にたじろぐ。
「入り用か?」
唸るような低い声に俺自身も驚いていた。こいつらに対する憎悪が抑えられない。蒸し饅頭を持つ手が強くなり、熱を帯びる。
そうした感情が顔に出ている。紅柘榴は俺の横顔まじまじと見ていた。
そこまで長い沈黙は続かなかった。
折れたのは男たちだった。そそくさと走っていく二人の背中を見送り、湧き出ていた怒りが鎮まる。
俺が振り返ると紅柘榴と目が合う。彼女はばつが悪そうにして咄嗟に俯くも赤くなった耳は隠されていない。
少しだけ目を離した。美味しいものを食べさせたかった。それが軽率だった。
手を繋がなかったのは彼女なりに気を遣っていたのだろう。内心では人に怯え、今も堪えきれずに目線を地面に向けている。
「悪かった」
「え?」
俺の謝罪に紅柘榴は戸惑っていた。
「怖かっただろ」
「別に、私は」
「戻ろうか」
無理をさせてしまったのかもしれない。俺は申し訳なさそうに手を差し出す。
その行為に紅柘榴は手と俺を交互に見比べる。
しまった、と自分に対して悪態をつく。手を繋いでいたのは紅柘榴が怯えた子供のようだったからだ。不安を解消したく、彼女もそうしたくて応えていた。
しかし、今は男たちに絡まれてすぐだ。同じ下心があると思われたかもしれない。
もちろん、全くないわけではない。ないわけではないが、不安を解消させたいのも本心だ。この瞬間に下心を切り捨てられたらどれほどよかっただろう。
笑った紅柘榴が差し出した手を重ねる。安心した笑顔。そう思いたい。
「饅頭」
物欲しそうに彼女が見ていたのは片手に持っていた蒸し饅頭だ。怒りに任せた握力で皮が破け、餡が溢れている。どうりで手が熱いわけだ。
「やってしまったな」
苦笑いをし、崩れた饅頭の処分を考える。
「食べたい」
そんな時に突拍子もなく言い出したものだから、俺は目を瞠る。
「私のために買ったんでしょ?」
物欲しげな目線は「私が貰って当然」といった謎の自信があった。
先ほどまでの不安はどこに行ったのか。手を握っただけでいつもの調子に戻る。それだけで笑えてくる。
「馬鹿にしてるでしょ」
俺の内心を悟った紅柘榴が頰を膨らます。
「してないよ。ほら、饅頭だ」
餡がはみ出た格好の悪い蒸し饅頭。それでも機嫌は直り、嬉しそうに食べる。彼女の様子に満足し、手についた餡を舐める。
そして、四角い壁に囲まれた人食い塀に戻ってきた。
「次は川釣りね」
紅柘榴を送った後、去っていく俺の背中に向かって言う。振り返れば寂しそうに眉を垂らして笑う彼女がいた。
もっと色んな所を歩き回ってみたかった。自分のせいでそれができなくなった。そんな寂しそうな顔。
無理をさせたかったわけではない。
「あぁ、一緒に行こう」
日没が降りるよりも先に俺は壁の外へと出た。
紅柘榴からしてみれば、一時も離れたくないのが本心だ。慣れない場所での見知らならない人ばかりの目線。
心配させないよう手を握ってもらうのは控えたが、一人になると不安は増す。
落ち着かない心持ちで戻ってくるのを待っていた。
「おやおや、待ちぼうけにされた子がいるなぁ」
「寂しそうな子猫ちゃん、慰めてあげようか」
不安げな顔をしていると二人の男が両脇から歩み寄ってきた。卑猥な目線を隠そうともしない。
紅柘榴は眉を顰めて、顔を俯かせる。
「なぁ、子猫ちゃん」
右側にいる男の手が肩に乗ろうとした。眉間の皺が深くなるのと同時に男の指先に赤い一線が引かれた。
唐突な切り傷に手が怯む。紅柘榴は身を翻し、ある程度の距離をとる。そして、二人の男と対峙し、睨みつける。
擦り傷程度の傷しかついていない。彼らが慄いているのは触れてもないのに刃物で斬られたからだ。奇怪な出来事に男たちは恐怖を抱く。
「子猫でも触れるのが怖いの?」
それに対する冷ややかな言葉。
抱いていた恐怖は怒りに変わり、激昂した赤い顔が紅柘榴に迫る。
男が彼女の襟首を掴む前に紅柘榴の視界は黒い背中に覆われた。
紅柘榴と男たちの間に割って入った俺は温もりのある蒸し饅頭を片手に持ち、険しい表情をしていた。
女一人だと思い込んでいた男たちは俺の乱入にたじろぐ。
「入り用か?」
唸るような低い声に俺自身も驚いていた。こいつらに対する憎悪が抑えられない。蒸し饅頭を持つ手が強くなり、熱を帯びる。
そうした感情が顔に出ている。紅柘榴は俺の横顔まじまじと見ていた。
そこまで長い沈黙は続かなかった。
折れたのは男たちだった。そそくさと走っていく二人の背中を見送り、湧き出ていた怒りが鎮まる。
俺が振り返ると紅柘榴と目が合う。彼女はばつが悪そうにして咄嗟に俯くも赤くなった耳は隠されていない。
少しだけ目を離した。美味しいものを食べさせたかった。それが軽率だった。
手を繋がなかったのは彼女なりに気を遣っていたのだろう。内心では人に怯え、今も堪えきれずに目線を地面に向けている。
「悪かった」
「え?」
俺の謝罪に紅柘榴は戸惑っていた。
「怖かっただろ」
「別に、私は」
「戻ろうか」
無理をさせてしまったのかもしれない。俺は申し訳なさそうに手を差し出す。
その行為に紅柘榴は手と俺を交互に見比べる。
しまった、と自分に対して悪態をつく。手を繋いでいたのは紅柘榴が怯えた子供のようだったからだ。不安を解消したく、彼女もそうしたくて応えていた。
しかし、今は男たちに絡まれてすぐだ。同じ下心があると思われたかもしれない。
もちろん、全くないわけではない。ないわけではないが、不安を解消させたいのも本心だ。この瞬間に下心を切り捨てられたらどれほどよかっただろう。
笑った紅柘榴が差し出した手を重ねる。安心した笑顔。そう思いたい。
「饅頭」
物欲しそうに彼女が見ていたのは片手に持っていた蒸し饅頭だ。怒りに任せた握力で皮が破け、餡が溢れている。どうりで手が熱いわけだ。
「やってしまったな」
苦笑いをし、崩れた饅頭の処分を考える。
「食べたい」
そんな時に突拍子もなく言い出したものだから、俺は目を瞠る。
「私のために買ったんでしょ?」
物欲しげな目線は「私が貰って当然」といった謎の自信があった。
先ほどまでの不安はどこに行ったのか。手を握っただけでいつもの調子に戻る。それだけで笑えてくる。
「馬鹿にしてるでしょ」
俺の内心を悟った紅柘榴が頰を膨らます。
「してないよ。ほら、饅頭だ」
餡がはみ出た格好の悪い蒸し饅頭。それでも機嫌は直り、嬉しそうに食べる。彼女の様子に満足し、手についた餡を舐める。
そして、四角い壁に囲まれた人食い塀に戻ってきた。
「次は川釣りね」
紅柘榴を送った後、去っていく俺の背中に向かって言う。振り返れば寂しそうに眉を垂らして笑う彼女がいた。
もっと色んな所を歩き回ってみたかった。自分のせいでそれができなくなった。そんな寂しそうな顔。
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「あぁ、一緒に行こう」
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