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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 崩れる 3
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手足の冷たさが辛い冬を乗り越えてもまだ寒さが残っている。
昨日に続いて今日も彼に会えない。しかも、今日は蝶男が訪れる。
だからか、溜息の数が多くなっていた。
庭には北風に揺れる色鮮やかな花々がある。
冬は草木が眠る季節、秋は枯葉の季節。それらを知ったのはついこの間の事。彼が教えてくれた。
燃える色に彩られた枯葉の風景が目に焼きついている。
もう一度、観たい。
「会いたいな」
小さな声は北風が攫っていった。
憂鬱に息を落とすと塀の外から幼い子供たちの喧騒が聞こえてきた。
子供とは珍しい。人食い塀は人里離れた森の奥地にある。子供だけで来る事はなかった。
「怖いわけないだろう!」
小児の主張が塀の中にいる私まで届いた。楽しく遊んでいるものだと思っていたが、違うみたい。
「だったらやってみろよ」
これはまた別の小児のもの。
会話は断片的でしか聞こえない。人食い塀の前で何をしているのかと訝しんで耳を澄ましてみても会話の内容は読み取れない。
すると、今度は瓦屋根から子供の顔がひょっこりと出てきた。
小児と目が合い、私は驚きの余り声を失う。唖然として思考すら忘れていた。
そうしているうちに男児は屋根に跨り、塀の中へと降り立つ。
「鬼かと思ったら別嬪さんか」
前に立つ男児は私を見上げて言う。
「な、何しにきたの?」
すっかり動揺してしてしまった私は舌を噛む。
いつもなら、ここに入った時点で殺している。それをしないのは相手が十にも満たない子供で純朴な目でこちらを見ていたから。そして、私は子供の接し方がよくわかっていない。
子供に見られると心臓の音が速くなって、緊張の糸が身体中を縛る。
怖がらなくてもいいと言われても、何を考えているのかわからず、すぐに泣く生き物と会話をする自分が想像できない。
小児は私の緊張を余所に喋る。
「人食い塀に鬼が住んでるってあいつらが言うんだ。俺はいないって言ったけど、そしたら証明してみろって」
なるほどね。ただの肝試しに人食い塀は使われたわけね。
「でも、こんな別嬪さんがいるなら毎日来てもいいかもな」
褒められて、少しくすぐったい。まさか、彼以外の人がそんなことを言われるとは。しかも子供に。
複雑な心境を片隅においやって、緊張した心臓を悟られないよう子供に話しかける。
「あのね、私は外の人と関わったらいけないの」
子供にわかりやすい口調を意識して話す。今一、内容が伝わっていない男児は首を傾げる。
「あなたもここにきてはいけないのよ。だから、ね?」
「何が駄目なんだよ。家に閉じこもってばかりだと働き者に失礼だっておっかあが言ってたぞ。人とも関わっていかないと怖いものが増える一方なんだぞ」
子供に諭されたみたいで何も言えなくなる。
いや、今はそんなことどうでもいいの。
蝶男が来る。子供は貴重だ。この子の命が脅かされる前に塀の外に追い出さないと。できれば穏便に。
「別嬪さんは一人なのか? 一人なら俺たちと遊ぶか?」
「えっと」
どう返せばいいのかな。
塀に入ってくるのが下衆野郎だったら瞬殺で済んだのに。それが純朴な男児なのでいつものやり方が通らない。
「ここにはね、怖い鬼がいるのよ」
小児が言ってていた「鬼」を活用する案が思い浮かんだ。
「子供が大好物の鬼よ。一口で食べちゃうんだから。鬼が来る前に帰ったほうが良いと思うな」
これで怖がってくれればいい。
「ここには別嬪さんしかいないだろ」
全く怖がっていない。信じてもらえていない。
「これから来るのよ」
「でも、別嬪さんは無事だろ」
「いいから早く出て行ったよ!」
思い通りにならない苛立ちが大声となって表れた。焦りもあった。
私に害を与える奴なら躊躇いもせずに喉を裂いていた。私の前に立つこの子は気を遣ってくれている。そんな子を犠牲にはしたくない。
小児が驚いて目を丸くする。
怒鳴ってしまった。泣かれるかな。
