370 / 644
4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 幸せな夢 3
しおりを挟む
初めて紅柘榴に会った時、俺に対しての恐れは見られなかった。なのに、塀の外に出た途端彼女が怯えるのはなぜか。
その理由を話そうとしない。
ほかにも彼女はいくつかの隠し事をしている。
俺はほぼ毎日、人食い塀を訪れているが、会えないと紅柘榴から言われる。その日だけは絶対に来るな、と。
なぜ会えないのか。一度だけ問い詰めたことがある。その時、紅柘榴はひどく激昂して俺の頬を打った。
それほどまでに拒絶するものがある。彼女の隠し事は俺が触れていいものではないと打ち拉がれた。
「今日は来ないで」と辛そうな顔で言われた。それを言われる度に頼りにされない俺の惨めさを彼女は知らない。いっそのこと、拐ってしまおうか。
苛立ちながらも強い衝動を抑える。今はその時ではない。そう心に言い聞かせる。
港の賑わいに耳を傾けながらの露店の品々を値踏みする。
俺が港まで足を運んだのは町を往来する人の話を聞く為だ。盗賊の噂や少し離れた土地の治安を知りたかった。
いずれは塀の外で暮らしたい。
そのことを紅柘榴には話していない。まだ頭の中でぼんやりと浮かんでいるだけだ。
現状維持でもいいではないか、と頭の片隅でもう一人の自分が囁く。
確かに困っている事はない。人食い塀に行けば紅柘榴が迎えてくれる。土産を持ってくれば喜んでくれる。
喜び、はしゃぐ笑顔とは裏腹に暗い影が彼女にはある。そうした表情を時折みかける。影の正体はわからない。話したがらない。だが、影を恐れているのは確かだ。
その影が見えない鎖で紅柘榴を縛り、肌に食い込んでいる。
その鎖を断ち切りたい。紅柘榴が怯えずに済む日常。俺が望んでいるのはそういうものだ。
竹籠に積まれた柘榴の果実が目に入った。紅柘榴と同じ名前の果実。
主人と思われる人物はいない。出かけているのだろう。辺りを気にしながらなんともない素振りで柘榴を懐に忍ばせた。
これを紅柘榴の土産にする。
次は旅籠屋の周りでも行ってみようか。
俺が港から離れ、しばらくすると背後の視線が気になった。
居酒屋の前で立ち止まり、迷う様子を見せながら視界の端で尾行する者を確認する。
そいつはすぐ様、物陰に隠れる。一瞬でしか見えなかったが、帯刀していた。そして、左脚を引き摺っている。
居酒屋から去る。
俺は盗人であり、常に追われる側だ。紅柘榴に会う前は斬られたりもしたが、近頃は軽くくすねる程度で富豪に喧嘩を売るような盗みはしなくなったので追われる回数は減っていた。
尾行されるのは久しぶりだ。
わかりやすい尾行なので挟み撃ちにでもするつもりか。
だが、奴一人しか現れない。ただ、尾けるのが下手なだけだ。
尾行が下手で、左脚を引き摺っても相手は帯刀している。武力では敵わない。ならば、撒いてしまおう。
角を曲がり、人気のない道を選ぶ。そこは行き止まりになっているが、屋根に登ればいいだけのこと。奴ではできないだろう。
選んだ道の暗い影から手が伸ばされた。対応する間もなく襟首をつかまれ、納屋の壁に叩きつけられた。
なぜ?
叩きつけられた背中の痛みよりも疑問が浮かんだ。
こいつは俺を尾行していた。幾度か背後を確認し、曲がる直前も確かにいた。
なのに、こいつは俺の前に現れた。襟首を掴み、俺を抑える。
その理由を話そうとしない。
ほかにも彼女はいくつかの隠し事をしている。
俺はほぼ毎日、人食い塀を訪れているが、会えないと紅柘榴から言われる。その日だけは絶対に来るな、と。
なぜ会えないのか。一度だけ問い詰めたことがある。その時、紅柘榴はひどく激昂して俺の頬を打った。
それほどまでに拒絶するものがある。彼女の隠し事は俺が触れていいものではないと打ち拉がれた。
「今日は来ないで」と辛そうな顔で言われた。それを言われる度に頼りにされない俺の惨めさを彼女は知らない。いっそのこと、拐ってしまおうか。
苛立ちながらも強い衝動を抑える。今はその時ではない。そう心に言い聞かせる。
港の賑わいに耳を傾けながらの露店の品々を値踏みする。
俺が港まで足を運んだのは町を往来する人の話を聞く為だ。盗賊の噂や少し離れた土地の治安を知りたかった。
いずれは塀の外で暮らしたい。
そのことを紅柘榴には話していない。まだ頭の中でぼんやりと浮かんでいるだけだ。
現状維持でもいいではないか、と頭の片隅でもう一人の自分が囁く。
確かに困っている事はない。人食い塀に行けば紅柘榴が迎えてくれる。土産を持ってくれば喜んでくれる。
喜び、はしゃぐ笑顔とは裏腹に暗い影が彼女にはある。そうした表情を時折みかける。影の正体はわからない。話したがらない。だが、影を恐れているのは確かだ。
その影が見えない鎖で紅柘榴を縛り、肌に食い込んでいる。
その鎖を断ち切りたい。紅柘榴が怯えずに済む日常。俺が望んでいるのはそういうものだ。
竹籠に積まれた柘榴の果実が目に入った。紅柘榴と同じ名前の果実。
主人と思われる人物はいない。出かけているのだろう。辺りを気にしながらなんともない素振りで柘榴を懐に忍ばせた。
これを紅柘榴の土産にする。
次は旅籠屋の周りでも行ってみようか。
俺が港から離れ、しばらくすると背後の視線が気になった。
居酒屋の前で立ち止まり、迷う様子を見せながら視界の端で尾行する者を確認する。
そいつはすぐ様、物陰に隠れる。一瞬でしか見えなかったが、帯刀していた。そして、左脚を引き摺っている。
居酒屋から去る。
俺は盗人であり、常に追われる側だ。紅柘榴に会う前は斬られたりもしたが、近頃は軽くくすねる程度で富豪に喧嘩を売るような盗みはしなくなったので追われる回数は減っていた。
尾行されるのは久しぶりだ。
わかりやすい尾行なので挟み撃ちにでもするつもりか。
だが、奴一人しか現れない。ただ、尾けるのが下手なだけだ。
尾行が下手で、左脚を引き摺っても相手は帯刀している。武力では敵わない。ならば、撒いてしまおう。
角を曲がり、人気のない道を選ぶ。そこは行き止まりになっているが、屋根に登ればいいだけのこと。奴ではできないだろう。
選んだ道の暗い影から手が伸ばされた。対応する間もなく襟首をつかまれ、納屋の壁に叩きつけられた。
なぜ?
叩きつけられた背中の痛みよりも疑問が浮かんだ。
こいつは俺を尾行していた。幾度か背後を確認し、曲がる直前も確かにいた。
なのに、こいつは俺の前に現れた。襟首を掴み、俺を抑える。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる