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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 幸せな夢 4
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影から現れたのは武士とは思えない細身だ。筋肉はさほどついていないのに拘束する腕が解けない。
それどころか指一本動かせなくなっている。まるで金縛りだ。
「お前、どうやって」
「騒ぐな」
大声を出してはいない。それに相手は目を逸して言っていたのだ。
俺が黙っていると彼がこちらに目を向ける。
真剣な眼差しをして、敵意もなくまた悪意もない。
「赤眼だな?」
「確かに、そうだが」
俺の呼び名を知っているのは不思議ではない。赤い瞳をしているから「赤眼」。一度も捕まっていないのもその名を広めた理由になる。
「人食い塀の紅柘榴に会っているな?」
それには目を瞠った。人食い塀の噂は鬼や幽霊、妖など様々あるが、美女がいるとうものはない。その上、こいつは紅柘榴の名前まで知っている。
「あの彼女を連れ出そうとしているな?」
「なんで?」
それはまだ曖昧で、口にすら出していないのになぜ知っているのか。
「彼女を救いたいと思ってるな?」
「お前、一体」
声を荒らげようとした。声量が増す前に体中に痛みが走った。
見えない何かが俺を縛っている。その何かが肉に食い込み、痛みで唸る。
「やめろ!」
また目を逸して奴が言う。俺は何も言っていない。指一本動かせない状態では何もできない。
こちらに向き直り、乾いた唇を舌で濡らす。目線が揺れている。何かを迷っているようだ。
「紅柘榴を救いたいか?」
大事なことなのだと繰り返す。
「彼女を、どうするつもりだ?」
低く唸るような問い。混乱していた。状況を整理する余裕もない。
俺だけしか知らないはずだ。だというのに他者から紅柘榴の名前が出た。
しかも、彼女をどうしたいかと聞いてくる。どうするつもりなのか、聞きたいのは俺のほうだ。
「お前はべにのなんだ?何者だ?彼女をどうする気だ?」
声を荒らげていた。冷静さを欠いた声色をしている。
奴は悩んだ末、名乗る。
「俺は影弥だ。紅柘榴とは」
説明を続けようとしたが、影弥が目を逸らす。
「しばらく黙っててくれないか!」
「さっきから誰と話してる?」
俺に向けられていない怒声。影弥という謎の男は何をしたいのか。
話が進まず、彼自身も苛立っている様子だ。いや、焦っている?
「今は駄目だ」
影弥がこちらに向き直り、何を言い出すのかと思えば脈絡のない命令だ。俺は眉を顰める。
「彼女を連れ出すのなら来年にしろ。今は駄目だ」
「なぜ」
「いいから聞け」
拘束する腕が更に強くなった。痛みに呻いて口を閉ざす。
「入江から西に進んで山を登れ。ひと際目立つ松の木を目指して進むんだ。そこでもう一度落ち合おう」
こいつは俺を嵌めようとしているのか?それとも紅柘榴を手中にしたいのか?
好き勝手に言っているが、突如現れた謎の男に従えるはずもない。
「必ずだ。必ず来い。そうでないとどちらも失ってしまう」
語気が強くなった口調は必死そのものだ。切迫した形相で「失う」と言われればこちらも引き下がれない。
「失うって何をだ?べにをか?」
口にするだけでも恐ろしい。今更、彼女なしで生きていく自信がない。
「失うのは二つだ。紅柘榴の」
話す途中、影弥が振り向く。視線の先には誰もいないというのに彼は了承したように頷く。
「時間切れだ」
そう言うと束縛が解けた。金縛りにあっていた身体は痛みから解放され、足が蹌踉めき、尻もちをつく。
「言われた通りにするんだ。いいな」
高圧的な物言いに腹が立ち、抗議しようと顔を上げた。
そこに影弥の姿はなくなっていた。立ち去っていく足音もなかった。奴は忽然と姿を消したのだ。
ふと気付くと懐に忍ばせた柘榴がなくなっている。
影弥に盗られた?