目を丸くしていた小児は私ではなく、私の背後を向いていた。
振り返れば、こちらを見下ろす蝶男がいた。
「ずいぶんと優しくなったね
昨日に続いて今日も彼に会えない。しかも、今日は蝶男が訪れる。
だからか、溜息の数が多くなっていた。
庭には北風に揺れる色鮮やかな花々がある。
冬は草木が眠る季節、秋は枯葉の季節。それらを知ったのはついこの間の事。彼が教えてくれた。
燃える色に彩られた枯葉の風景が目に焼きついている。
もう一度、観たい。
「会いたいな」
小さな声は北風が攫っていった。
憂鬱に息を落とすと塀の外から幼い子供たちの喧騒が聞こえてきた。
子供とは珍しい。人食い塀は人里離れた森の奥地にある。子供だけで来る事はなかった。
「怖いわけないだろう!」
小児の主張が塀の中にいる私まで届いた。楽しく遊んでいるものだと思っていたが、違うみたい。
「だったらやってみろよ」
これはまた別の小児のもの。
会話は断片的でしか聞こえない。人食い塀の前で何をしているのかと訝しんで耳を澄ましてみても会話の内容は読み取れない。
すると、今度は瓦屋根から子供の顔がひょっこりと出てきた。
小児と目が合い、私は驚きの余り声を失う。唖然として思考すら忘れていた。
そうしているうちに男児は屋根に跨り、塀の中へと降り立つ。
「鬼かと思ったら別嬪さんか」
前に立つ男児は私を見上げて言う。
「な、何しにきたの?」
すっかり動揺してしてしまった私は舌を噛む。
いつもなら、ここに入った時点で殺している。それをしないのは相手が十にも満たない子供で純朴な目でこちらを見ていたから。そして、私は子供の接し方がよくわかっていない。
子供に見られると心臓の音が速くなって、緊張の糸が身体中を縛る。
怖がらなくてもいいと言われても、何を考えているのかわからず、すぐに泣く生き物と会話をする自分が想像できない。
小児は私の緊張を余所に喋る。
「人食い塀に鬼が住んでるってあいつらが言うんだ。俺はいないって言ったけど、そしたら証明してみろって」
なるほどね。ただの肝試しに人食い塀は使われたわけね。
「でも、こんな別嬪さんがいるなら毎日来てもいいかもな」
褒められて、少しくすぐったい。まさか、彼以外の人がそんなことを言われるとは。しかも子供に。
複雑な心境を片隅においやって、緊張した心臓を悟られないよう子供に話しかける。
「あのね、私は外の人と関わったらいけないの」
子供にわかりやすい口調を意識して話す。今一、内容が伝わっていない男児は首を傾げる。
「あなたもここにきてはいけないのよ。だから、ね?」
「何が駄目なんだよ。家に閉じこもってばかりだと働き者に失礼だっておっかあが言ってたぞ。人とも関わっていかないと怖いものが増える一方なんだぞ」
子供に諭されたみたいで何も言えなくなる。
いや、今はそんなことどうでもいいの。
蝶男が来る。子供は貴重だ。この子の命が脅かされる前に塀の外に追い出さないと。できれば穏便に。
「別嬪さんは一人なのか? 一人なら俺たちと遊ぶか?」
「えっと」
どう返せばいいのかな。
塀に入ってくるのが下衆野郎だったら瞬殺で済んだのに。それが純朴な男児なのでいつものやり方が通らない。
「ここにはね、怖い鬼がいるのよ」
小児が言ってていた「鬼」を活用する案が思い浮かんだ。
「子供が大好物の鬼よ。一口で食べちゃうんだから。鬼が来る前に帰ったほうが良いと思うな」
これで怖がってくれればいい。
「ここには別嬪さんしかいないだろ」
全く怖がっていない。信じてもらえていない。
「これから来るのよ」
「でも、別嬪さんは無事だろ」
「いいから早く出て行ったよ!」
思い通りにならない苛立ちが大声となって表れた。焦りもあった。
私に害を与える奴なら躊躇いもせずに喉を裂いていた。私の前に立つこの子は気を遣ってくれている。そんな子を犠牲にはしたくない。
小児が驚いて目を丸くする。
怒鳴ってしまった。泣かれるかな。
目を丸くしていた小児は私ではなく、私の背後を向いていた。
振り返れば、こちらを見下ろす蝶男がいた。
「ずいぶんと優しくなったね
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