そんな仕草はなかった。奴の両腕は俺を拘束し、塞がっていた。できるはずがない。
「くそっ一体、なんだよ」
悪態をつき、天を仰ぐ。
影弥と名乗った彼は紅柘榴を知っていた。俺が連れ出そうとしていることも。そして、何故か落ち合う約束まで一方的にされた。
それに従うかどうかも判断できない。そのぐらいに頭は混乱していた。
整理のつかない状態で、紅柘榴に会いたいとそんなことを思っていた。
それどころか指一本動かせなくなっている。まるで金縛りだ。
「お前、どうやって」
「騒ぐな」
大声を出してはいない。それに相手は目を逸して言っていたのだ。
俺が黙っていると彼がこちらに目を向ける。
真剣な眼差しをして、敵意もなくまた悪意もない。
「赤眼だな?」
「確かに、そうだが」
俺の呼び名を知っているのは不思議ではない。赤い瞳をしているから「赤眼」。一度も捕まっていないのもその名を広めた理由になる。
「人食い塀の紅柘榴に会っているな?」
それには目を瞠った。人食い塀の噂は鬼や幽霊、妖など様々あるが、美女がいるとうものはない。その上、こいつは紅柘榴の名前まで知っている。
「あの彼女を連れ出そうとしているな?」
「なんで?」
それはまだ曖昧で、口にすら出していないのになぜ知っているのか。
「彼女を救いたいと思ってるな?」
「お前、一体」
声を荒らげようとした。声量が増す前に体中に痛みが走った。
見えない何かが俺を縛っている。その何かが肉に食い込み、痛みで唸る。
「やめろ!」
また目を逸して奴が言う。俺は何も言っていない。指一本動かせない状態では何もできない。
こちらに向き直り、乾いた唇を舌で濡らす。目線が揺れている。何かを迷っているようだ。
「紅柘榴を救いたいか?」
大事なことなのだと繰り返す。
「彼女を、どうするつもりだ?」
低く唸るような問い。混乱していた。状況を整理する余裕もない。
俺だけしか知らないはずだ。だというのに他者から紅柘榴の名前が出た。
しかも、彼女をどうしたいかと聞いてくる。どうするつもりなのか、聞きたいのは俺のほうだ。
「お前はべにのなんだ?何者だ?彼女をどうする気だ?」
声を荒らげていた。冷静さを欠いた声色をしている。
奴は悩んだ末、名乗る。
「俺は影弥だ。紅柘榴とは」
説明を続けようとしたが、影弥が目を逸らす。
「しばらく黙っててくれないか!」
「さっきから誰と話してる?」
俺に向けられていない怒声。影弥という謎の男は何をしたいのか。
話が進まず、彼自身も苛立っている様子だ。いや、焦っている?
「今は駄目だ」
影弥がこちらに向き直り、何を言い出すのかと思えば脈絡のない命令だ。俺は眉を顰める。
「彼女を連れ出すのなら来年にしろ。今は駄目だ」
「なぜ」
「いいから聞け」
拘束する腕が更に強くなった。痛みに呻いて口を閉ざす。
「入江から西に進んで山を登れ。ひと際目立つ松の木を目指して進むんだ。そこでもう一度落ち合おう」
こいつは俺を嵌めようとしているのか?それとも紅柘榴を手中にしたいのか?
好き勝手に言っているが、突如現れた謎の男に従えるはずもない。
「必ずだ。必ず来い。そうでないとどちらも失ってしまう」
語気が強くなった口調は必死そのものだ。切迫した形相で「失う」と言われればこちらも引き下がれない。
「失うって何をだ?べにをか?」
口にするだけでも恐ろしい。今更、彼女なしで生きていく自信がない。
「失うのは二つだ。紅柘榴の」
話す途中、影弥が振り向く。視線の先には誰もいないというのに彼は了承したように頷く。
「時間切れだ」
そう言うと束縛が解けた。金縛りにあっていた身体は痛みから解放され、足が蹌踉めき、尻もちをつく。
「言われた通りにするんだ。いいな」
高圧的な物言いに腹が立ち、抗議しようと顔を上げた。
そこに影弥の姿はなくなっていた。立ち去っていく足音もなかった。奴は忽然と姿を消したのだ。
ふと気付くと懐に忍ばせた柘榴がなくなっている。
影弥に盗られた?
そんな仕草はなかった。奴の両腕は俺を拘束し、塞がっていた。できるはずがない。
「くそっ一体、なんだよ」
悪態をつき、天を仰ぐ。
影弥と名乗った彼は紅柘榴を知っていた。俺が連れ出そうとしていることも。そして、何故か落ち合う約束まで一方的にされた。
それに従うかどうかも判断できない。そのぐらいに頭は混乱していた。
整理のつかない状態で、紅柘榴に会いたいとそんなことを思っていた。
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